龍が落とした運命の歯車  ~あなたに伝えたい超能力者として~

星乃秋穂(ほしのあきほ)

第1話龍が落とした運命の歯車  ~あなたに伝えたい超能力者として~

 龍が落とした運命の歯車  ~あなたに伝えたい超能力者として~


 林に囲まれた大きな洋館があった。広い庭園には季節を彩る花々が咲いている。

 そこへ一台の車が門の前に止まった。中から二十五、六くらいの男性が降りた。紺のスーツを身に纏い凛々しい顔つきをしている。

男は、門の前に行くとインターホンを鳴らす。

しばらくして若い女性の声が聞こえた。名前を言うと門は大きく開かれた。手馴れたてつきで車を駐車場に止めると屋敷から中年の女性が出迎えた。

 「お久しぶりですね。信二さん」

 那須信二は静かに頭を下げた。

 「お母さんもお元気そうで何よりです」

 「ささ、お茶の用意ができておりますから早くお入りなさい」

 母親は久しぶりに戻ってきた息子を急かすように家に案内した。玄関には西洋のアンテ

ィークが並んであった。客間に案内され、椅子に腰掛ける。テーブルの上には綺麗な花が

飾られていた。お手伝いが準備をし終わると二人の前に紅茶とクッキーが入ったお皿が並べられた。

 「今日は貴方が来るから特別に焼いてみたのよ」

 母親は懐かしそうに微笑んだ。早速、一つ口に含むと香ばしい味がする。

 「とても美味しい。それから突然訪れてすみません。普段連絡しなくって・・」

 「貴方ときたら家に電話してもいつも留守電、それに直ぐ引っ越すものだから住所がわからなくて時々探偵でも雇おうかしらと思うほどよ」

 母は少し含みのある微笑を浮かべる。信二は申し訳なさそうに俯いた。その原因は二年前に遡る。ある日、高熱を出しその後に蒼い蛇の痣が現れ水を自由自在に操れる能力を兼ね備えた。しかしその能力が災いしたのか何度も命を狙われる事となり家族に被害が及ぶ前に家を出た。今日は母が探してくれた情報を受け取ることになっていた。

 「でも、こうして無事に戻ってきてくれたのですからね。少し待っていてください」

 そういうと、母は立ち上がり資料を取りに奥の部屋に入っていった。大きな封筒を片手に持ち帰ると信二に手渡す。早速明けてみると、仲間かもしれない人物の調査表だった。

 春日敏、二十七歳、高校教師。蛇の色は黒能力は土に関係する。人物写真は美形ではないが好感のある優しそうな顔に眼鏡をかけていた。住所と地図も同封されている。

 「これで少しは希望がみえてきました」

 「貴方、今生活はどうしているの。ちゃんと食べていっているの」

 「時々日払いのバイトをする事もありますが、ちゃんとした期間なら塾の講師をしています」

 母は悲しそうな顔をして溜息をついた。あまり子供に手をかけてはいけないと思いつつ信二が不憫で仕方なかった。帰りがけお弁当を作らせ彼に持たせた。

 時間が経つもの早く既に夕方になっていた。

空は赤く染められていた。母に礼を言うと車に乗り込もうとする。咄嗟に母は引き止めた。

 「信二・・。何かあったら連絡しなさい。

母さんいつでも力になってあげるからね」

 「ありがとうございます。母さんも身体に気をつけて・・・」

 母は車が見えなくなるまで見送ってくれた。

帰ってからお弁当を開いてみると、用意されていたのか自分名義の貯金通帳とハンコ、それに臨時講師として許可書が封筒に入っていた。どうやら相手に近づきやすくする為に手配してくれるようだった。

