第16話 体力測定

 ブレザーを脱ぐ。リボンをほどく、ブラウスのボタンを外していく。すると、ぽよんとブラジャーに包まれた私のおっぱいが外気にさらされた。


「はあ~あ……。これから体育の授業で運動能力測定か――」


 めんどくさいことこのうえない。

 ちなみに私はそんなに真面目に体育の授業をやるタイプじゃない。だからスポブラはつけてないよ。普通のブラジャーだ。白地でお花模様がいっぱいの可愛いブラジャーだね。


「あれ、もしかしたら私のって子供っぽいブラかも?」

 ぜんぜん意識してなかったけど、私は女子高生になったんだった。


「忘れもしない、中学一年生のときの最初の体育のときだ。クラスで私だけブラをつけてなくて、しかもパンツがウサギさんのバックプリントだったことを……」


 あれは恥ずかしいなんてものじゃなかった。

 自分だけまだ子供のつもりで、クラスの女子たちはみんな大人の階段を一歩上っていたんだから。


「下着を少しでも大人っぽくアップデートするんならさ、ちゃんと私にも情報をシェアしてよね……」


 まあ、シェアしてくれる友達はいないんだけどね……。ああ、むなしい。ぼっち生活よ……。

 というわけで、うちのクラスと隣のクラスの女子の着替えを観察してみることにする。二つのクラスの女子が合同で一つの教室で着替えてるんだよね。

 まずは派手な感じのギャル風味の子だ。気になるブラジャーは――。


「うわ、布地がぜんぜんない」


 私生活が心配になってしまうレベルの危ない下着だった。まあ私とはジャンルが違い過ぎる人だけど。


「住む世界が違い過ぎるし、あれは参考にしないぞっと」

 続いてはクラス委員の女の子のブラジャーをチェック――。


「え。真っ黒でレースの下着だ。ちょっと透けてない?」

 真面目な人だと思っていたのに潜在的には違うのかもしれない。うわー、ショック。見なければよかった。

 気を取り直して次に行こう。あっちの可愛らしい女の子集団のブラジャーをチェックする――。


「あらあらまあまあ、カラフルで可愛いらしいこと」


 とても好感が持てるね。でも、みんな柄は何もない……大人っぽいブラジャーだ。

 改めて自分のブラジャーを見てみる。お花模様がいっぱいだ。やっぱり私って子供っぽいのかも。


「はあ……、夏までには買い替えようかな……」


 とりあえず体育がある日の分のブラジャーくらいは早めに買っておこうかな。どうしても着替えでブラジャーを見られちゃうし。

 買うときの参考にもう一度みんなのブラジャーをチェックしておく。


 ……。……。……女の子のランジェリー姿って可愛いなぁ。

 私もその可愛いの一員になれているんだろうか。私だって花も恥じらう女子高生。ちゃんと可愛いランジェリー姿の女の子になれていたりしないかな。


 客観的に自分とみんなを見比べてみる。

 ……。……。……ふう、やめよう。むなしくなる。

 とりあえずブラジャーの他にも発見したことがあったし、それは良かったかな。

 私、けっこう大きい方みたいだ。おっぱいが。


「大絶賛、発育中~」


 私、Dカップなんだけど、Dカップでいるのはあと何ヶ月かな。Cカップの期間は一年もなかったし、Dカップもすぐに卒業しちゃうかもしれない。

 ちなみに実は形もけっこういいんだよ。ひそかな自慢なんだよね。まあ、披露する機会は永遠に来ないと思うけどね。


 そろそろ観察はおしまい。私は体操服にパパッと着替えた。なんの変哲もないズボンだ。シャツはもちろん清潔な白。

 まだ春で涼しいしジャージを着込んで。さて、行きますか。


 私は小さい頃から走力も筋力もたいしたことはない。こんな私の運動能力を調べてどうするっていうんだろうね。クラスメイトの前でむなしい思いをするだけなのに。

 一緒に行こうーなんて言う相手はいないから、一人で集合場所の体育館へと向かう。


 ……ん? あれ? 気がついたら隣のクラスの女子集団に入っちゃってる。

 あれよあれよという間に、私は隣のクラスの女子と一緒に運動能力を測定することになってしまった。

 まあどうせクラスに友達はいなかったし別にいいか。


 ということでまずは垂直跳びをする。

「うわ、あなたすごいねー!」

 なぜか褒められた。次は反復横跳びをする。

「すごっ。なにか運動をやってたのー?」

 あれ? やたら褒められてるぞ? 次は柔軟性をチェック。

 これはそんなに得意じゃないから褒められなかった。でも――。

 外に出たらすごかった。


 まずは短距離走。

「「「すっごーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」」」

 走り幅跳び。

「「「女の子ってそんなに跳べるのーーーーーーーーー?」」」

 遠投。

「「「男子並みじゃなーーーーーーーーーーーーーーーい?」」」


 なんかよく分からないけど、隣のクラスの女子に褒められまくってしまった。男子並みはちょっと褒め過ぎだと思うけど、どうやら私の運動能力がかなりすごかったらしい。

 私って運動は小さい頃からダメな方なのにな。もしかして進学校に入ったから、運動よりも勉強が得意な人たちばっかりが集まってるんだろうか。


 なんかいろんな運動部から誘いを受けてしまったよ。私、運動部に入るようなタイプじゃないのに。

 誘いにのっていたら友達ができたんだろうか。……なんて思わないこともないけど、不得手なことをやる部活に入ってもしんどいだけだと思うし、断ったことに後悔はないかな。




「――という感じのことが今日あったんですよ」

 私の唯一の話し相手であるリルリルさんに報告してみた。リルリルさんはすごく真面目に聞いてくれた。


「なるほど。それはきっとレベルが上がってステータスがアップしているからですね」

「え?」

「実感はないですか? 前よりも重いものを持ち上げられるようになったとか、階段を三段飛ばしで上れるようになったとか」

「いやー、実感はないですねー」


 でも納得はした。私って知らず知らずの間に強くなっていたんだね。

 そういえば雑草モンスターのウォーキングウィードはずいぶん簡単に倒せたっけ。あれもレベルが上がったおかげだったんだね。


「いいですね、レベルアップって」

「でしょう?」

「ますます張り切ってポーションを作りたくなりました」

「〈ポーションクリエイト〉は当たりスキルだったでしょう?」

「間違いなく大当たりですね」


 ポーションを作るだけで経験値がどんどん入ってくるんだもん。簡単だし楽しいし当たりすぎるよ。

 ますますやる気が出た。もっともっとポーションを作るぞー。



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