第5話 仲良く宴会を始めた
五章
春日は小池の両親に連絡し遺体を引き取ってもらうように頼んだ。
葬式に参加したとき小池の弟、亮一君と対面した。どことなく那須に似ていた。
「姉ちゃんの事、お世話になりました。姉ちゃん幸せだったと思います。メールで毎日連絡とっていました。いつも春日さんや那須さんと暮らしてこういう事があった。とメールで二人の写真みせてもらいました」
春日に携帯をみせてくれると笑顔の那須と春日が写っていた。
「姉ちゃん、自分が殺されるじゃないかっておびえていた日もあったけど、春日さん達と暮らすようになったら楽しい日々だったと思います。本当にありがとうございました」
涙を流しながら亮一君は笑顔を見せてくれた。どんな姉ちゃんだったかも教えてくれた。
内心、姉がいつ死ぬかもしれないと覚悟をしてたようだった。
春日はどうにかして自分達の運命を変えようと思った。これ以上犠牲がでないために。
小池がいなくなってから那須との会話も減ってしまった。それでも春日は何か方法はないかインターネットで自分のついているウロボロスについて調べていた。
そんなある日、春日のもとに手紙が届いた。その差出人は高島始からだった。
春日先生、お元気ですか。
僕は京都の新幹線爆破事件から不安でしょうがない日々を送っています。
春日先生に一度お会いしたいです。
連絡先の携帯番号を教えます。連絡下さい。
手紙の最後にメールアドレスと住所と電話番号が書かれていた。
この手紙は自分にとって良いものか判断を考えさせられた。でも今は何も情報がないので那須に相談した。敵に呼び出されているだけかもしれない。しかし、これは何かのきっかけを掴むチャンスかもしれない。今を逃げていても何も変わらないならばこちらから飛び込むことが良い方向に行くのではないかといった。
「春日先生、こちらの指定した場所と病院に近い路地にしたらいいじゃないですか。僕は近くの駐車場で待機しています。」
「そうですね。そうしましょう、事前に場所を確認できるといいかも」
春日はパソコンから地図を探し次の日、那須と一緒に場所を確認した。
手紙を書き地図をプリントした紙を入れ日時を決めた。
指定した日、夜9時に春日は小さな路地で高島始を待っていた。
「春日先生」
呼び掛けられて後ろを振りむいた。そこには帽子をかぶってジャンバーを着ている高島
がいた。
「お久しぶりです。元気にしていましたか先生」
「高島君、君も命を狙われているのかい?」
「はい」
「そうか、よく生き延びられたね。いままでどうやって生活してきたんだい」
「カバンを頼まれて運んだら300万報酬がもらえたんだ」
「誰から頼まれたんだ?」
「記憶があいまいで新幹線から降りた時には自分の荷物に札束が入っていた」
高島は小声で言った。いまにも泣き出しそうな顔をしていた。
「君が新幹線に爆弾を仕掛けたのか」
「僕は知らなかった。頼まれただけだ。指定の場所にバックを置いてこいと言われただけだ。中にはお金が沢山入っていた。だから違う」
「でも新聞では爆弾が入ってたんだ」
「じゃあどうしろと云うの警察に言えばいいわけ。先生はそんなこといえるの」
「君があの事故を起こしたんだろう。罪を償えばいいだろう」
「死刑に決まっているよ。あの事故でどれほどの人が亡くなっていると思うの。」
春日は言葉に詰まった。何を言えばいいのかわからなかった。自分の生徒がそんなことをしたとは思えなかった。今こうして出会えただけでも不思議だった。雨はひどく二人の間に降り続いた。
「どうすれば償える?。僕が死ぬしか方法がないよ。僕は警察に捕まるのも嫌だし、死ぬのも嫌だ」
「わからない。君の辛さも分かるが自分自身答えが出ないよ」
その時だった。銃弾が高島の腹に突き当たった。春日はすかさず発砲した方向を見た。
二人の影が見えたがすぐにその人影は消えた。春日は高島に駆け寄った。
「高島しっかりしろ。先生が病院に連れて行ってあげるからな」
「先生、血がいっぱいでてるよ。いやだ・・。死ぬのは怖いよ。」
高島は何度もセキをすると口から血を出した。春日はこのままだと高島は死んでしまうと思った。携帯電話で那須に電話をかける。那須に場所を伝えると路地裏に高島を背負って隠れた。しばらくすると春日の携帯電話が鳴った。
「春日先生。今到着しました。何処の路地裏ですか。」
「人目が付かない。サザンカとかいてある看板と描いてある路地に来てください。何かコートでもいいですから羽織るものください」
那須は春日の言うとおりに路地裏に来た。コートを高島に羽織らせるとさっそく病院に連れて行った。病院に着くと早速手術がされた。病院に着くとどうして拳銃が使われたのか聞かれた。どんな事をいえばいいのか分からなかった。もっともらしい嘘と言えばヤミ金融で多額の借金をつくり暴力団に命を狙われたと言った。医師は納得してくれた。高島の腹に当たった銃弾は取り除かれなんとか命は救われた。個室の病棟に移された。春日は一晩中起きていた。
「春日先生、僕が見ていますのでどうぞ休んでください」
那須はやさしく春日に言った。春日は首を横に振った。
「いいえ、私の大切な生徒なのです。たったひとり生き残った生徒です。私自身これから彼にどう接したらいいのかわかりません。でも彼が生きてくれてよかった。助かってよかった」
「春日先生、でも彼は列車事件を起こした張本人ですよ」
「彼は知らなかった爆弾が入っていたカバンとは知らなかったんですよ」
「彼は罪を償う義務があります。少年院に送られてもおかしくない。それこそ無期懲役、死刑になってもおかしくありません」
「それ以上言わないで下さい。私もそう思います。でも今は命が助かってよかったと思っているんです」
春日は泣きながらそういった。那須はそれ以上問い詰めなかった。翌朝、高島が目を覚ました。高島の手を握った春日が寝ていた。
「春日先生、俺、助かったんですか」
「お、高島目が覚めたか?」
「うん。」
「腹へっているだろ今、リンゴでも買ってきてやるからな」
春日は軽く高島の頭を撫でて財布を持って出でいった。
高島は部屋の中を見たどうやら個室のようだ。すこし安心してまた眠った。しばらくしてドアが開いた。春日だと思い目を開けると黒服にサングラスをした男が二人いた。
「計画は失敗した。いまさらお前を生かせるわけにはいかない」
そういうと一人は布で口を塞ぎもう一人はロープで首を絞めた。高島は必死にもがいたが意識は遠くなりそのまま亡くなった。看護婦が高島の様子見に来た。男たちが出て行くのを見送った
「高島さん、包帯変えましょうね」
看護婦は近づくと異変に気がついた。高島が息をしていないのだ。
「誰か、誰か、さっきの男を捕まえて人殺しよ。早く」
大声で看護婦が叫んだ。すると周りの人間が集まった。春日はちかくのローソンに行っていた最近のローソンはリンゴもバナナも売っているようだ。ホイップクリームのプリンを二つ。ついでにサンドイッチとカフェオレ、りんごとバナナ沢山買い込んだ。三十分経ってから病院に戻ると警察が病院の駐車場に何台もとまっていた。
「どうしたんですか?。何かあったのですか」
近くの中年のおじさんに聞いてみた。
「ヤクザに若い青年が殺されたみたいなんだよ、消費者金融からお金を沢山借りてたらしいよ。怖いね。まったく」
「そんな。だってせっかく助かった命なのに」
春日は慌てて病室に駆け込んだ。高島の部屋に入ろうとしたら警察が止めた。
「いま現場検証しているので中には入れません」
「高島始はどうしたんですか。本当に死んだんですか」
「首を縄で絞められて死亡したそうです」
「そんな・・・・」
那須が春日を探していた。見つけると腕を強く引いた。
「春日先生、探していました。早くここから逃げましょう」
「何でですか。僕は高島の教師だ。ちゃんとこの事件にかかわらないと」
「疑われますよ。貴方まで刑務所入りですよ。それに看護婦から手紙を預かりました。」
手紙を読んでみると春日敏様へ、早く病院から立ち去らないと病院を爆破します。指示どおりにうごかないと大変なことになりますよ。貴方は私たちの言うことを素直に聞いてください。
ごくりと生唾を飲み込んだ。春日は急いでその場から立ち去った。
「春日先生、どうやら僕らの能力者以外に大きな組織があるみたいですね」
「なんで、こんなことがおきるんだ。僕は悪いことなんてしていないのにただ普通の生活をしたいだけなのに」
那須は携帯電話を病室において置いた事に気がついた。
「しまった携帯電話を置いてきてしまいました」
「どうするんですか那須先生」
しばらくすると春日の携帯電話がなった。「もしもし春日です。」
「はじめまして、春日さん。わたくし近藤といいます。貴方の教え子さんに新幹線で娘と妻を殺されましてね。あの爆弾テロリストは高島始と言うじゃないですか」
「貴方は復讐の為に高島を殺したのですか」
「そうですよ。皆様のために」
「あの事件は高島は頼まれてやったといっていましたが」
「春日さんを殺すためにしたことなんでしょう、貴方も犯罪者だ」
春日は黙り込んだ。
「どうでしょう。私は貴方に会いたいんです。どうして土を自由に操れるのか。そんな能力があれば大地震など容易い事なんでしょうね。」
「そんなこと一度も考えたことなかったですよ」
「春日さん。病院に置き忘れた那須さんの携帯に明日までに電話を下さい。会えることを期待してますよ」
「わかりました。」
そういうと電話が切れた。那須は慌てて春日に言った。
「きっと罠です。行けば殺される」
「でも行かなければ。解決できない。何も戦うことが全てではありません。和解も出来るかもしれません」
春日は手短にあったホテルに泊まった。しばらくためらったが春日は電話をした。
「はい近藤です。」
「もしもし春日です。貴方に会いに行くために電話しました」
「いい決断です。明日そちらの方に車でお迎えに行きます」
「病院の近くのアジサイというホテルです。」
「朝の十時に迎えに行きます」
「はい、わかりました。」
春日は電話を切ると天井を仰いだ。なんでこんなことが起きなければならないのか考え込んでいた。次の日、黒い外車が春日をまっていた。春日はおとなしく車に乗った。
「僕をどこに連れて行くんだ」
「今は教えられない。春日さんには目隠しをしてもらう」
そういうと一人の男性が春日の目を布でくるんだ。両手には手錠がはめられた。二時間くらい走ったところでどこかのビルに連れ込まれた。エレベータに乗せられ8階です。と音声が聞こえた。自動ドアが開き手錠と目隠しをはずされた。
「はじめまして、春日君」
紺のスーツを着ている三十代後半の男性が待っていた。
「時間はたっぷりあります。ゆっくり貴方の能力の話をお聞きしたいです」
そういうと春日は一ヶ月の期間監禁される事となる。
食事とトイレに行く時だけ自由になったがそれ以外は警察の取調べのように毎日、小さな部屋に入れられ殴る蹴るの暴行をうけた。
「春日さん、あんた火も使えるだろ。どうやって仲間の火も物にしたんだろ。やっぱり殺したのか」
「違う僕はそんなことしない。あれは形見だ。その人を信じて手渡す物なんですよ。殺せば手に入るなんて考えているから破滅を招くんだ」
「確かに高島を殺しても手に入らなかったな」
「そういえば、私の自己紹介をしてなかったな。近藤真一という、あの事件さえなければあんたと出会わなかったかもしれないな」
「あの事件って」
「新幹線事故だよ。あの事故で妻も娘も失った」
近藤は悔しそうな顔をした。春日はボロボロになりながらも自分の力は使わなかった自分の力はもともと普通の人間には存在してない。恐ろしい凶器になると思った。けして使ってはいけないと思った。暴力は何も生み出さない。自分は話し合いで解決しようと思った。
「どうしてわからないのですか。この戦いは無意味なんですよ」
「どうしてそう言い切れる。私の妻も子もお前達に殺されたんだぞ」
「すくなくても僕ではありません」
近藤は頭にきて春日の腹を蹴り飛ばした。
「お前じゃなくともな。そんな術使える奴は皆殺しにしないと危険なんだよ」
今度は春日の頬を殴った。すると春日の口から血が出がでた。ゴホゴホと咳き込んだ。
「なんで技を使わない。お前はここから出られるくらいの力は持っているんだろ」
「僕は話し合いに来たんだ。もうこの戦いを終わりにするために、だって僕の大切な人たちも死んだんだ。僕の能力は人間による人間の戦いのために地球を滅ぼすのを止めさせるために使う能力なんだから」
「それはどういう意味だ」
「地球を守るための能力ですよ。自然による自然に征服です。地球に隕石を落とすこと。一からすべてを作り変える。人間が戦争して地球じたいを破滅させる前に人間を殺すことですよ」
「そんな事ができるのか」
「火、水、木、金、土、風、人間がいる前からあったものです。その能力を兼ね備えれば人間なんてひとたまりもありません」
「じゃあどうすればいいんだ」
「人にまかせるのです。僕はそう思っています」
近藤は唇を噛んだ。どう答えればいいのか、わからなかった。この男を信じてよいものか迷った。なんで普通の人間が火や水を使えるようになったかもわかるような気がした。
後ろから高倉が声を掛けてきた。
「近藤さん。もうやめましょう。これ以上の監禁は精神的、体力がもたないと思います」
「お前はこの男の事を信じるのか」
「力を使って人を殺すような人間には思えません」
「だったらお前が解放してやれ、ただし二度と俺の前に現れるな」
「近藤さん」
「この男についていくなら俺を裏切ったと同じだ。俺は娘と妻を殺した連中を許す事ができない。春日が言った事が本当かどうかなんて関係無い。力を持っている連中を殺す事しか考えられないんだ」
「わかりました」
近藤はその場を後にした。高倉はしばらく春日を見つめていた。
「あなたが裏切ったらあの人は一人ですよ」
春日が高倉にそういった。
「あの人は強い人です。私がいなくても平気ですよ」
高倉は春日に付けられていた手錠を外すと春日の肩を担いだ。
「立てますか?」
「なんとか。でも・・」
春日は一ヶ月監禁されていたので体力的にも劣っていた。高倉は病院に連れて行ったほうがいいと判断した。高倉は車で病院まで連れて行った。
那須に連絡を入れたのは三日後だった。那須は春日が殺されたのではないかと思っていた。
こうしてもう一度再会できたのは奇跡だと思っていた。病室を走って春日の元にやって来た。息は少し荒かった。
「春日先生。よく戻ってきましたね。よかった」
那須は春日の顔を見るとほっとしたのか。涙をボロボロこぼした。
「安心してください。すべて終わりました。もういいのですよ」
那須は何度も頷いた。解決したことがわかったのだ。
それから何も事件が起こることがなく四月になった。那須に出会ってから一年が経過した。
春日と那須は別々の道をそれぞれ歩いていた。那須は塾の講師をしていた。春日は自分の生徒がなくなっていたので学校に関する仕事にはつかなかった。代わりに自分の趣味が高じて料理の仕事をしたいと専門学校に入ることになった。久しぶりに桜の見える丘で二人は再会した。
「春日先生。ここですよ。ここは絶景の場所ですよ」
「はいはい。そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。」
どこからか鶯の声が聞こえてきた。春日は顔を上げた桜の花びらが顔にかかった。
「のどかですね。本当に」
「ええ去年とは別ですね。こんなに穏やかな春を迎えるとは思ってもみませんでした」
「僕が作ったお弁当を食べましょう」
「春日先生のお弁当ですか。」
「美味しいですよ。ほら、エビフライ」
お弁当をあけると豪華なエビフライがあった。卵焼き、たこウインナー、おむすび、いろいろな食べ物が入っていた。那須の顔が急激に明るくなった。
「美味しそう。」
「ささ、どうぞ」
「毎年ここで会いましょうよ。ここでこうして」
「もちろん」
二人は約束を交わし仲良く宴会を始めた。
運命の輪 完
龍が落とした運命の歯車 ~あなたに伝えたい超能力者として~ 星乃秋穂(ほしのあきほ) @HAUHAUTOUKYOU
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