 しばらくして信二は春日に会いに行くことになる。

 透き通るような青空の下、通学路を必死に自転車で坂道を上る青年の姿があった。

 「まさか目覚し時計をかけ忘れるとは思ってもみなかった」

 通学路に入ると学校に向かっていた生徒たちが声をかけてきた。

 「春日先生、おはようございます」

 「おはよう」

 今日は職員会議があり生徒たちよりも早く学校にいかなければならなかった。スピード

を上げ周りの確認を怠った。直線の道路を真っ直ぐ走った。ちょうど左から、車が入ってきた。気が付いたときには遅かった。

 車の急ブレーキの音が木霊した。春日の身体を包み込むようにアスファルトが変形し大きな壁になった。その反動でぶつかってきた

車のボンネットがへこんだ。慌てて、相手が車から降りてきた。背広を着ていた。サラリーマンに見える。その顔に驚きと不安の色を隠せないでいる。

 「だ、大丈夫ですか。あの・・」

 春日の方はしまったという顔をした。自分の身体は無傷だったが、無意識のうちに能力を使って、車を凹ましてしまった。

 「僕のほうは平気だから安心してください。と、いうより車の方が・・」

 春日は静かに相手の車を確認した。割と高級車の方じゃないだろうか、これを修理するとすればいくらかかるのだろう。

 「さ、さ、さっき、地面が盛り上がったような。み、見ませんでしたか」

 「さあ・・どうでしょうか」

 男性は春日の顔を確認すると指をなり嬉しそうな声をあげた。

 「あー!貴方は、春日敏さんですよね!」

 「そうですが・・。」

 急に名前で呼ばれるとは思いもよらなかった。見たところ初対面だと思う。記憶を遡るが同級生に同じ顔した人間はいなかった。

 「運命の出会いはあるのですね。」

 「は?」

 運命の出会いとは大げさじゃないだろうか。ひょっとして先ほどの衝撃で頭でも打ったか

もしれない。

 「貴方、誰かと勘違いしていませんか?」

 「いいえ、貴方です。」

 男はそういって嬉しさのあまり強く春日を抱きしめた。春日は驚いて突き放すと、怯えるように逃げ出した。男は逃げられたショックでポカーンとしていた。しばらくして軽く膝を叩いた。

 「そうか。そういえば、相手は私の事知らないのか。てっきり舞い上がってしまった」 

立ち上がり車を確認した。ボンネットは凹み修理代がかなりかかってしまいそうだ。車からここへ入ってきた時、行き成り黒い壁が盛り上がりその瞬間に衝撃が襲った。彼が土の使い手でなければただじゃなかっただろう。

 「春日敏、面白そうな人だ。でも失敗したな。変に誤解されないといいけど」

 そういって春日の過ぎ去った後を見つめる男の名は那須信二といった。

 春日は学校につくのが遅くなってしまい会議に遅れてしまった。教頭先生に注意されて

肩を落としていると隣の東山直子先生に励まされた。

 「どうしたの。春日先生、いつもなら早めに来ているのに」

 「それが変わった人に出会ってね」

 春日は机の上に整理しながら溜息をついた。

 「初めて会ったのに運命といって急に抱きついてきたんだ」

 「世の中変な人が多いから・・」

 「まったく。そういえば臨時教師が来る日だね。」

 直子先生は急に嬉しそうに微笑んだ。春日は直感的に男性の教師だと思った。

 「それがね、うふふふ・・。カッコイイ若い男性ですよ。純粋そうで私の好みなの」

 「へー。それは嫌だな」

 「あら、平気よ。そう簡単に乗り換えたりしないから、私は春日先生のファンだし」

 春日はどうかなという感じで苦笑いをして机に向かった。しばらくして臨時教師が教頭先生に連れられてやってきた。春日は臨時教師の顔を見て驚いた朝、出合った男性だからだ。

 「あっ・・」

 「どうしました。春日先生」

直子は肩を叩き尋ねた。

 「さっき僕に抱きついた人だ。」

 「え・・・」

 臨時教師は春日を見つけると小さく会釈をした。教頭先生は那須を自己紹介させた。担当する教室は春日と同じだった。そして春日の隣の席を使うように指示された。

 「那須信二です。日本史を担当することになりました。未熟者ですがよろしくお願いします」

 春日の隣の席に行くと那須から話し掛けた。

 「身体の方は大丈夫ですか」

 「ちょっと足のほうが」

 「だったら病院にいきましょう。後から身体にくるといいますから」

 「そのときよろしくお願いしますよ。慰謝料も含めて」

 春日はぎこちない笑顔を作った。教頭先生は春日に那須の事を強く頼んだ。春日は自分のクラスに案内した。春日の授業を見学させて一日が終わった。

 翌日から那須は春日に最近変わった事がないかとか困った事がないかとか聞き込みが多かった。最後には温厚な春日だったが怒り出した。最近といったら朝っぱらから轢かれそうに

