第3話 綻《テン》の章
泣き叫ぶ少年の腕を老人が掴む。果たして人の体はこれほど震えるものなのかと思うほどに、少年はがたがたと震えて「嫌だ嫌だ」と喚く。もはやそれは痙攣と言って差し支えないほどの震え。
切り落とされる。
抉られる。
削ぎ落とされる。
掻き出される。
少年の頭の中を恐ろしげな
怖がらせてすまなかったな坊主──
そう老人が言うと同時、少年の体がぐいっと引っ張られ、
ここは穢れている──
穢れを払おうとして穢れたのだ──
私は
果たして穢れが先か咎が先か──
朧気な意識の少年の耳に、老人の声がはっきりと届く。少年がなんとか上体を起こし、霞む目で老人がいる
地獄へ落ちると言われたのだ──
断ることなど出来なかった──
だがそれも今日で終わる──
私が命を
ずるり──と、樽から
よく聞け坊主──
坊主がここにいるのは
時に穢れは意味もなく、訳もなく祟る──
知ろうとするな──
関わろうとするな──
ぐちゅり──と、樽から這い出た
今さっきまで老人だった
少年がその眼鏡を握ると、かろうじて繋ぎ止めていた意識はぷっつりと途切れた。
---
「……え? もしかして今の少年って……、
「いやいやいや。なんだ? 夢の話か? 昔話って言ったから『むかーしむかしあるところに……』的なやつだと思ったら──」
「え? まあ少年が
実は
「あの後は『気が付けば……病院でした……』というオチだね。確か小学二年生の時だったかな? 熱中症で倒れたと聞かされた。祭りは
「やっぱり夢じゃないか。おばあちゃん家に行ったという記憶自体も夢ってことだろ? じゃなきゃ東京の病院じゃなくて
「まあ後で父に確認したら『祖母の家には行っていない』と言っていたが……、本当のところはどうなんだろうね」
そう言って
「いやいや、どうなんだろうねって……、夢だろ? なんだ? もしかしてその
「……病院で目を覚ました時に握っていたのは確かだ。色も形も老人が掛けていた眼鏡と同じだね」
「ちょっと待てちょっと待て。それはどういうことなんだ? 熱中症で倒れた時にでも拾ったのか?」
「いや、この眼鏡に関しては医者も看護師も知らなかった。運ばれた時には持っていなかったと言っていたよ。何人かに確認したからそれは確かなはずだ」
「だめだ……理解が追いつかない……。え? 夢じゃない……のか……? いやいや……、有り得ないだろそんなの……」
「実はこの話を思い出したのは高校生になってからなんだ」
そう言って
「当時……、小学二年生の時だね。病院で目を覚ました僕は、この眼鏡を握りしめていた。だけど夢の内容は『なんとなく祖母の家に行っていた気がする』程度しか覚えていなかった。それで目の前には仕事を切り上げて駆けつけた父がいてね。父が言うには『駆けつけた時には既に眼鏡を握っていた』ということだ」
そう言いながら
「当時は夢の内容を覚えていなかったこともあって、それほど気にはしなかった。眼鏡もなんとなくだけど捨てるのが
ばさり──と、
東北地方〇〇県の山中で多数の人骨を発見。
樽詰の人骨は猟奇殺人によるものか。
東北の奥地に伝わる凄惨な儀式。
と、まるでゴシップ記事のような見出しが古新聞には印字されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます