第3話 雨がしとしと降っていた。

 三章

 雨がシトシト降っていた。那須は土木工事の仕事から帰ってきた。日雇いの仕事をはじめてから一ヶ月過ぎていた。春日は得意の料理をいかして弁当屋さんでアルバイトをしていた。最初は貯金を取り崩していたがなんとか精神的にも回復してきた感じだった。ただ毎日の生活に追われているような生活をしていた。

「ただいま、春日先生」

「おかえりなさい。どうですか仕事の調子は」

那須は傘を折りたたんでジャンバーを脱ぐ、春日はタオルを持ってきた。台所からはいい匂いがしている。

「いい匂いですね。きょうは何ですか?」

「肉じゃがに切り干し大根、豆腐とねぎの味噌汁です」

「こりゃいいですね。春日先生の料理はいつも美味しいですよね」

春日は料理を器に盛りテーブルに置いた。那須は手を洗いに洗面所にいった。

二人がテーブルにつくと夕食を食べ始めた。

「那須先生。京都にいる宮本さんからメールが来ました」

「どんなメールなんですか?」

「なんでも群馬の山奥に超能力者を研究する場所があるらしいんです」

「え、でも私たちは超能力とはまた別のもではないんですか」

「何も手がかりが無く生活するよりはいいと思うのです。」

「ちょうど、京都で出会った小池さんという女性の方が連絡してくださったのです」

 「ほーう美人さんですか」

 「人にもよると思うのです。」

 春日は味噌汁をそそっていると那須は考えながら肉じゃがをつついていた。

 「そうですね。それじゃあ私もついていきます。」

 こうして春日と那須は高崎駅で小池遼子を待つことにした。駅前で待つと小池が駅に到着し春日のいる元へ走ってきた。

 「ごめーん、お待たせ。春日君、元気にしてた。あらおとなりさん誰?」

 「はじめまして、那須信二といいます。春日先生とは学校で知り合いになりまして」

 「えっ春日君。教師やめたんでしょう。なんで関係あるの」

 春日はため息をついて事情を話した。

 「へー水を操れるの?水道代かからなくていいわね」

 なんだか、つかかってくるので那須は不機嫌になった。

 「春日先生。なんで私の事をわるくいうのですか?」

 「少し性格がねじまがってんじゃないですか?」

 「何か言った。かすピー」

 「はあ?」

 「春日だから、かすぴーって言ったのよ」

 「やめてください。小池さん」

 「今日は来るだけで疲れたから、かすぴーの家に泊まらせてね。京都から来たんだから電車賃だけでも大変なのよ」

 「僕の家に泊まるんですか。冗談じゃない」

 「あらじゃあ電車賃ちょうだいよ。その代金でホテルに泊まるから」

 春日は眉間に皺を寄せる。後ろで那須がうろたえていた。

 「うちにはゴキブリも出ますよ。夜中に天井をネズミが走ります。それでも結構ですか」

 「いいわよ。お金を払わないだけでも幸せだもの。うふふふ」

 「しぶといですね。はははは・・」

 春日と小池は二人で笑っていたが那須は困惑した表情をしていた。春日は小池と那須を

連れ住んでいるアパートに戻った。

 部屋に入ると早速お茶を出した。部屋は小奇麗にしてあるのでゴキブリやネズミが出るような気配はない。小池は座布団に座りお茶を啜り何かお菓子はないのかと問いかけ春日は楽しみにとっておいたプリンを差し出した。