なった事。急に馴れ馴れしく何でもかんでも質問する那須が迷惑だと言い切った。那須はそういわれて肩を落とした。

 東山先生は面白そうに春日と那須の会話を眺めた。

 「春日先生。そうカリカリ怒らなくてもいいじゃないですか。那須先生は貴方と仲良くしたくていってるんですよ」

 「でも急に質問されたりしたくないんですよ」

 「でもね・・・・」

 「僕は心配で尋ねたのに春日先生も命を狙われているんじゃないかと思って」

 「何で私が命を狙われなきゃいけないんですか」

 「それは貴方が特別な力を持っているからですよ。車をへこましたじゃないですか」

 春日は髪をくしゃくしゃにかき回して黙りこんだ。しらんぷりして、とっとと自分の受け持つクラスに戻る事にした。

 「なんで春日先生は冷たいんだろう」

 東山先生はほっぺたを膨らまして軽くつついた。

 「そりゃそうでしょう。普通車をへこます何てできないでしょう。現実を考えなよ。那須君。マジックとか超能力の番組見すぎなんじゃないかな」

 「春日先生は特別な人なんです。」

 「泣きつかれても・・困るけどね。しょうがないな」

 東山先生はよしよしと軽く背中を摩った。

春日は渡り廊下を歩いていた。春日の左腕にはシャツで隠れている蛇の紋章が描かれている。

春日は何度か命を狙われたことがあったが

それを那須には伝えなかった。渡り廊下で一人の学生が待ち構えていた。見慣れない顔をしていた。

 「春日先生こんにちは」

 「ああこんにちは」

 「土の力はどうでしょうか」

 「土?いったい何のことかな」

 学生はゆっくりと近づいてきた。含み笑顔で内ポケットから一枚の写真を取り出した。それは昨日車にぶつかった時のものだった。コンクリートが春日の前で壁を作りだしている。春日は不機嫌そうな顔をしてその写真をとりあげた。

 「合成した写真を作って何の意味があるのかな」

 「冗談でしょう。何も隠さなくてもいいんですよ」

 「君の名はなんと言うんだい」

 「高島始」

 「ふーん。覚えておくよ」

 「帰り道には気をつけてくださいよ」

 春日はそういわれて不愉快そうにその場を去った。高島はゆっくり春日の姿を見つめていた。春日は授業が終わると職員会議に出た。     

学校から八時頃に帰宅をした。自転車のライトをつけながら坂道を登った。上りおわり平道を行く途中に急に風が吹き付けた。春日はあたりを見わたした。自転車から降りると空を見上げた。

 「何?」

 風が強く吹き付けると身体全体を取り巻きスーツが破れた。

 「敵か」

 「春日先生こんばんは」

 「高島か」

 電柱の影から少年が現れた。春日は息を飲んだ。

 「風を操ったのは僕ですよ」

 「せっかく新品の背広だったのに、なんてことするんだよ」

 「そんなことを知りませんよ。貴方の能力を頂きにきました。」

 そう言うと手のひらから小さな竜巻が発生した。春日は地面に手をついて力をためた。

 「いでよ。土蜘蛛」

 大きな蜘蛛が立ち上がった。相手の身体を白い糸が被いまくった。

 「春日先生」

 大きな声で呼ぶ声が響いた。振り返ると那須がこちらに向かってきた。

 「こちらはどうしたんですか」

 「この子がしかけてきたんだ」

 那須は驚いた顔をしながら春日と高島を見比べる。やはり春日は自分の思っていたとおり土の能力者だったのだ。

 「春日先生。貴方はやはり土の能力を兼ね備えていたんですね。どうして黙っていたんですか」

 「君もこの子と同じように僕の命を狙いにきたのかと思ったんだ」

 「違いますよ。」

 吊るし上げている高島は必死に糸から逃げ出そうとしているが、もがけばもがくほど糸は身体に食い込んできた。鋭い目つきで春日を睨み付ける。

 「俺を捕まえてどうするつもりだ」

 「そうですね。誰に命を狙うように頼まれたか教えてもらいましょうか」

 春日はパチンと指を鳴らすと高島は地面に叩きつけられた。春日は右手を広げて相手の

額に手をあて、軽い催眠術を施した。

 「どうして僕を狙った」

 「新しい能力が欲しかった」

 「なるほど。もういいから今日の事は忘れなさい」

 そういうと春日は手を離し高島を眠らした。

 「那須先生も何か能力を持っているのですか」

 「はい。水の能力ですが」

 「そうですか。このことはくれぐれも内密にしておいてくださいね。たぶんまた刺客がやってくるかもしれませんから」

 その日から春日と那須は仲間になった。桜が咲き終えた頃のことだった。           

第一章 完

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