第4話 美味しいお弁当
四章
朝早く春日と那須は目を覚まし近くにある公園に行く広い広場で誰にも入られないように結界をはる。いつも二人で何時敵が来てもたいようしている。少しでも強くなりたかった。
「春日先生いきますよ」
那須が水を操りさっそく春日を狙う。春日は土で壁を作った。
「次はボクの番ですよ」
春日は土蜘蛛を作り出した。那須はあわてて逃げ出すと一気に土蜘蛛が糸を噴き那須をがんじがらめにした。
「ちくしょう。また春日先生の勝ちか。悔しいな」
「那須先生も何か技を持っているといいんですけどね」
「それが簡単に作れないから困っているんですよ」
大きく那須はため息をつくしばらくすると聞き覚えのある声で二人を呼ぶ女性がやってきた。
「春日君調子はどう二人に朝ごはんもって来たよ」
「おー小池さんありがとう」
小池は楽しそうに二人のもとにやってくると公園のベンチに座った。
「はーい。これが春日君のお弁当。」
「ありがとう」
「んで、これが那須君のおにぎり」
那須は一瞬首をひねった。春日のはちゃんとしたお弁当なのにたいして那須のは大きいおにぎり一個しかもらえなかった。
「この格差は何」
「え、だって最近私、春日君の部屋に居候してるじゃない。そのお礼よ。私の家賃払ってないから」
「あのー。私だって一緒に住んでるんだからそれは無いじゃない?」
春日は笑って二人を眺めた。小池がいつのまにか部屋に居候してしまい。料理、洗濯、掃除の家事をすべてやり三人で暮らすようになっていた。なぜだか那須をからかう小池が可愛く見えてしょうがない。他人からみたら三角関係なのかもしれない。
「もう春日先生ばかりずるいですよ。わけてください。」
「はいはい」
二人が朝食をとり終わると小池はニコニコして旅行のパンフレットをバックから取り出した。
「じゃんじゃんじゃんー。今年の夏のお楽しみ国内旅行計画。二泊三日の旅行、三人で海に行こう。暑い夏、命を狙う敵におびえていたらなーんにも楽しい思い出が作れないでしょう。旅行費は安心して私が全額出してあげるから」
「あのケチな小池さんが全額」
「ああ何か言った、ナス坊主」
「いえ、いえ」
横にぶんぶん顔をふる那須だった。
「いいですね。でもお金はどうしたんですか」
「ふふふのふー実はね。当たったのよ。宝くじ、私子供の頃からくじ運がいいの」
「凄いな」
「そうでしょう。日頃お世話になっている二人に感謝して旅行したいと思ったの」
三人で喜び合った。家に帰ると小池のもらってきた旅行のパンフレットを三人であーでもない。こうすればいいんじゃないかと議論した。パートを休んでいくので三人の予定を考えて決めた。8月の上旬に日程を合わせ旅館を手配した。
蝉の音がなり響き、うだるような汗、そして海水浴にいく荷物、旅館につく頃にはへとへとになっていた。
はしゃいでいるのは唯一小池だけだった。それもそのはず荷物は二人にまかせ日傘を持って身軽にここまでやってきたのである。
「春日先生。休みたいんだけどだめかな。もうー。昼寝がしたい」
那須はぐったりして、畳の上で大の字になっていた。
「那須君、誰のお金でここまで来れたと思ってる」
小池が那須の顔を覗き込んだ。
「うああああ・・・・。小池さん!」
「じゃあいいよ。私、かすぴー独り占めにするから一人でぽつんとしてなさい」
「えー。二人で遊びに行かないでくださいよ」
「あら、昼寝したいんでしょう。どうぞごゆっくり」
案の定、小池は那須に意地悪をする。春日にはそんなことしないのだが、小池は実弟みたいでなんとなく意地悪をしてしまうと聞いていた。
「まあまあ、せっかくここまできたのですから三人で遊びに行きましょう」
春日はにこにこしながら言った。
「春日君と二人で海に行こう。恋人同士二人の方が気が楽だしね」
「はあ?いつ小池さんと春日先生が恋人になったんですか」
「えー。だっていつも春日君と寝てるじゃない。男女の関係があってもおかしくないでしょう」
「そういえば、僕がお酒を飲めないからって二人で朝まで帰ってこなかったことがあった」
「ピーンポーン。その時一緒にホテルに行ったりしたのよねー。ねっ春日君」
「いやその・・。男は酔った女性に弱いというか。で、でも避妊はしてるんですよ。」
「あー。そう、二人で影でいちゃいちゃしていたんだ。僕に内緒でへえー。」
那須は、ほっぺたをぷくーと膨らませ途端にへそをまげはじめた。
