人鬼の住まふ咎の里
鋏池 穏美
第1話 傀《キ》の章
黒髪の彼の名は
「……祭りはなんの為にあると思う?」
互いの輪郭が朧気に霞む部屋で、唐突に
「え? 神様とかを敬う……的な感じじゃないのか?」
問われた
「まあそうだね。
「どうしたんだ急に?」
「いや、
「そういえば今日は祭りだっけ? 東京でもやってるなんて驚きだったけど……、やっぱり田舎に比べたら規模は小さいよなぁ。まあでも、やっぱりテンションは上がるけどな」
言いながら
「ああ、そうだね。熱に浮かされた人々の指向性を伴った狂騒。果たしてそれは本当に神のためなのか、と思ってね」
「……本当にどうした? なんか変だぞ? 悩みがあるなら俺でよかったら聞くけど……」
「それなら少し、ある少年の昔話を聞いて貰ってもいいかな?」
そう寂しそうに呟いて語られる、なんとも後味の悪い昔話。昔と表現はしたのだが、今から十六年前、この世に不思議なことなどありはしないと人々が
---
── 一九九七年、夏
参道に立ち並ぶ
和太鼓や
この一種異様な光景を、一人の少年が目に涙を
祭りといっても、人口も少ない
そのうえ少年は祖母の家に来るのは始めてだ。父親があまり実家に寄り付かなかったせいなのだが、それもあって土地勘など全くない。周りは人でごった返し、少年の目線では自分が今どこにいるのかさえ定かではない。もともと体が弱く、病気がちだった少年は
そんな中、少年の目に一瞬だが確かに見えた赤々とした大きな鳥居。鳥居は長い階段を登った先、今いる場所よりも高い場所にある。気付けば周囲の人が鳥居を指差しており、なんと説明すればいいのかは分からないが……、
少年は恐怖を感じた。
皆が皆、
「うわぁ──」
辿り着いてみれば、そこは下から見上げるよりも高い場所にある印象を受ける。そこから見下ろす祭りの景色はとても幻想的なもので、少年の口からは感嘆の声が漏れていた。人口も少なく、夜の明かりも少ない村。祭りの赤や白、
「ここにいればお父さん見つけてくれるかなぁ」
そう呟きながら少年が鳥居の周りをふらふらと歩き、ふと鳥居の奥に
普段は大人しい少年だったが、何故かこの日は積極的だった。おそらく祭りの熱にでも浮かされたのだろう。怖いと思う反面、「神社の奥はどうなっているのだろう」と興味を持ってしまったのだ。そこからの少年の行動は大胆なものだった。
よくないことをしているのは分かっている。だがもし誰かに見つかったとしたら、「迷子になってしまったので、お父さんを探して欲しい」と頼めばいいだろうと、楽観的にも考えていた。
だが少年の考えに反し、
一人もいない。
ただただ自身の呼吸音と服の擦れる
この段になってようやく少年は恐ろしくなってきた。もしやこの世界に存在しているのは自分だけなのではと、怖くなってくる。今ここで戻らなければ自分は帰れなくなってしまうという思いに駆られ、少年が駆け出す。
怖い……
怖い怖い怖い……
少年の恐怖心に呼応するかのように、
背後から
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