 「あら、わりと綺麗な部屋じゃない。私の部屋よりも素敵よ」

 「これが普通ですよ。」

 春日がため息をつくと小池はキョロキョロと見回した。

 「ところでゴキブリは?」

 「は?」

 「ゴキブリなんて出ないいんじゃないの。こんなに綺麗なら、私を泊まらせたくなかっただけじゃないかしら」

 「ああそれは違いますよ。うちは本当にネズミやゴキブリが出るんですよ。ゴキブリホイホイ持ってきますね」

 そういって那須は台所に行ってゴキブリホイホイを持ってきた。そこには二匹ゴキブリがかかっていた。

 「あらホント。あーでも私の家よりはかかってないわ。うちは五匹だもの」

 「どんな汚い部屋にいるのですか」

 春日は小池をどこで寝かすか考えた。

 「一匹いると百匹いるって聞きますがね」

 那須はニコニコしながら語っていた。何で気持ち悪い生き物で話が盛り上がれるのだろう。

 「仕方ないですね。僕がソファで寝ますから那須君と小池さんは布団で寝てください。」

 「えー私。かすピーと一緒に寝たいな。だって好みがあるもの。」

 「へいへい。僕が襲っても文句は言えませんよ」

 「いいですよ。そんな勇気があればだけどね」

 「二人とも面白そうですね」

 「そうですか?」

 その晩、春日と小池は同じ部屋に寝て那須はソファで寝ていた。男女が同じ部屋で寝ていいのか那須は悶々とした気持ちで寝ていた。

 翌日、那須は春日と小池の部屋を覗いてみた。すると春日の布団に小池が一緒に入っていた。

 「春日先生。小池さん朝から何いちゃいちゃしてるんですか!離れてください」 

 「んあ・・・何朝から怒ってるんですか」

 春日は目をこすり隣を見てみると小池が自分の布団に潜り込んでいた。

 「なんて寝相が悪いんでしょうね」

 「そういう問題じゃないでしょう。春日先生」

 「何、せっかくいい気分で寝てたのに」

 小池が目を覚ますとキョトンと春日と那須を見比べた。

 「貴女が自分の布団で寝ていないから春日先生が困っているんですよ」

 「困るの?かすぴー」

 「いや困るも何も普通男の布団で寝ないでしょう」

 「うーん。今度から気をつけるね」

 「そういう問題か・・・」

 朝から騒々しい一日が始まった。朝食を簡単に終わらせると早速研究所に行くことにした。春日に運転を頼むと那須は昨日眠れなかったのでいびきを掻きながら寝ていた。小池は自分の持ってきたお菓子を食べていた。

 「春日君、飴玉食べる?」

 「一個下さい」

 助手席に座っている小池は飴を取り出し包みを開け食べさせてあげた。

 「なんでも今回の研究所はね。サイキックとか、人物を探し当てる事ができるとか。過去の事を言い当てることができるらしいですよ」

 「へー。つまり自分たちの能力とはまた別みたいですね。火とか水や土の能力ではないんですね」

 「うーん。どうしてこんな能力が兼ね備えられたか教えてくれるかも」

 榛名湖の近くの山道を登ってゆくと大きな研究所があった。小池が指をさした。

 「ねえ、あれじゃないかな。きっとそうだよ。いやーワクワクしちゃう」

 春日は研究所につくと那須を起こした。

 「もう着いたんですか。早いですね」

 「二時間走ってたんですよ。那須先生昨日寝不足だったんじゃないんですか」

 研究所に着くとインターホンを押した。

 『はい。何のようですか』

 「京都から連絡した小池です。超能力者について研究している施設と聞いたのでお伺いしたんですが」

 『はい。小池さんですね。扉を開けます』

 しばらくするとドアが開いた。中から白衣を着た職員が一人現れた。

 「はじめまして前田と申します。このたびこの研究所の案内をいたします。」

 春日と小池と那須は前田を先頭に施設を案内された。部屋には老人から幼稚園児ぐらいの人間が二十人くらいいた。ひとつの部屋にはカードゲームをしている者が三名ほど。違う部屋を見ると射的用の部屋があり子供がパチンコの玉を手にいれ指で弾くと射的の板に命中させていた。なにやらトレーニングをしているようだった。

 「あれは念力か何かですか」

 「ええそうです。拳銃を撃っているような感じなんでしょうね。彼らは未来を予測できた瞬間移動が出来たり個人差はあるにせよ普通の人間が出来ないことをやり遂げてしまうのです。」

