第30話 墓参り

 夏祭りから帰宅し、風呂に入り終わり、ベッドにダイブして今日はもう寝ようと思っていたとき、瑠美からココアトークにメッセージが来た。


『明日、話したいことがあるので会いたい』

 とのこと。

『明日は家族で墓参りに行く予定があるんだ』

と返すと、

『私もついていっていいですか?』

と言ってきた。


 どうしても明日直接会って話がしたいらしい。

 俺は了承して、明日の予定について彼女と話し合った。 



 翌朝、今日は瑠美が俺の家まで来ることになっているので、自室待っていると、インターホンが鳴った。


「おーい、久留宮がきたぞー」


 と俺が一階に降りて、リビングにいる家族に向けて言うが、


「ああ、こんなときにお皿割っちゃった!」


 と母さんが割れた皿の前であたふたしている。


「ああ、こんなときにぎっくり腰が!」


 と父が四つん這いになって腰をなでさすっている。


 妹は……まだ二階にある彼女の部屋で寝ているようだ。

 朝からバタバタしてるなあ。


「お、俺たちはまだ行けそうにないから二人で先に向かっててくれ!」


 と父が言うので、俺は玄関に向かい、ドアを開けた。

 その先には、いつも通り可憐な彼女がいた。


「あ、志津……怜久くん」


 一瞬、名字を呼びそうになって、慌てて訂正したところがなんか可愛かった。


「父さんも母さんも妹も、まだ時間がかかるらしいからさ、先に行ってくれってさ、行こうぜ、瑠美」

「あ、はい」


 俺が歩き出すと、瑠美は焦りながらついてきた。

 彼女の歩く速度に合わせて歩いていると瑠美は早速切り出してきた。


「怜久くんに言わないといけないことがあるんです」


 と彼女は暗い顔をして俯いた。そんな彼女に俺は苦笑しながら言う。


「帰るんだろ、天界とやらに」


 彼女がここ最近、ずっと言いづらそうにしていたことは、たぶん、それについてなのだろう。


「え、気づいてたんですか?」

「なんとなくな」


 やっぱりそうだったか。そろそろ別れないと行けないんだろうなと、彼女の様子を見ていて思っていたんだ。


「いつ帰るんだ?」

「明日です」

「明日か……急だな」

「ごめんなさい、もっと早く言おうと思っていたんですけど、言いづらくて……本当はもっと早く帰らないと行けなかったんですけど、この生活が楽しくてギリギリまで帰るのを待ってもらっていたんです」


 瑠美はその場で足を止めて、涙目になった。俺も立ち止まると、彼女の涙を指で拭いながら言う。


「謝らなくていい、俺も別れるのが辛いし、たぶん瑠美の立場なら俺もそうしていたから……」

「怜久くん……」

「そうだ、明日さ、またデートしようぜ? 最後なんだからさ」

「はい、そうですね、そうしましょう……」


 と、まだ涙目の彼女が無理しているかんじで笑った。。


「どこに行こうか?」 

「そうですね……また、あの公園に行きたいです、最初にデートしたあそこに」

「あそこか……瑠美はほんと公園が好きだよな、わかった、明日はギリギリまで公園で過ごすか」

「はい」


 と彼女がか細い声を出したのに反して、俺の手を強く握ってきた。

 それからは俺たちは手を繋いで、目的地へ向かった。


 三十分ぐらいして、俺の家の墓がある墓地に着くと、瑠美が入口で墓の大群を見ながら呆然と立ち尽くした。


「瑠美、どうした?」


 と訊くが心ここにあらずというかんじだ。


「私、ここ、来たことがある……」


 瑠美はぼそぼそとそう言うと、突然走ってどこかに向かい出した。


「あ、おい、どこへ行くんだ?」


 俺も走って追いかける。彼女は足が遅いのですぐに追い付いた。

 ずらりと並んだ墓の間を抜けながら走る瑠美についていくと、やがて彼女はある墓の前で止まった。

 その墓の表面には、久留宮家之墓とかかれている。


 久留宮家之墓……? 

 これは、彼女の家の墓なのか……?


 俺が疑問に思っていると、彼女はその墓の隣にある墓誌のほうへ行く。

 俺もそこへ行き、彼女の隣に立つと、その墓誌にはさらに衝撃的なことが書いてあった。


 久留宮瑠美 平成三十年七月七日没


 ……なんだよ、これ?

 混乱しながらも、俺は瑠美の方を向いて、訊いた。


「瑠美、これはどういう……」

「う……頭が……」


 突然、瑠美が頭を抱えながら痛そうに顔を歪める。


「大丈夫か? 一旦どこかで休むか?」

「い、いえ……大丈夫です……もう痛みは治まりました」


 彼女は頭から手を下ろすと、どこかスッキリした顔をしていた。

 

「怜久くん、私、思い出したんです、過去のことを全部……」

 

 一旦、一呼吸おいてから彼女はその先を話した。


「私、実は元々はサンタでもなんでもない普通の人間で、一度、死んでいるんです」

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