第2話 削《ショウ》の章
突然の事態に少年が「わあっ!」と叫び声を上げ、その拍子に尻もちをついた。その間も腕はギリギリと力を込めて握られ、離してはくれそうにない。腕を掴んでいるのは闇から這い出た異形の
何故ここにいるのだ──
老人特有の
そこには
「ぼ、僕……迷子になっ──」
少年が言い終える前に、老人の身を切るような冷たい言葉が降ってくる。老人は眼鏡を掛けているのだが、その奥、落ち窪んだ目に力がこもり、
更に老人の語気の強い言葉が続けて投げかけられ、少年は「ごめんなさいごめんなさい」と
更に老人は言葉を続け、掴まれた腕が折れてしまうのではないかと思うほどにギリギリと力を込められる。あまりの痛みに悶絶しながらも少年が老人を見ると、その後方からは──
顔
顔、顔、顔
無数の般若のような顔が宙に浮き、ゆらゆらとこっちへ向かって来ていた。それに呼応するかのように揺らめく蝋燭の火。
もはや少年は過呼吸のようにひゅーひゅーと喉を鳴らし、口からは「ごめんなさい」という言葉と
そんな少年の腕を老人が引っ張り、引き摺るようにして歩き出す。少年は恐怖とパニックで遂には
鳥居の前に着いたと同時、老人が少年の頭を鷲掴みにして眼下に広がる祭りの様子を見せる。涙のせいだろうか、視界がぼやけてしまう。
「ちょうど舞が始まったところのようだ。あれは
そう促された視線の先、白と赤が際立つ装束に包まれた巫女が剣のようなものを
老人の口から紡がれた暴力的な言葉。
キリオトシテイル……?
もはや投げかけられた言葉の意味もよく分からず、少年の脳内で「切り落としている」という言葉が無機質に繰り返される。更に巫女の舞は続き、手に
続けて巫女は農具の
そのまま舞は続き、舞台上に三つの
と、冷たくも淡々と老人が言葉を紡ぐ。紡がれた言葉は虚像を結び、巫女が舞い踊る舞台上には四肢を切り落とされ、目を抉られて耳と鼻を削ぎ落とされ、舌も切り落とされて
そんな凄惨な光景が繰り広げられているかのように少年は錯覚し、
吐いた。
そんな少年に「こっちへ来い」と老人が腕を引っ張り、鳥居の奥、本殿の裏手へ向けて無理やり引き摺りながら歩き始める。
「やぁだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! はな! 離してよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! おと! お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
殺される。自分はこの老人に殺されてしまうのだと少年が悟る。もはや涙と
少年は壊れたように泣き叫びながら引き摺られ、気付けば本殿の裏手、少し大きめの小屋のような
「ふぐぅ……ぅうあぁぁぁぁぁぁぁぁ……やだぁ……やぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
床に転がるは赤黒く錆びた剣や
と。
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