第23話 ナンパ勝負

 SHS団のアジトから帰った後、今度のデートはどこに行くか、久留宮とココアトークで話し合った。

 その結果、久留宮がこの前デパートで買った水着を着たいというので、海に行くことになった。

 その後いつ行くかも話し合い、両方の予定が空いていた三日後に行くことに決まった。


 そして、その当日――


 久留宮の家があるマンションの前で俺が待ち伏せていると、彼女はこの前デパートで買ったワンピースを着て、自動扉から出てきた。


「ごめんなさい、また待たせてしまいましたね」

「いや、今回はマジでさっききたばっかだから気にしなくていいよ」

「そうなんですか? ならいいですけど」

「それより、その服、この前買ったやつだよな? すごく似合ってる、めちゃくちゃかわいい」

「えへへ、そうですか」


 と彼女は照れくさそうに微笑した。


 それから俺たちは駅に行き、電車に乗った。目的地がある駅で降りて、そこから15分ほど歩いて、ようやく海水浴場に着いた。


 まずは海の家に行き、俺と久留宮は一旦別れて、それぞれの更衣室へ行った。

 久留宮の水着姿……楽しみだな。

 水着を着た彼女を想像しながら俺は着替えて、海の家を出た。

 久留宮の姿を探すと、すぐに発見できたが、なにやら色黒の金髪に染めた男に声をかけられていた。

 どうやらナンパされているっぽかった。

 俺は急いで彼女の元へ向かう。


「ねえ、ひとりなの、連れは?」

「え、えと……」

「そんな怖がらないでよ、なにもしないからさ」

「え、あ、あの……」


 色黒の男に言い寄られた久留宮は縮こまってびくびくしていたが、俺が来たのを見て、ぱあっと顔を明るくする。


「あ、志津木くん、助けてくださ――」

「なに、ナンパ? いいねえ、俺もまぜてよ」


 俺はその色黒君の肩に手を置いた。彼は「なんだこいつ」と言いたそうな顔を俺に向けてくる。


「ええええ!?」


 久留宮が目と口をこれでもかというくらい大きく開く。


「なんでですか、そこは颯爽と俺の彼女に手をを出すな、とか言うのがセオリーでしょう!」

「そんな普通なの、つまらないじゃないか、芸人志望としてはそんな選択肢選べないな」

「こんな場面でおもしろいことしようとしなくていいですから!」


 髪が逆立ちそうな勢いで俺に怒りを向けてくる久留宮。

 色黒の男は俺たちを交互に見て、困惑した顔を浮かべている。

 

「な、なに、ふたりは知り合いなの?」

「知り合いかもしれないし、そうでないかもしれないね」

「は、はあ……?」


 俺の返答に、ナンパ男君は納得していなさそうに首をかしげる。


「で、君はこの子にどういうふうにナンパしようとしていたわけだね? 点数をつけてあげるから言いなさい」

「はあ、ひとりでポツンと佇みんでいたから連れがいないのを確認したら、よかったら俺と遊ばないって言おうとしてましたけど」

「ふむふむ……ん? それだけ?」

「それだけっすけど」

「20点! そんな普通なの、だめだめ、そんなんでナンパが成功すると思っているのか? ちょっと俺が手本を見せてあげるから、そこにいなさい!」

「は、はあ……」

「じゃあ、久留宮、俺がナンパする男の役を演じるから、君はナンパされる側を演じてくれ」

「ええ、いつまでこの茶番を続けるんですか……」


 めんどくさそうにしながらも、久留宮は一応付き合ってくれるようだ。

 俺は久留宮から少し離れると、見ず知らずの人がいきなり距離をつめてきたかんじで彼女に近づき、ナンパをしかける。


「君、まるであの雲のように白くてきれいな肌をしているね、今日は紫外線が強いからこのままだと君の美しい肌が傷ついてしまう、日焼け止めは持ってる? 持ってないなら、俺、いい日焼け止めを持っているから、君にそれ、塗ってあげようか?」


 俺はキメ顔でそう言った。


 我ながら完璧だ。あらゆる点で配慮が行き届いている。まず、相手の肌を誉めているところが評価ポイントだ。誉められて悪い気はしないだろう。加えて、紫外線の話をして優しい男だという印象を相手に抱かせている。さらに、日焼け止めをもっていることを話して用意周到さもアピールしている。


 これで落ちない女とかいる? てかんじだ。

 聞くまでもなく100点だろうが、いちおう久留宮に評価してもらうか。


「どうだ? 久留宮、今すぐ俺に日焼け止めを塗ってほしくなっただろう? 点数つけるとしたら何点だ? 100点だよな?」

「いえ、0点ですね、なんならマイナス50点にしたいくらいです」

「な、なに!? いったいなにがだめだったんだ!?」

「まず、誉めてくれるのはいいんですけど、褒め方がなんか気持ち悪いです。日焼け止めを持っていることもそれを塗ろうとしてくるところも、下心丸見えで正直すごく気持ち悪いです」


 気持ち悪いって、まさかあの久留宮にそんなことを言われるなんて……。

 さすがの俺もショックを隠せなかった。


「だいたい、日焼け止めを私がもっていたらどうするんですか? 女の子はだいたいもっていると思いますよ? そもそも私はもう日焼け止めを塗っていますし」

「その場合は、俺が持っている日焼け止めのほうが絶対効果あるから、試しに俺に塗らせてよ、て言う」

「うわあ、なんかとにかく私の体に触れようとしてきているかんじがすごいして、めちゃくちゃ気持ち悪いです。そもそも、仮にその日焼け止めを使うにしても、自分で塗りますよ」

「じゃ、じゃあ、さっきの色黒君のナンパに点数をつけるとしたら、何点?」

「うーん、10点、かな?」

「負けた!?」


 俺が頭を抱え、その場に崩れ落ちると、さっきの色黒くんが声をかけてきた。


「あのー、なんか、めんどくさくなってきたんで、もういいっすわ、それじゃ」


 ナンパ男が俺たちの前から去っていく。

 危機を脱したというのに、久留宮は、まったく喜ばず、なぜか俺のことをひきつった顔でずっと見ている。


「なんだね、その顔は? ナンパ男を撃退してあげたんだから、もっと感謝すべきなんじゃないかね?」

「え、撃退してくれてたんですかあれ? もっと普通にやってくださいよ」

「いいじゃないか、結果的にナンパを止めたんだから、ほら、お礼はどうした?」

「え、あ、ありがとうございます……?」

「うむ」

「なんか釈然としません」


 口をぶーと尖らせる久留宮。

 そんな顔もかわいいなあ。


 俺は改めて彼女の水着姿をよく見てみることにした。

 先ほどはナンパ男を追い返すためにあれこれしていて、落ち着いて見られなかったからな。


 その水着は、肌が白くて華奢な久留宮によく似合っていた。

 どちらかというと美人というより、かわいい系の彼女が赤い水着を着ると、普段より大人びて見える。

 端的に言うと、すごくエロい。

 ていうか、今気づいたんだけど久留宮って結構胸大きいんだな……D、いや、Eくらいあるか……?


「な、なんですか、私のことをじろじろ見て?」

「いや、水着似合ってるなって、すごくかわいい」

「そ、そうですか、それはよかったです」


 彼女は顔を赤くしながらも、嬉しそうに顔を綻ばせた。


 それからも俺が久留宮の水着姿をじーっと見続けて、「いくらなんでも見すぎです!」と言って彼女が恥ずかしそうに両腕で体の前を隠したとき、聞き慣れた声がどこかから聞こえてきた。

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