第20話 性癖公開
夏休みに入った。
この長期間の休みの間に、溜まった積みゲーを消化しようと、俺は初日から引きこもってエロゲばかりしていた。
「やばい、もれちゃうもれちゃうもれちゃうぅぅぅ!」
部屋から飛び出て、股間を抑えながらトイレへ走る。
「ふぅ……」
溜まりに溜まったものを出し切って、トイレから出た。
プレイしていたエロゲがいいところだったからずっと我慢していたのだ。
しかし、限界まで我慢した後のしょんべんは、どうしてあんなに気持ちいいのだろうか?
部屋に戻ると、ドアが開け放たれていて、中に誰かいた。
「へぇ、お兄ちゃん、こういう女の子が好みなんだ、ふーん……」
妹が俺の部屋に無断進入して、なにやら部屋の中のものをごそごそと漁っていた。
背後から声をかけた。
「おい」
「きゃ、きゃあああああ!」
「お前、なに勝手にオレの部屋に入ってんだよ」
「お、お兄ちゃん、び、びっくりしたー、」
こちらを向いた妹は一冊のエロ漫画を持っていた。
『爆乳刑事~この胸で捕まえちゃうぞ~』という作品だ。
「お前、それ……」
「あ、こ、これは、ちがくて―」
「さてはおまえ、俺のエロ本を捨てようとしているんだな!?」
「え?」
「母さんもお前も、なぜ俺のエロ本を捨てようとする、それだけは許さないぞ!」
「いや、べつにそういうことしようとしていたわけじゃないんだけど……」
「じゃあ、なにをしようとしていたんだ?」
「な、なんでもない、お兄ちゃん嫌い!」
「あ、おい!」
妹はエロ漫画を乱暴にその場に放って、足早に部屋から出ていく。
「丁重に扱ってくれ、まったく、だがまあ危機はとりあえず去ったようだな」
エロ漫画はいくつか見られてしまったようだが。
だがまぁいい。妹が見ていたのは、比較的ノーマルな性癖のやつだ。本当にやばいのは見られていない。俺的にはセーフだ。
「くそ、エロゲタワーが崩されているじゃないか、また積み上げないと……」
と崩壊したエロゲの山を一つずつ丁寧に積み上げていた時、
ぞわり!
突如、背後からすさまじい悪寒がした。
振り返ると、そこにはいつの間にか母さんがいた。
しまった、ドアを閉め忘れていた。
「怜久……それはなにかしら?」
と母さんがエロゲタワーを指差し、威圧感のある笑みを浮かべた。
「ずいぶんたくさん買ったのねぇ、どこにそんなお金があるのかしら?」
「バ、バイトしているからな」
「バイト代がそんなものを買うために使われているなんて、お母さん悲しいわ……」
「バイト代をどのように使おうが俺の自由だろ」
「ええ、普通の趣味にお金を使うならね」
「ふ、普通の趣味さ、男がエロゲをするのは」
「そうかしら? さっきね、美久からきいたの、怜久が大量のやばそうなエロゲやエロ漫画を部屋に隠してるって」
くそ、あいつ、密告だと!? なんてことしてくれたんだ!
「べ、べつにやばいものなんてない、普通のやつしかないぞ」
「やばいかやばくないかは私が見た上で判断するわ、部屋の中、調べさせてもらうから……」
「や、やめ、ああっ!?」
母がエロゲタワーを乱雑に崩した。その後本棚の本も一冊ずつ抜き取って、チェックしていく。
また、それだけでは飽きたらず、母は奥の収納やベッド下の引き出しすらも調べていく。
「あ、そ、そこはダメだ!」
あそこらへんには自分ですら度しがたいと思うようなものが入っているのに!?
しかし、進撃の母は止まらず、俺の部屋を隈なく調査し、エロゲやエロ漫画を次々と駆逐していった。
「や、やめろ、もうやめてくれぇぇ!」
俺の絶叫がむなしく響き渡る。
そして数十分後、緊急家族会議が開かれた。
「今から緊急家族会議を始めます」
母が周りを見渡した後、重々しく告げる。
家族全員が、リビングのテーブルに集まっていた。
誰も言葉を発さず、全員が緊張した面持ちだ。
議長である母は両肘をテーブルにつけて、ゆっくりと本題に入った。
「怜久の部屋から、大量のエロ本とエロゲ―、あと二次美少女の抱き枕カバーが見つかりました」
父と妹がうわあ……という目を俺に向けてくる。
「部屋にあったエロ本とエロゲのジャンルは多岐にわたるわ、おねしょた、TS、女装、露出、ふたなり、男の娘、催眠、NTR、スカトロ、緊縛、石化、壁尻、触手、逆アナル……」
「な、なにそれ、聞いたことない用語がたくさん! い、いったいどんな内容なの!?」
それらの単語から醸し出される魔のオーラがそうさせているのか、聞いただけだというのに、妹はがたがたと震えている。
「知る必要はないわ、それらは深淵よ、のぞいた瞬間、自分ものぞかれてしまうとても危険なものなの、ニーチェが言うようにね」
実に深刻そうに言う母。
ニーチェってそんなこと言ってたっけ?
