第19話 火薬花

 4番通路を歩いて行く。

 リルリルさんに教えてもらった情報によると、目的の火薬花はいくつかの場所に咲いているらしい。その中で一番近いところに私は行こうと思う。

 このまま4番通路をまっすぐに行って、小さい泉を見つけたら左の道に入る。そして黄色いお花畑が見えたらその真ん中を突っ切って行く。さらにその先にある細い道を歩いて行くと火薬花の群生地があるんだそうだ。


「わざわざ遠いところに行く理由はないし、一番近いところでいいよね」

 遠いところに行ったら強いモンスターが出るし。そうなったらまた命がけになっちゃうし。

「私は戦うのは苦手だから、安全を最優先でやっていくよ」


 とりあえず黄色いお花畑まで来た。

 ちょっと申し訳ない気持ちになりながら真ん中を突っ切っていく。いくつかの花を踏んじゃったと思う。小さい花がびっしり咲いていたしなかなか器用に避けられなかったよ。

 次は細い道だね。


「うわー、こんなけもの道みたいなところに入るとは思わなかったよ」


 このダンジョンには毎日来てるけど今まで歩いた中で間違いなく一番細い道だよ。壁が近くて圧迫感がすごい。大きな男の人だと通れなさそうな道だと思った。

 その細い道を通り抜けると広い場所に出た。


「ここはかなり広い場所だね」


 さっきまで細い道にいたし開放感がある。高校の体育館よりかは広いかな。

 その広い場所の右奥に赤い花がたくさん咲いている場所があった。あれが火薬花の群生地だね。

 何匹かモンスターがいるけど弱いやつだけだから気にしない。

 私は火薬花の群生地へと歩いて行った。


「火薬くさい。花火のあとみたい」

 きっとつぼみを開いて花を咲かせるために、火薬を使って爆発させた火薬花があったんだと思う。

「改めて考えるとやっぱり変な植物だ」

 地球にはきっとそんな花はないと思う。


 群生地にたどりついた。火薬花は赤くて綺麗な花だった。ただ、普通の花よりもだいぶ花弁が分厚い。ちょっと触ってみたらけっこう重たい花弁だった。ぶよぶよで衝撃をかなり吸収しそう。


 つぼみの間はこの重さとぶよぶよさで外敵から身を守ってるんだね。ただ、つぼみを堅く守りすぎてしまったがゆえに、花弁を開かせるのにパワーが必要になったんだと思う。それでつぼみの中に火薬を生成して爆破しないといけなくなったんだ。


「で、こっちがつぼみ」


 つぼみ状態だとけっこうな高さがある。私の胸くらいの高さがあるよ。

 ちょっと指でつぼみをつついてみたらかなりの重量があった。きっと中に火薬が詰まってるんだと思う。


「ごめんね」

 と言いながら容赦なく茎を持って引っこ抜いた。

「重いっ。かなりパワーが必要だ。これは重労働だね」

 一本、二本、三本――。どんどん引っこ抜いてアイテム空間へと収納する。


「ふう、レベルを上げておいてよかった」


 パワーが上がってなかったら引っこ抜けなかったかもしれない。

 六本、七本、八本――。順調だ。しかし――。


 ボッゴン!

 にぶい爆発音が響いた。びっくりして私は後ろを振り向いた。そこに、私の顎くらいの高さの何かがいた。


「キーーーーッ、キッキッキッキッキーーーーーーーッ!」


 モンスターだ。高い音で笑っている。口の端からは黒い煙が漏れ出ていた。手には火薬花の茎。

 茎はいらないのかポイッと捨てていた。


「まさか、つぼみを食べたの?」


 しかも、つぼみに含まれている火薬ごとだ。だから口の中で爆発を起こしたんだと思う。

 きっと火薬花ってつぼみ状態だと美味しいんだろうね。じゃなきゃ、火薬ごと強引に食べたりはしないと思うし。


「どうしよう。知らないモンスターだ」


 しかも、かなり大きい。間違いなく強いと思う。

 見た目は二足歩行の赤いトカゲだ。

 目は爬虫類らしくギョロッとしている。私としては苦手な見た目だけど、爬虫類の愛好家の中には可愛いって言う人がいるかもしれないなって感じた。


「逃げた方がいいよね」


 攻略推奨レベルすら知らない相手だし。

 でも――。赤いトカゲは次のつぼみに向かって歩いて行った。

 今なら余裕で逃げられる。あのトカゲは私に興味がないみたいだから。でも、ここで逃げたら火薬花のつぼみは食べ尽くされる気がする。


「どうしよう。どうしたらいいんだろう」


 クエスト達成に必要な火薬花の本数はまだ10本以上ある。赤いトカゲに近づかずにゲットするには多すぎる。

 他の群生地に行けばいいんだろうけど遠いんだよね。

 それにそっちには、あの赤いトカゲよりももっと強いモンスターが絶対にいる。今の私なんかじゃまったく歯が立たない可能性が高い強力なモンスターが……。


「それならあの赤いトカゲをどうにかした方がいいよね」


 私は覚悟を決めた。そして、リュックに入れていたハンマーを手に取った。

 あのトカゲは私に背中を向けている。今なら不意をつける。

 私は足音を消して赤いトカゲに近づいて行った。



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