第18話 新たなるクエスト
一日が経過した。
ポーションの作成時間が短縮されたのが嬉しくてたまらないなー。私は学校にいる間、ずっとにやついていたと思う。にやつき過ぎて変な人に思われているかも。
まあだからと言っても「今日ずっと嬉しそうだけど、なんか良いことでもあったのー?」って教室で聞いてくるような人はいないんだけどね。だって私には友達がいないし。
はあ……、むなしい現実を直視したら気持ちが冷めてきてしまった。いつも通りの私のテンションに戻っていく。
チャイムが教室に鳴り響く。
これで授業は終わりだね。私は誰にも挨拶することなく一人で学校をあとにした。そのままの足でダンジョンへと向かう。
「さーて、今日もポーション作りを頑張りますかー」
昨日は三番通路に入って素材を集めたから今日は四番通路にしようかな。マンネリ化をふせぐために私は毎日違う通路に行ってるんだよね。
「……さーん!」
誰かが何か叫んでる? まあいいか。
クエストの石版のところには今日も人がいっぱい集まっているみたいだ。それを遠目に見ながら私は歩いて行く。
「……さーん! ……雪さーん!」
クエストかー。そろそろまたやってもいいかもね。危ないのは絶対にやりたくないけど。みんな大変なクエストをよく毎日のようにやるよねー。私にはちょっと無理。
「紗雪さーん! おーい、紗・雪・さーん!」
「ん? え? 私の名前が呼ばれた?」
けっこうスルーしてしまった気がする。まさかダンジョンで誰かに名前を呼ばれることがあるとは思ってなかったし。
私って日頃から人に名前を呼ばれることがないんだよね。だって、友達がいないから。だから急に呼ばれても反応が鈍かったりする……。
声の主を確認してみるとリルリルさんだった。
すごく納得した。リルリルさんはこのダンジョンで唯一、私とコミュニケーションをとってくれる人だからね。
私が足を止めるとリルリルさんはホッとしていた。私に両手を大きく振ってくれる。
私はリルリルさんのところへと小走りで向かった。
「紗雪さん、こんにちはー。ごめんなさい、大きな声で呼び止めてしまって」
「こんにちは。いえいえ、すぐに気が付かなくてすみません」
しかし、どうしたんだろうか。リルリルさんがこの広場に来るのは普段だともう少し遅い時間のはずだけど。なにか特別なことでもあったんだろうか。
「実は紗雪さんにお願いしたいことがあるんです」
「私にですか?」
「はい。クエストをお願いしたいのですが」
うわー、そうくるかー。私は広場の中央奥にある石版に視線を向けた。あの石版にはいろいろなクエストが彫られている。簡単なものはなかなかないんだよね。私、大変なクエストはあんまりやりたくなかったりするんだけど。
「あ、いえ、今回のクエストはあちらの石版ではなく」
「え。別にあるんですか?」
「実はクエストって、ダンジョン神だけでなくて我々ダンジョンフォークも発行できるんですよ」
え、そうなんだ。私は知らない情報だった。ネットにも載ってなかったような……。もしかしたらけっこうレアなことなのかも。
「そのクエストってしょっちゅう発行してるんですか?」
「いえ、たまにだけですね。何か困ったことがあったときにだけ発行します。ちなみに攻略をお願いするのは信頼できるごく一部の人だけなんですよ」
へえー。つまり、私ってリルリルさんに信頼してもらえてたんだ。ちょっと嬉しいな。えへへへ……。
でも、一つ問題がある。
「リルリルさん、私ってあまりがっつり攻略している勢ではないので、難しいクエストだと対応できないと思いますよ……」
「大丈夫ですよ。そんな紗雪さんにぴったりのクエストですから」
「それなら安心ですけど、どんな内容か聞いてもいいですか?」
「はい。植物採取系ですね。火薬花という植物を取ってきて欲しいんです」
「なんとも物騒な名前の植物……」
「そうなんですよ。火薬を大量に含んでいる植物なので取り扱いには要注意ですよ」
「え? 比喩とかではなくて本物の火薬ってことですか?」
「はい。本物です」
うわー、なんて危ない植物なんだろう。ダンジョンにはそんな危険植物が生えてるんだ。
「ちなみに、植物なのに危険な火薬をたくさん含んでいるところに理由ってあったりします?」
「はい。火薬花って実はつぼみが硬くて硬くて硬すぎるんですよ。そのせいで簡単には花びらが開かない植物なんです」
一生咲けない花の気がする……。どうやったら咲けるんだろうか。
「それでどうするかというとですね、花を咲かせたいときつぼみの内側にたまっている火薬をドカーンと爆発させるんです。そうすることで強引に花びらを咲かせるんですよね」
いったいどれだけ硬いんだろうか、そのつぼみ……。
地球には存在しないタイプの植物だね。植物学者さんが大喜びしそう。
「というわけで、その火薬花を20本取ってきて欲しいです。なるべく重いつぼみがいいですね。その方が火薬がたくさん詰まってますから」
「これって危ないモンスターとは戦わなくても大丈夫なクエストですか?」
「はい。花を摘むだけですので」
「じゃあ、できそうです。私、やりますよ」
「ありがとうございます。では、クエストを発行しますね」
リルリルさんが画面を操作する。すると、私の方にメッセージウインドウが表示された。
どうやらクエストが発行されたらしい。私はそのクエストをすぐに受注した。
ちなみに、報酬は5000ポンだった。かなり良い稼ぎになるね。
クエストの説明を読んでみると、詳しい事情が書いてあった。
昨今のダンジョンブームで火薬系アイテムが想像よりも売れてしまい、ダンジョンフォークの里にある火薬の備蓄量が心もとなくなってしまったんだそうだ。だからなるべく早めに火薬の備蓄を増やしたいんだって。
つまり、誰かの役に立てるクエストってことだね。ちょっとやる気が増したよ。
クエストの舞台は4番通路の先にある。
ちょうど今日行こうと思ってた通路だし、ちょうどいいって思った。
「では、リルリルさん、いってきますね」
「はい、よろしくお願いします。あ、火薬花は危ないので摘んだらアイテム空間に入れて持ち運びしてくださいね」
「はーい」
いってきますと手を振ってから背を向けた。4番通路へと入って行く。
クエスト攻略、スタートだ。
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