第2話 私がクリスマスプレゼント
「へ?」
思わず間抜けな声を上げて見上げると、そりを引いたトナカイが空を飛んでいて、そのそりの上にはミニスカートをはいたサンタ姿の美少女がいて、俺に向かってきていた。
なんだあれ? 夢でも見てるのか?
いや、そんなことより、このままじゃ、ぶつか
「あわわわわ、どいてーー!」
「うおおおお!」
俺はトナカイと衝突するぎりぎりで横っ飛びをして、回避した。
あぶねー、当たっていたら無事じゃすまなかったぞ
トナカイは俺から5メートルほど離れたところで、急停止した。
そりからサンタ姿の少女が下りて、こちらまで来た。
「ごご、ごめんなさい、無事ですか!?」
体を90度近く折り曲げて謝罪する彼女。
「い、いや、まぁ、無事だけど、それより、君はいったい」
「見ればわかるじゃないですか、サンタです」
「いや、それはわかるけど、なんで空から……」
「空に天界があるからじゃないですか」
「天界?」
「ええ、天界にサンタ機関があるのは知ってますよね?」
「いや、知らないが」
「あれ、もしかしていっちゃダメなやつだったかな、これ?」
と彼女はほのかに顔を青ざめさせた。
「もしかして、君は本物のサンタなのか?」
「本物? そもそも、サンタに偽物なんているんですか?」
彼女が何者かはわからない、ただ、ふつうの人間では少なくともないだろう、
あのトナカイだって普通のトナカイではない。普通のトナカイが空を飛ぶはずがない。
超常現象とかはあまり信じていない人間だが、実際にこの目で見たら信じざるを得ない。
今、目の前で起きていることは現実のようだ。
「あ、こんなことしている場合じゃない、プレゼント配らないと、トナカイさん、またあとで」
トナカイが無人のそりを引いて空を飛んでいった。彼女は空に向かって手を振った後、白い袋を抱えてどこかへ向かって走り出した。
当然、俺も後を追う。
「て、なんで当たり前のようについてくるんですか!?」
「いや、なんか気になったから、ダメか?」
「ダメじゃないですけど、あれ、ダメなのかな?」
と頭に疑問符を浮かべていそうな顔をした後、彼女は何もないところでずっこけた。
「あだっ」
「おいおい、大丈夫か?」
もしかして、ドジっ子なのか?
美少女サンタの傍へ行き、手を差し出すと、彼女は頬を少し赤らめながらも俺の手を取った。
立ち上がらせると、「うう……」と目の端に涙を少しにじませる。
「私、昔から運動はダメで……あれ、昔……?」
と彼女は突然キョトンとする。
「おい、どうした?」
「おかしいんです、私、サンタとして生まれたのは最近のはずだから、昔なんてないはずなのに、昔からドジだったような気がするんです、なんででしょう?」
「いや、俺に言われても困るが」
「あ、ですよね、あなたがわかるわけないですもんね……」
としょぼんとした顔になる彼女。
さっきからころころと表情の変わる子だなぁ、まあ見てて飽きないけど。
「プレゼント、配るんじゃなかったのか?」
「あ、そうでした」
と、彼女は慌てて駆けだしていった。
忙しない女の子だ。
やれやれ、と思いながら俺もついていく。
彼女はなんだか危なっかしくて、ほっとけないんだよな。
その後も、彼女は何度も転んで、転ぶたびに俺が手をとって立ち上がらせる、ということが繰り返された。
どんだけドジなんだ、この子。
それに、どうやら迷子になっているようで、一向に目的地とやらにも着かないし。
「おい、いつになったら、着くんだ?」
「あれー?」
と何やら名前と住所が縦に並んだ紙と地図を見比べているので、上からその二つを覗き込んだ。
「一番上の住所に行きたいのか?」
「え、あ、そうです」
「なら、逆方向だぞ」
「え、そうなんですか?」
あわわわわ、と慌てふためく彼女。
どうやらこのサンタ、かなりポンコツのようだ。
「しかたないな、俺が教えてやるから、ついてこい」
「え、でも、無関係なあなたを巻きこむのは悪いですし」
「そんなことを言っていられる場合なのか?」
「う、そ、そうですね、よろしくお願いします」
ということで、俺の案内の元、リストの一番上に書かれていた家へ向かった。
住宅街の一角の一軒家だ。
「あ、この家です、子供にプレゼントを渡してくるので、待っていてください」
と言って彼女がとてとてと小さな歩幅で走って、その家のインターホンを鳴らしにいった。
少し離れたところで、その様子を見守る。
少しして、出てきた子供とその母親と思われる人に、彼女は「サンタです、プレゼントを渡しに来ました」
と言ってプレゼントを渡していた。
その光景を見て、俺も昔のことを思い出した。
そういや、俺も12歳のころまで、ああやってサンタが家に来て、プレゼントを渡してくれたな。
あんな美少女じゃなくて、おじさんだったけど。
今まで日雇いのバイトかなんかでサンタに扮した人がああやってプレゼントを配っているのかと思っていたし、俺の周りの人たちもそういう認識だったけど、もしかして本当に本物のサンタがやっていたのか?
「わぁー、これほしかったやつだ、ありがとー」
とプレゼントを受け止った子供ははしゃいでいた。
バイバーイと子供に手を振って別れるサンタの彼女。
一軒家のドアが閉まると、彼女はこちらへ来た。
「ふぅ、やっぱり子供の笑顔はいいですね」
「なぁ、もしかして、子供へのプレゼントって本物のサンタがやっていたのか?」
「そうですけど、というより偽物なんているんですか?」
「いや、知らんけどさ、その住所のリストはどうやって手に入れたんだ、子供の望み通りのプレゼントを渡したみたいだけど、なんでそれが欲しいとわかったんだ?」
「私に言われても困ります、私は上層部の人が用意した物を命令通りに配っているだけなので」
サンタ機関、なんかすげえ怪しい組織じゃないか?
深く関わって大丈夫なのかな、これ……。
「あ、あの、できれば次に配るところも、案内してくれませんか?」
ともじもじと内股で申し訳なそうに上目遣いで訊いてくる。
そう言う頼まれ方をされたら、断れないよなあ。
もとより、美少女の頼みを聞かない気はないが。
「いいぜ、次の住所は、あそこの辺りか、ついてこい」
それから、リストの上から順番にプレゼントを配っていき、全部配り終えるころには、三時間ほど経過していた。
「これでプレゼントは全て配り終えたな」
暗がりの住宅街、広い歩道の隅っこで、俺と彼女は立ち止まった。
「あ、いえ、まだ一件残っています」
「あれ、でもリストに載っているのは全部配ったぞ?」
「本日急遽追加されたので、リストに載っていない人がいるのです」
「ふーん、で、いったい誰に配るんだ?」
と言うと、彼女はオレを指差してきた。
「あなたです、あなたにクリスマスプレゼントを最後に配らないといけません」
「お、俺? でも、もうプレゼントはないだろ?」
彼女が抱えていた白い袋の中はもう空っぽのはずだ。
「大丈夫です、プレゼントはもうあるので」
もうある?
俺、クリスマスプレゼントになに願ったっけ?
そもそも、なんか願ったか?
「なんだよ、そのプレゼントっていうのは?」
彼女は俺に向けていた指を、今度は自分の方に向けた。
「私です」
「は?」
「あなたは恋人が欲しいと願いましたよね? 私があなたの彼女になる、それがあなたへのクリスマスプレゼントです」
クリスマスってやっぱり最高かもしれないと思った。
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