「どうぞ、二人で海にいったらいいじゃないか。僕は疲れているんで休んでます。」
「じゃあ、行こう。春日君」
「いや、でも・・・」
「二人でごゆっくり、携帯電話にかけてもでませんから」
「そんな、那須先生・・」
春日は小池に引きずられるように出て行った。
那須を置いてきぼりにして二人で海に出かけた。何もこんな時に小池は恋人発言したのか理解できなかった。海の家でパラソルを借りてシートを敷いた。小池は水着に着替えてくるといって更衣室に入った。春日はぼんやりと海を眺めていた。
「春日君、おまたせ」
「う、うあー。可愛い。」
「ずーと、この水着きたかったのよ。」
ピンク色の可愛らしい水着だった。髪もポニーテールにしていた。ちょっと惚れ直してしまった。自分がドキドキしているのを気づかれるのではと思った。
「春日君、着替えてきたら?」
「あ、でも荷物もあるし泳ぐのは小池さんだけでいいのでは?」
「もー。せっかく可愛い水着、着たんだから二人で泳ごうよ。ロッカーに荷物入れればいいことでしょう」
「そうですね。」
春日は着替えると那須に電話をかけてみた。しかし応答がなかった。何もこんなときに意地を張らなくてもいいのに。しょうがなく小池のいるところに戻った。
「春日君。じゃあ泳ぎに行こう」
「はい」
一時間近く海で遊んでからパラソルのもとに戻った。
「いやー。楽しいですね」
「そうだね。春日君。実は聞きたいことがあるの」
「何ですか?」
「私のこと遊びで付き合ったわけじゃないでしょう?。結婚も考えて寝てくれたのよね」
「え!」
急に言われてびっくりした。確かに遊び相手とは考えてはいなかったが将来結婚することまでは思いもよらなかった。
「そうですね。もう結婚を考えてもいい頃ですが、職業が安定してないのに平気なんですか」
「私は春日君の容姿も性格も全部好き、だから結婚したいと思ってるの。ほら、那須君がいたら絶対反対するでしょう。まだ、命を狙われる時だからとか、色々とぐちぐちいいそうじゃない。二人っきりじゃなきゃだめと思ってたわけ」
「確かにそれはいえるな・・」
「本当は二人で旅行に行きたかったでも・・那須君置いてきぼりにはできなかったし」
いや、おいてきぼりだろとつっこみをいれたくなった。
「そうか、結婚。近いうちにご両親に会いましょう」
「本当嬉しい。でもちょっとプロポーズの言葉じゃないわよ」
春日は照れくさそうに頭を掻くと正座をして小池と向き合った。
「私と結婚してください」
「はい!」
小池は軽く春日の頬にキスをした。春日は一瞬こんなに早く結婚を申し込んでいいのかと思った。
青空が曇ってきた天候が怪しくなったので、もうそろそろ戻ろうと二人でシートを片付け始めた。すると春日のもとに大男が近づいてきた。
「おい、おまえ、春日敏っていう超能力者なんだろ」
「え、なんで僕のこと知ってるんですか」
「やっぱりそうか。お前の能力奪いに来た。」
春日の顔面を砂に叩きつけた。巨体な身体でおもいっきり背中を踏みつける。
「げへへへ、超能力をもっていても俺の力より弱いんだな。」
「やめて、よしてよ」
小池は春日を助けようと必死に大男に立ち向かう。
「おおべっぴんさん。」
「誰か、この男を止めて」
周りの人たちは遠ざかってゆく急激に天候が変わってきた。遠くでは雷が鳴り響いてきた。
ぽつりぽつり雨が頬にあたった。
小池はおもいっきり大男の背中を蹴った。すると大男は春日を無視して小池の身体をもちあげた。
「痛いんだな。俺、頭にきたお前殺す。」
小池をおもいっきり砲丸投げのように海に投げ落とした。
「いい加減にしろ。女性に何てことするんだ」
春日は地面に手をつけて立ち上がった。いつもの優しい顔ではなかった。
「ちょうど雷が鳴っていますね。お前をその雷で天罰を与えてもらいましょう。」
すると地面から土蜘蛛が現れた。一瞬で大男をグルグル巻きにし天高くのぼらせた。
「早く降ろすんだな。このままだとおいらが黒焦げにされる。嫌だ。雷に打たれたくない」
「正解です。そのつもりでいてください。」
春日は海に飛び込み小池を探す。岩にしがみついている小池がいた。
「私はここ。早く来て」
「小池さん、今助けに行きます」
春日が助けに行くと小池は力尽きたように春日に倒れこむ。救助隊の人が水上ボートを走らせてきた。
