第13話 喘ぎ声出しながらう○こするタイプ

 教室に戻ろうとして、昇降口に入ると、久留宮が体操着のまま待ち受けていた。


「あれ、まさか、俺をずっと待っていたのか?」

「はい……」

「べつに待たなくていいのに」

「でも、私のせいで、志津木君、先生に目をつけられたみたいだし……先ほど、呼びだされてましたけど、大丈夫でしたか? 私のせいでまたなにか言われたんじゃ」

「ああ、別にそれとは全然関係ない話だから大丈夫、ていうかさっきも言ったけど、久留宮のせいじゃないって。俺が勝手に先生に反抗的な態度を取っただけなんだから」

「でも……」


 久留宮の目がじわっと湿り気を帯び始める。


「ちょちょ、泣くなよ、これくらいのことで、ほんと気にするなって、自分で言うのもなんだが、俺、問題児だから先生に怒られるのなんてしょっちゅうだぜ?」

「でも、今回は私のせいですし……」

 

 俺は溜息をつく。

 しかたない、対応を変えるか。


「そんなに申し訳ないと思うなら、なんかお詫びをしてくれよ」


 と俺がにちゃあっとした笑みを浮かべると、彼女はキョトンとする。


「お詫びですか? なにをすれば」

「そうだな、じゃあ、体でお詫びをしてもらおうかな……」

 

 と手をワキワキしながら彼女ににじり寄ると、彼女はひっとおびえた顔をしながら後ずさった。

 だが、そのすぐあと、考え込む表情になって、やがて覚悟を決めた顔を俺に向けた。


「わ、わかりました、それで借りが返せるのなら……」


 と震えながらも俺から逃げるのをやめる彼女。

 俺は立ち止まり、にちゃついた笑みをするのをやめた。


「いや、冗談だよ、本気にするな、俺の言うことなんて、8割くらいはふざけて言ったことだからな? なんてったって芸人志望だからさ」

「へ、冗談、なんですか? ほっ……あ、で、でもでも、それじゃあ借りが返せません」

「なら、そうだな、今度またデートしてくれよ」

「え、そんなことでいいんですか?」

「俺にとってはそんなことじゃないな、久留宮と出会うまで、恋人がいないどころか、家族以外の女性との関わりがほとんどなかったくらいだからな、こんなかわいい女の子とデートできるってだけで、幸せすぎて明日死んでもいいくらいだ」


 久留宮がくすりと笑った。


「大袈裟ですね、わかりました、デートしましょう、私はあなたの彼女ですもんね」

「決まりだな、さあ、早く戻って着替えようぜ、このままだと着替え終える前に次の授業始まっちまうぞ」

「あ、そうでした、急がないと!」


 と彼女は本気で走っているつもりなのだろうが、俺の早歩きくらいの速度でのろのろと女子更衣室へと向かった。

 

 俺も教室へ戻ると、既に男子たちはみんな着替え終えていた。

 自席に行き、上着とズボンを脱いだ時、北條君が心配そうに声をかけてきた。


「おい、志津木、早く着替えろ、そろそろ女子が来るころだぞ」


 ちょうどその時、がらっとドアを開けて女子たちが入ってきた。


「きゃあああ、なんでまだ着替えてるのよおお!」

「変態変態!」

「またあんたなの、志津木!」

「いいかげんにしてよ、バカ!」

「ちが、これは、今回は違うんだぁぁ!」


 今日は厄日かもしれない。





 3限目が終わり、休み時間になったことまでは覚えている。

 しかし、そこから先の記憶がおぼろげだ。

 気づいたらトイレにいたのだ。


 そして、恥ずかしながら、早速、百鬼先生との約束を破り、俺は抜こうとしてしまっていた。

 昨夜は二回抜いている。いつもなら我慢できていた。

 しかしオナ禁していることを意識すると、急激に抜きたくなってしまい、いつのまにかトイレの個室に駆け込んでいたのだ。


「はは、ははははは」


 乾いた笑いが漏れる。

 我ながら情けない男だ、俺は。

 自分の弱さを、俺は今これ以上ないほど痛感している。


 こんなものに頼りたくなかったが、俺は先ほど先生にもらった、無駄に巨乳のババアの絵をズボンのポケットから取り出した。

 折りたたまれたそれを広げて、露わになったババアの絵を凝視する。

 性欲が先ほどまで200だったとしたら、100まで減ったのを感じた。


 その時、目の前のドアが、ガチャッと開いた。

 開かれたドアの先にはチャラ男の南出君がいた。


「おわっ、なんでカギ閉めてねぇんだよ、お前!」

「わりぃ、閉め忘れてたわ」

「しっかりしてくれよ……ていうか、なにやってんだお前」

「すげぇオ〇ニーしたくなってしまってな、トイレの個室に駆け込んだんだ」

「学校でなにしようとしてんだよ……ていうか何だその絵、ババアじゃねぇか、胸は無駄にでかいけどよ、お前、こんなのでいつも抜いてるのか?」


 と彼はドン引きした顔を俺に向けてきた。

 俺は焦りながらも釈明する。


「いや、ちげぇよ! こんな絵で抜くわけねぇだろ! 抜かないために俺は見たくもないこの絵を必死に見てんだよ! それくらいわかれ、バカ!」

「はあ? 意味わかんねえ、お前のことなんかわかるわけねえだろ、バカ……まぁよくわからんけどがんばれ、俺は隣の個室でう〇こするから、あんまり音聞くなよ?」


 と扉を閉めた彼は隣の個室に入ったようだ。

 カチャカチャとベルトを外し、ズボンを下す音がした後、「あっ、あああっ、んんぅ、ふぅ、んっ、んああああっ!」という低音の喘ぎ声とともに、ぶりぶりぶりぃぃぃっっという耳障りな排泄音が隣から響いた。


 うわっ、あいつ、喘ぎ声出しながらう〇こするタイプだったのか。

 隣りでこんなものを聞かせられる身にもなれよ。


 まぁ、今のを聞いたおかげで、性欲が一気に10くらいにまで減ったが。


 俺は絵をたたんでポケットにしまい、南出に感謝してトイレを出た。

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