第2話 超能力者なのね

二章

六月。雨がサンサンと降り続く日々が続いていた。春日は修学旅行のパンフレット読んでいた。そこへ那須先生がやってきた。

 「春日先生。修学旅行京都でしたよね」

 「そうですけど。何か」

 「実は良い情報が入ったんです」

 「ははーん。例の力の事ですか」

 「そうです。旅行先で訪ねに行ってください」

 そういうと那須は大きな袋を手渡した。

 「他に何か頼み事は」

 「八ツ橋を買ってきてください」

 「分かりました」

 一週間後春日は京都に旅立つ事となった。東京駅、修学旅行にいくために生徒が駅の

ホームに集まった。そこには高島始もいた。

この間の襲ってきた事件の事はすっかり記憶から消されていた。自分の力のことも知らない状態にされた。

 京都につくと生徒達と離れ那須先生に言われたとおり超能力者を探す事にした。小料理の主だと聞かされた。春日は他の先生の誘いを断り地図を見ながら竹やぶの中をくぐりながら細道を歩いていた。二十分たった頃。突然まわり竹から鈴なりの音が聞こえた。

 「え・・・何事?」

 春日は周り見わたした。竹やぶから一人の女性が出てきた。

 「この鈴は特殊の能力に反応するのよ。あなた小料理屋に行くのでしょう」

 「はい。そうです」

 「だったらここから通さないわ」

 その女性は手のひらを上に掲げて小さな火の玉を作り春日に投げつけた。春日は素早く避けた。

 「あぶないな。別に小料理屋の店長を襲いに来た訳ではないですよ。」

 「仲間だといいたいの」

 「危害は加えませんよ」

 「そんなのわからないじゃない」

 「そうですか。じゃあ貴方におとなしくなってもらいましょうか」

 春日は土に手をつけた。

 「いでよ。ゴットハンド。」

 その瞬間、土が膨らみ大きな土の手が現れた。その手が彼女をつかんだ。

 「なによこれ、動けないじゃない」

 「そのとおりしばらくそうしてください」

 そのとき春日の後ろから竹が大きく動き出した。竹が春日をかこみ檻の状態になった。

 「どうゆうことだ。この檻は」

 「二人ともそこまで」

 竹の奥から料理をする白い衣服に着替えた一人の男が現れた。

 「貴方が春日さんですか。那須君から聞きましたよ。」

 「小料理屋の宮本さんですか」

 「はい」

 「とにかく、この檻を解いてください」

 宮本は静かに目を閉じると竹の檻が消えた。

 「小池さん。こちらは東京から来ていただいた春日さん。今日のお客さんだよ」

 春日は小池と呼ばれた彼女の術を解いてあげた。

 「まったくとんでもない客だわ。」

 「最初から敵ではないといったはずです」

 「まあまあ二人とも私の店で話しましょうよ」

 案内されたのは古風な作り構えの料理屋だった。昼のランチを頼みさっそく話をした。

 「那須先生から聞いたのですが、宮本さんも命を狙われるそうですね。やはり不思議な力のせいですか」

 宮本俊吾郎も大きく頷いた。

 「二年前の冬に腕に蛇の絵が浮かび上がって植物を操られるようになりました」

 小池遼子も同じようなことを言った。

 「私もそうなのニ年前高熱を出し火を操れるようになったの」

 「私はひょっとしてウロボロスかもしれないと思うのです」

 「ウロボロスってなんですか」

 「自分の尾を噛んで輪の形になったという西洋の怪物です」

 春日は自分の腕を見た。確かに蛇が自分の尾を噛んでいる。宮本はウロボロスについて

教えてくれた。

 宇宙の統一を現すようになった。ウロボロスの図があらわす円環運動は終わりがないこ

とから、ヘビの再生力の印象が強まって永遠性を示すようになり、生命の継続の象徴とな

る。ドラゴンがみずから食べる図は、自然の自然による征服を意味する事があるが、錬金

術の世界では、ウロボロスは原初のカオスと対照になす整然とした宇宙をあらわす。とい

う事らしい。

 「自然の自然による征服か、それとも宇宙の統一か」

 「うーん。よくわからないな。でも世界を変えるということなんですね。」

 春日はそのあと雑談をして宮本の店を後にした。修学旅行は無事に終わりを告げようとして

いた。春日は朝早くからお腹をこわしていた。生徒が駅のホームに集まっている最中にトイレ

に駆け込んでいた。お土産を駅で買おうと思っていたのでトイレから出ると

急いで売店で八つ橋を買っていた。

「春日先生、早く早く」

生徒達が大きな声で呼んでいた。春日は両手に一杯に八つ橋を抱えていた。

「待って待って!うあああ・・・」

足がもつれてこけてしまった。おみやげを拾い集め新幹線に乗り込もうとしたが間に合わなかった。

「春日先生、何やってるの。馬鹿!」

「わああー。そんな・・ちょっとー」

春日は駅のホームに置き去りにされた。情けなくペタリと座り込み新幹線を見送った。

「何てことだ。先生が修学旅行に取り残されるなんて」

春日はしばらく落ち込んでいたが機嫌を取り直し次の新幹線で東京に向かう事にした。

駅の店でそばを食べているとテレビから臨時ニュースが入ってきた。生徒達が乗った新幹線に時限爆弾が仕掛けられていたそうだ。死者は確認されていないがほとんど乗った乗客が死んだと報道された。テレビからはヘリコプターから撮影された現場が映されていた。

「そんな馬鹿な事ってあるのか・・・」

春日は何度も首を振った。信じられないというようだった。膝はガクガクと震えだした。

慌てて学校の方に連絡を入れたが繋がらなかった。たぶん保護者が一斉に学校に連絡を入れたのかもしれない。すべての電車は運転見合わせされた。一晩経ってから春日は京都から東京に戻ってきた。タクシーを使い学校に向かった。すると学校には報道陣と保護者が詰め合わせていた。

「春日先生。どうしてここにいるのですか。うちの息子は死んだんですよ」

見覚えのある顔だ。確か生徒会長をしていた子の母親だ。

春日を見ると取っ組み合いになった。襟を掴み何発か殴られた。

「なんでてめーだけが生き残ってんだ。お前だけ新幹線に乗らなかったのか」

春日を囲み罵声をあびさせられているとそこに那須先生が来た。

「この人は何も悪くありません。ニュースでも言っているでしょう。テロリストの仕業だって、なんでこの人を責めるんですか」

「一人だけ生き残って何が先生だ。生徒を守るのが先生だろ」

「そうよ。おかしいじゃない。許せないわ」

那須は急いで春日を自分の車の場所まで連れて行き春日を助手席に乗せた。

「春日先生。とりあえず私のアパートに行きましょう。今、春日先生のマンションにいくと報道陣が集まってくるかもしれませんからね」

「僕が生き残らなかったら良かったんだ」

春日は今にも泣き出しそうな震える声で呟いた。

「そんなことはありません。絶対に」

 那須は自分の住んでいるアパートに着くと春日にホットミルクを出した。春日は最初黙って飲んでいたが堰を切ったように泣き出した。

 那須はティシュペーパーの箱を差し出すと勢いよく箱を掴みちり紙を掴めるだけ掴んだ

初めは声を殺して泣いていたがだんだん大声を出して泣いた。色んな気持ちが押し迫って耐え切れなくなっていた。目がウサギのように真っ赤になり声もかれ涙も涸れた。

 「春日先生、大丈夫ですか」

 「僕のせいなん・・ですか。僕が皆を殺したんですか」

 「それは違います。新聞でもテロリストのせいだと言ってますし春日先生は運が良かっ

たんです。助かったんですから」

 「もしも僕がこんな力がなければ人は死ななかったんじゃないのかな」

 「だったら私もそうじゃないですか。学校に爆弾だって仕掛けられるでしょう」

 「それならなんで僕だけが助かったんだ」

 「貴方は救われたんです。命を拾ったと思えばいいじゃないですか」

 「生きていても地獄なんです」

 春日がそういうと那須は春日の頬を強く叩いた。

 「命をそんな風にいうものじゃありません。生きたくても生きられなかった人だってあるで

す。生徒たちのためにも生きなさい」

 「貴方にはわからないでしょうがこれからマスコミに追われる立場なんだよ。僕だけ

、新幹線に乗り遅れた人間は僕だけ、それを面白がって追い掛け回されるのですよ。」

 「時が経てば解決してくれます。私も貴方に協力します。貴方だけが悩まなくてもいい

ように」

 春日は鼻をすするとため息をついた。

 「教師をやめます。これ以上つらい立場にいられません。学校関係者には何か言われる

と思いますが仕方ない」

 「そうですか」

 しばらくしてチャイムが鳴った。那須は玄関の前で用件を聞きにいった。

 「はい、何の用件でしょうか?」

 「すいません。そこに春日先生がいますよね。たった一人生き残った気持ちをお聞かせ

いただきたいのですが」

 どうやら新聞記者らしい。

 「春日先生はいませんが」

 「変ですね。ここにいるっている情報を聞いたのですけど」

 「知りません」

 那須はそう言い切った。しばらくすると、軽く舌打ちをし帰っていった。

 春日は脅えたように耳を塞いでいた。十分経ってから今度は電話がかかってきた。

 「はい。那須です」

 『春日いるんだろ。一人だけ生き残ってるんじゃねえよ。早く自殺でもしろよ』

 そう言うとプツリと切れた。那須は驚いた生き残っていることがそんなに悪いことなの

だろうか。春日は一晩那須のアパートで過ごすと覚悟を決めて学校に行った。

 マスコミ関係者が学校に集まっていた。校長と教頭と春日は三人で謝罪をした。

春日は警察に事情聴取されたが流石に新幹線に爆弾を仕掛けられるほどの能力はないし生徒

を殺す理由もないと理解された。しかしマスコミは春日を追いかけた。春日は学校をやめた春日は東京から高崎に移り住んだ。

那須はいろいろ考え春日についていくことにした。三ヶ月が過ぎ落ち着いたときに春日と一緒に京都に行くことになった。京都駅には献花台があった。花束を二束買いそなえた。

 「那須先生。もし・・」

 春日は言葉を濁らした。

 「もし・・何ですか?」

 「もしこの事件が僕の能力と関係していた

らこの事件を起こした人間を許しません」

 春日はそう言い切った。涙は流してはいなかった。ただ春日の背中が何かを物語っているように見えた。

                 

第二章 完

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