 職員の前田は喫茶室に春日達を招いた。席に着くとメニューを渡した。

 「どうぞ好きなものを頼んでください」

 春日たちはコーヒー頼むとしばらくして飲み物が運ばれてきた。

 「貴方たちが来たこと偶然ではないのです。

つまり必然的なんですよ。ここにいる彼らたちが言ってました。土、水、火を操れるそうですね。我々が研究していることでなくまた別なことですけど」

 「何故そんなことが分かるんですか」

 春日は驚いた顔をした。すると前田は涼やかな微笑をこぼした。

 「あなた方、腕に蛇の刻印があるでしょう。それが物語っているのですよ。」

 「宗教じみたことですが貴方の前世ですかね。地球ではありません。でもとても地球に

環境があった。スターウォーズの世界が実際にあったというべきでしょうか」

 「宇宙人なんですか僕たちは」

 「そうです。貴方の祖先だと言いたい」

 「何で今頃こんな形で現れたんですか」

 「予測ですが、これから先、戦争が起こる前ぶりなのかもしれない。地球自体が無くなる

。その前に人類を破滅させ新たな世界を作る。それらがあなた方に任された役目なので

すよ」

 「そんなことできるわけがない。だって人を殺すことなんて考えたことありませんよ」

 「実際に起きているじゃありませんか列車事故ですよ。」

 「あれは僕たちがやったことではありません。あれはテロリストでしょう」

 那須が前田に強く押し迫った。

 「わかってます。ただあの事件は春日さん貴方があの場所にいなかったら発生しなかっ

た。実は貴方の生徒がやったことなんです」

 「まさか、そんなはずはない。私の生徒が私を狙ってなんか、いや・・・まさか」

 「心当たりがあるはずですよ」

 「まさか高島が、でも強い催眠術をかけたはず」

 「春日さんに見てもらいたい絵があるんです。」

 前田はパチンと指を鳴らすと秘書の人がすかさずスケッチブックを手渡した。

 「この絵が透視した物なんですがいかがですか」

 そこには帽子を被ってる高島の絵が描かれてあった。なにやらボストンバックを手にし

ているようだ。

 「これはどうして」

 「私たちの中で超能力を使って描いたものです。」

 春日は眉間にしわを寄せた。超能力というものはここまで出来るのかと思った。

 「あなた方の能力は危険なものです。ですがあなた方の能力は地球を救えると信じてい

ます。今後何かあったときは連絡してください。協力できると思います」

 春日たちは研究所をあとにした。三人ともしばらく無言でいた。

 「春日先生、僕たちの力は人類を無くすことなんですか?そんなバカな話があっていい

んですか」

 「そんなことは無いと思います」

 「研究所で言われたじゃありませんか」

 「とにかく調べたほうがいいみたいね。その高島って子。列車事件の時生き残ったなら

また春日君の前に現れると思う」

 小池はそう言った。山道を降りていくと黒い車が春日の車に近づいてきた。

 「ちょっとあの車近づきすぎじゃない」

 その時だった。後部座席のガラスが割れた。

 「うそでしょう、こんなときに敵なんて」

 「こーゆうのルパン三世でよくあるパターンですよね」

 「春日先生、お馬鹿なこといってないでなんとかしてくださいよ」

 「わかりました。小池さん運転代わってください」

 小池と運転を代わると春日はドアを開けた。ギリギリに人差し指を地面に付けると大きく

深呼吸をした。

 「いでよ。ぬりかべ!」

 その瞬間だった大きな壁が後ろを覆った。そのまま後ろの車は壁にぶつかった。

 「春日先生、あの技って最初に会った時の技ですよね。あれってぬりかべと言うのです

か」

 那須は驚いた声をあげた。

 「スーパーヒーローには必殺技には常になんか言ってるじゃないですか。別に何もいわなくても出来ますよ」

 「やったーなんとか逃れたわ」

 その時だった黒い車からヤクザっぽい男がでてきて機関銃を持っていた。春日の乗って

いる車のタイヤめがけて乱射した。タイヤはパンクしそのまま崖に転落した。崖の下は

湖だった。那須は水を自由に操り車から二人を救いだした。

 「下が幸い水で良かったです。水なら自由に操れますからね」

 「何がいいのか分かりませんね。なんとか命が助かっただけでもましかな」

 小池をみるとぐったりしていた。慌てて春日は小池の頬を叩いた。

 「小池さん。小池さん、ちょっと大丈夫ですか。まさか息をしてない」

 春日は小池の鼻元に手をかざした。危険を感じ人工呼吸を施す。口から水が出た。

 「ケホ、ケホ、はああ・・」

 「大丈夫ですか」

 「あんまり大丈夫じゃないわ。死ぬかもしれないと思った。あれでも何で助かったの」

 「僕が水を操りました」

 「凄いこんなことまでできるの」

 「ただ、もう車は沈んでしまったので帰りは電車かバスかな・・・」

 「ああ・・そうか。あー寒い」

 三人とも水でびしょびしょになり大きくクシャミをした。とにかく今は身体を温めたほ

うがいいと思った。

 近くにおでんあります、と書いてあるお土産屋さんに入って身体を温めた。こんな時期

に服を着ながら泳いだのかと言われた。財布の中身を乾かしついでに服も乾かした。

 結局その日は高崎に帰ることにした。春日は高島が自分を殺すために爆弾を仕掛けたと

は思わなかった。でもどこかで生きているならきっと会えると思った。

         

             第三章 完

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