それにしても、なんてことだ。
これは家族会議なんて生ぬるいものじゃない、公開処刑だ。俺の性癖暴露会議だ。
「怜久、お母さんね、べつにエッチなことに興味を持っちゃダメとは言ってないの。思春期ならそれは当然だわ」
「か、母さん」
母さんが寛容でよかった、俺はあなたの息子でよかったよ。
「ただ、ただね、性癖が特殊すぎるのよ! こんな性癖の人間がまともな大人になれるとはとても思えない! やばいやつは全部没収させてもらうわ!」
「そ、そんなぁ!」
前言撤回。母さんは不寛容だ。
だが、不幸中の幸いだ、まだパソコンには大量のコレクションがある。
それらさえあれば、オレの日々の自家発電にはまったく支障はない。
しかし、そんな俺を嘲笑うかのように、母は告げる。
「ちなみに、パソコンにある催眠音声やCG集や同人エロゲも、全部消去しますからね?」
「な、なにぃぃぃぃ!?」
どうして母さんがそんな知識を!?
「ふふ、怜久、母をなめちゃだめよ、家事の合間に私はいろんなサイトでネットサーフィンをしているのよ? そういう作品もそういうのが売っているサイトも当然知っているわ」
ふふんと偉そうに胸を反る母。
俺は肩をがくっと落とし、絶望感に苛まれながら、机に突っ伏した。
「くそ! どうして怜久はあんな変態になってしまったんだ、俺と母さんはこんなにまともなのに……!」
頭を抱える父さんに、ジト目の妹からツッコミが入る。
「いや、お兄ちゃんの変態さはどうみてもお父さんの遺伝でしょ……」
「くそ! 俺の精子か! 俺の精子のせいで! 怜久がこんな変態に!」
どん、どん、と悔しそうに机をたたく父。
母さんがしくしくとわざとらしく、両手で顔を多い、泣く演技をした。
「ああ、こんなことになるなら、別の男の人の精子を受精すればよかったわ!」
「か、母さん、それはひどい、あんまりだ……」
「やだわね、もう、冗談よ、本気なわけないじゃない」
母さんはそう言って、涙目の父の肩に優しく手を添える。
そして、見つめ合う二人……
「母さん……」
「お父さん……」
「なんなの、この人たち……」
妹はげんなりした顔でその茶番劇を眺めていた。
しかし、俺は彼らの夫婦漫才を楽しむ余裕なんてまったくなかった。
おわった、俺の人生は、ここでゴールなんだ……。
あのさまざまな作品は、たとえ世間からの理解を全く得られなくても、たしかに俺の人生を色鮮やかに輝かせてくれたのだ。
もう、俺の人生は真っ暗だ。こんな光明のない閉ざされた世界に、生きる価値は果たしてあるのか……?
家族会議が終わった後、自室へ向かいながら、生きる意味について哲学的に思索していたとき、二階に上がったところらへんで、父が小声で呼び止めてきた。
「怜久、これ」
父が手のひらにあるUSBメモリを見せてくる。
「ここに失われたおまえのオカズのバックアップが取ってある、おまえにこれをやろう」
「と、父さん……」
俺は感動で泣いていた。
いつのまにバックアップを取っていたのかとか、もしかして勝手に俺の部屋に入って、USBメモリに俺が買った作品をコピーして入れていたのかとか、そんな些末なことはあまり気にならなかった。
「お前の気持ちはいたいほどよくわかる、おれも子供のころ親にハードSMもののエロ本をよく捨てられていた。今度はバレないようにするんだぞ」
「ああ、父さん、俺は父さんの息子でよかったよ! あんたの精子から生まれて本当によかった!」
「息子よ、さすがの俺でもその発言はちょっと気持ち悪いと思うぞ」
希望を取り戻した俺は、息子のほうも元気になったので、USBメモリを受けとると、自室に行き、早速その中にある作品をオカズにした。
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