「大丈夫ですか。早く乗ってください。天候も悪いので非難しないと命の危険性があります」
「はい」
小池を水上ボートに乗せてみると彼女のお腹に大きな傷があった。
「痛い。助けて死にたくない」
「大丈夫。はやく病院に行くから」
春日もボートに乗り岸辺に向かう。すると大勢の人たちが二人の帰りを待っていた。さっきの大男も警察が取り押さえていた。どうやら、春日の能力では砂と土では効果が変化するらしい。確かに高い位置に砂は盛り上がっていたが普通の人間でものぼれるくらいだ。
救急車が到着し小池はタンカーに運ばれた。春日は救急隊からバスタオルを手渡された。
春日もコインロッカーから荷物を持ち出し急いで救急車に乗り込んだ。
救急車が病院につくと小池は手術室に運ばれた。大量の出血で命にかかわると言われた。
春日は普段着に着替え、那須に電話をかけたが全然繋がらなかった。
「何してるんだよ。那須先生」
なんで能力があるのに女性一人も助けられないなんて、悔しくてたまらない。せめて那須がいればあんな大男にこんなに無力ではなかったろうに、春日は壁を叩いた。
「何で何でこんなに無力なんだよ。ちくしょう」
一時間して手術室の扉が開かれた。
「小池さんは、大丈夫なんですよね」
医者は息をはくと少し首を振った。
「手を尽くしましたが完全に大丈夫とはいえません」
「そんな。そんな馬鹿なことってありますか、小池さんは助かると言ってください」
小池は病室にタンカーで送られた。まるで眠っているような感じに思えた。
春日は小池を心配そうに眺めていた。
「小池さん、頼むから目を開けてください。私にできることなら、どんなわがままも聞き
ますから」
病室に小池は運ばれた。春日はずーと小池の右手を握っていた。しばらくして小池はゆっくりと目をあけた。
「かすが・・く・・ん・・」
「大丈夫ですよ。もう心配ないです」
「わたし・・わか・・ったの」
「何がですか」
「も・・う・・長く生きられない」
「そんなことないって、そんな心配しないでください」
強く手を握る。今にも泣きそうな春日に小池は微かに笑った。
「力をあげる。受け取ってね・・」
小池は一粒の涙を流した。春日の右手が急に熱くなった。金色の鳥が小池の身体から現れ小池と春日の周りを飛ぶと春日の中に鳥が入った。小池は安心した顔をした。
「やさしく・・キスして・・」
春日はそっと小池の頬をさわった。堪えていた涙が落ちる。そして優しく彼女にキスをする。きっとこれはお別れのキスだとわかった。小池はその晩、息をひきとった。翌日、那須が携帯に気づき病院に到着した。
春日は霊安室にいた。小池のすぐそばで椅子に座っていた。
「春日先生」
「那須先生、なんでメールも電話もかけてこなかったんですか」
「いやその二人に気をつかって携帯電話の音を鳴らせなかったんですよ。ほんとすみません」
「すみませんじゃない」
春日は椅子から立ち上がって那須の襟をつかみおもいっきり殴った。
「小池さんは死んだんですよ。私の力では救えなかった。でも貴方がいれば助かったかもしれない。水を自由に使える貴方なら・・」
「こ、小池さん死んだんですか」
「見て気がつかなかったんですか」
那須は小池の遺体に近づき顔にかけている白い布をそっとはずした。
「そんなのって・・」
「もう、小池さんの声も笑顔も二度と見れない。私の力では一人の女性を守れなかった」
春日は小刻みに震え、声を殺して涙を流した。那須は何も言えなかった。こんなことになっているとは予想もしていなかったからだ。昨日、春日と小池が何処かで遊んでいると思ってた。急いで海に駆けつけていればよかったのに。自分の愚かさを知った。那須はその場からよろよろと出て行った。昨日の自分は何をしていた?。二人の仲の良さに嫉妬しどうせ、自分には恋人なんてできないさ。と思って何回もかかってきた電話に無視していた。
「そんな・・・俺、なんで・・」
もう、二度と会えない・・。
こんなに彼女は冷たくなっていた。
ごめんも言えない。
ありがとうも・・・。
ひとつひとつ彼女の顔が浮かんでは消えてゆく。
「ごめんなさい・・。俺・・自分のことだけ考えていた・・」
ごめん・・。
こんなさよならなんていらない・・。
もう言葉がいえない。
第四章 完
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