第8話 買い食い
放課後になると、久留宮が大きく伸びをして、机に突っ伏した。
「はあー、やっと学校が終わりました、疲れましたー」
今日が登校初日だもんな。彼女にとっては慣れないことの連続だったろうから、疲れるのも無理はない
「久留宮、よかったら一緒に帰らないか?」
「そうですね、私はあなたの彼女ですし、一緒に帰りましょうか」
お互いに帰り支度をして、席を立つ。
丸田がこちらの方へ来て、「志津木、一緒に帰……」と言ったところで、細野に止められていた。
いつもはあいつらと一緒に帰っているが、わりいな、もう俺はそっち側じゃないんだ。
細野と丸田がぐぬぬと羨ましそうに隣り合って教室を出ていく俺と久留宮を見ていた。
教室を出て、廊下を歩いていると、背後から呼び止められた。
「志津木君!」
振り返ると、声の主は委員長だった。彼女は走って俺の方へ来る。ちらっと俺の隣の久留宮の方を鋭い目つきで見て、それから再び俺の方に目を向けた。
何だ今の久留宮に向けた顔は……?
「どうした、委員長?」
「志津木君、今日、予定空いてる?」
「今日はバイトないし、ひまだな」
「よかった、ちょっと話したいことがあるの、五時に名駅の金時計の付近で落ち合わない?」
「べつにいいけど、ここじゃ話せないのか?」
「他に人のいないところで話したいのよ」
まさか、これは告白か?
参ったなぁ、委員長は俺のことを好きなんじゃないかと薄々思っていはいたけど。
「いいぞ、五時に名駅の金時計だな?」
「決まりね、すっぽかさないでね」
と委員長が念を押してから、俺たちを通り越して先を歩いていった。
「彼女の前で他の女の子と会う約束とか、よくしますねぇ」
と久留宮がジト―っとした目で見てきた。
「嫉妬か?」
「ちがいます」
と彼女はプイっとそっぽを向いて、俺の先を大股で歩いていってしまう。
まぁ、歩くのが遅いのですぐに追いついてしまうが。
俺は久留宮の隣まで行くと、それからは彼女の歩く速度に合わせて進んだ。
校門を出たところで、彼女に訊いた。
「俺の家はここから真っすぐいったとこだけど、久留宮の帰るところは?」
「私の帰る家もこの先にあります、日本に来るにあたって、サンタ機関からマンションの一室を用意してもらったんです」
「もしかして俺の家から近い?」
「そうですね、上からの計らいで、あなたの家の近くのマンションを用意されました」
サンタ機関はいったいなんなんだ、なんでそんなすぐに都合よく俺の家から近いところの部屋を用意できるんだよ。
彼女が俺の元へサンタとして来たのは、昨日だぞ?
「サンタ機関って結構規模の大きい組織なのか?」
「わかりませんが、たぶん……」
「なんか謎に包まれた組織だよな、話を聞いててもどういう組織かまったくわからない」
「所属している私ですら、よくわからないんですから当然ですよ」
「久留宮もよくわからないのか?」
「はい、私は末端なので」
「ふーん」
上層部の人に会って話が訊ければ、もっといろいろ組織について詳しくわかるのだろうか?
いや、まぁどうでもいいか、べつに。
そこまで興味ないし、知ったところで俺の人生にそんな深く関係するとは思えないしな。
会話しながら歩いているうちに、商店街の方に差し掛かった。
本屋、駄菓子屋、中華料理屋、ケーキ屋、などの店を通り過ぎるたびに、「よぉ、変態」とか「志津木くん、エロ本読むのもほどほどにしときなよ?」とか「その女の子はまさか彼女か? 浮気すんなよ、お前は性欲だけは強いんだから」とか「その女の子に変なことすんなよ!」とかいろいろおせっかい極まりないことを言ってくる。
隣りの久留宮が訝しんだ眼を俺に向けてきた。
「志津木君、なんか商店街の人たちから有名っぽくないですか? ていうか、変態とか言われてましたけど……」
「ああ、実はな、小学生のころ、商店街のど真ん中で駄菓子屋の店長に挨拶したときに、ランドセルの錠前を閉め忘れていて、お辞儀した際に中に入っていたエロ本をぶちまけちゃったんだ、それを商店街中の人に見られてしまってな」
「なにやってんですか!?」
「それ以来変態だとずっと誤解されているんだ」
「誤解じゃないじゃないですか、ていうかなんでエロ本なんてランドセルに入っているんですか!?」
「小学生のころ、エロ本を探しながらよく下校していてな、見つけたエロ本をランドセルの中に入れて家に持ち帰ってこっそり読んでいたんだ」
「どんな小学生ですか……」
と彼女はドン引きした顔で俺を見ていた。
こころなしか、距離を取られている気がする。
俺が近づくと、ささっと離れられた。
露骨に避けられている、悲しい……。
「お、肉屋営業してるじゃん、久留宮、ここのコロッケおいしいんだ、買い食いしようぜ」
「買い食い!」
久留宮がそのワードを聞いて見るからにテンションが上がっていた。
「いいですねぇ、買い食い。一度やってみたかったんです」
俺たちは肉屋の店内に入り、コロッケを二つ頼んだ。
一個八十円、学生の財布に優しい値段だ。
ちなみに、会計は俺が全額払った。
店を出ると、彼女が財布をバッグから取り出した。
「私の分のお金、払います」
「いいよ、80円くらいおごらせてくれ」
「でも……」
「気にするな。ちょっとくらいかっこつけさせてくれ。バイトしてるから金あるしさ」
「わかりました、そういうことでしたらおごられておきます」
「おう、おごるって言われたら素直におごられておけばいいのさ」
俺たちは肉屋の前で、早速買ったコロッケを食べた。
揚げたてのコロッケは少し熱かったけど、それもまたよかった。
うん、やっぱコンビニとかのやつより、ずっとおいしいな。
「うまいだろ?」
「はい、おいしいです、衣がサクサクで噛むたびに肉汁がすごく出て、さすが肉屋のコロッケですね」
俺も久留宮も、あっという間にコロッケを食べてしまった。
食べ終えると、俺たちはまた帰り道をゆっくり歩き始めた。
商店街を出ると、住宅街に差し掛かる。さらに数分歩くと、彼女があるマンションの前で立ち止まった。
「ここが私の住処があるマンションです」
「お前、結構いいマンション住んでるな」
「いいでしょう?」
と彼女が自慢げに胸をそらして言う。
胸をそらしたとき、少し彼女の乳房が揺れていたのを俺は見逃さなかった。
今気づいたけど、結構大きいよな……。
俺がじーっと久留宮のなかなか豊かな胸を見ていると、彼女はきょとんとした顔になった。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでも」
どうやら彼女は男子の視線にそこまで鋭敏ではないらしい。
「それにしても、ほんと俺の家の近くに住んでるんだな、ここから数分歩けば俺の家に着くぞ」
「そういう場所を上の方から用意されましたからね、では私はこれにて。また明日、学校で会いましょう」
と久留宮がマンションの入り口へ入っていこうとしたので、呼び止める。
「ちょっとまて」
「なんですか?」
「ココアトーク、インストールしたんだろ? 友達登録しようぜ」
「ああ、そう言えばまだしてませんでしたね、いいですよ」
友達に追加し合った後、俺たちは別れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます