第8話 クエストを選ぼう!
ダンジョンの広場にはいつも人が多い。特に中央奥にある石版のあたりにはいつもたくさんの人が集まっているんだよね。
ぼっち気質な私は、人の密集地っていうだけでもう嫌悪感が湧いてしまう。だからこれまでは石版のあたりには近づかないでいたんだけど――。
「でも、一歩前に踏み出さないとね」
別に友達を作れって無理難題なことを言われているわけじゃないんだし。石版の内容を確認するだけなんだから。
石版が土からいくつも出てきているけど、そのなかでも人の少ないところを選んで内容を確認しに行く。
二人組の女子がなにやらがっかりしている。
「これ、前にやったやつだー。たまに大怪我する人がでるやつ」
「あたしたちは二回目だし報酬変わってるね」
「だねー」
他のにしようよって言って別の石版のところへと歩いていった。おかげでこの石版の前には私一人になった。ゆっくり見れるね。
石版の前に立つ。
よく分からない言語で文字が並んでいる。下にはモンスターの絵が彫られていた。
「これがダンジョン神が地球人に発行するクエストかー」
私の目の前にふわっとメッセージウインドウが出現した。どれどれ――。
『は~あい。あたし、ダンジョン神。3番通路の先の小道のさらに先に、炎をまとったありんこがいるんだよね~。そいつ超迷惑でさ、ダンジョンに穴を開けやがるんだよ~。だからあたし、とっても困ってるの。ということで、これを見てるきみにお願い。そのありんこを倒してちょ~だい☆ よろぴくね~☆』
ずこー。
え、これ、誰にツッコミを入れればいいやつ? ぼっちでコミュ力が低い私だけど、これがツッコミを入れないといけないやつだってことくらいは分かるよ。
「ダンジョン神さん……、こんなにふわふわして明るくて軽い感じの神様だったとは……」
もっと勇ましい感じだと思っていたよ。神様も性格が幅広いんだね。
これは個性としてうけとめようっと。現代風のテンション高めな神様がいたっていいじゃない。
『初回攻略報酬:1000ポン、スキルポイント 5』
やった。このクエストはスキルポイントが入るみたいだね。
『攻略推奨レベル:5』
私はレベルが10あるから、このクエストは余裕だ。
「このクエストに決めた」
スキルポイントが5も上がれば、また〈ポーションクリエイト〉をレベルアップできるし。
私の目の前に『このクエストを受注しますか?』『はい』『いいえ』と選択肢が出た。
「はい、っと」
というわけで、クエスト『炎をまとったありんこを倒せ!』を受注した。
3番通路は広場の入り口側から見て左から三番目の道だ。道の入口に石の立て札があって、そこに3番通路って書いてあるんだよね。
私は3番通路に入って行った。
「いっきに人の声が聞こえなくなったね」
広場から離れると、これから一人で怖い道を進んで行かないといけないんだっていう恐怖感が襲いかかってくる。
「足がすくむ感じになるけど気にしないよ」
だってその恐怖感がダンジョンの醍醐味の一つでもあるんだからね。学校帰りに味わうスリルは人生の良いスパイスなんだ。
「まあ、友達が一人くらいいてくれた方が嬉しいけどね……」
いつかできるといいな、友達。できれば、一緒にダンジョンを楽しんでくれる人がいい。そんな都合の良い人がいるかは分からないけどね。
20分ほど歩いて、おそらく目的の場所についたと思う。
通って来た小道は狭くて一人が歩くのがやっとだったけど、そこを抜けたらけっこう広い場所に出た。
ところどころに雑草が生えてるね。
お、薬草発見。ラッキーだ。ゲットしようっと。クエストのついでに薬草をゲットできたのは嬉しいね。いろいろと効率が良い仕事ができた感じがするよ。
「さて、ありんこはどこかな」
ハンマーをリュックから出した。両手で持ちながら歩く。少しへっぴり腰だ。
ドキドキするね。今日まで基本的にはスライムしか狩ってこなかったから、本当にありんこのモンスターを倒せるのかどうか、ちょっと自信がない。
攻略推奨レベルは余裕で越えているから大丈夫だとは思うんだけど……。緊張感からか、私の呼吸が浅くなっていった。思考まで浅くなっていく。
気がつけば足音を立てずに歩いていた。静かに歩くことでどんな音でも聞き逃さないようにして警戒しているんだと思う。防衛本能的な行動だ。
ちなみにポーションはさっきクリエイト完了している。だから何かあったらそれを飲みながら来た道を帰ればいい。
私はぼっちだから誰にも助けてもらえないし、安全優先で頑張ろうと思う。
右を見る。左を見る。念のために上も見る。
「何もいないね」
なんだ。そんなに警戒することなかったのかな。
案外、歩いている間に知らず知らずのうちに踏み潰しちゃってたりして。
……あれ? そういえばありんこモンスターのサイズ感を知らないな。勝手に手の平サイズくらいを想像していたんだけど、その認識で思考を停止するのは改めた方がいいかもしれないな。
壁から大きな岩が突き出しているところがあるね。回り込んで裏側を見てみた。
「ここにも何もいない。ん? 痛い?」
私の右の足首に強烈な痛みが走った――。
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