Will
赤鐘 響
死者からの伝言
これを読んでいるという事は、私はもうこの世に居ないという事です。
……こういうの1回は書いておきたいですよね。なので書きました。
この気持ち分かります?というか分かってくれないと困ります。これを読んでいるという事は、私とそれなりに親しい人物、もしくは親族以外ありえないのですから、私の事をしっかり把握してくれてると思います。
ちなみにコレを読んでいる時、もし私がまだ生きているのであれば、今すぐ読むのを中断していただきたい。理由は簡単です。私が恥ずかしいから。
ちなみにこれは遺書ですが、そんなにシリアスではありません。私が死んで悲しんで頂いているのであれば、冥利に尽きますが、どうせなら楽しく読んでもらおうと思い、楽しんでもらえるであろう書き方をしています。
ただ楽しむと言っても、なかなかバランスが難しいですよね。
例えばこう「先立ちソーリー」みたいな感じで、思いっきりふざけると、それはそれでなんかスベったみたいになりますからね。嫌ですよ、死してなおスベるの。だから程よく楽しめる様にしておきます。
では早速今年の遺書を更新しようと思います。
訳の分からない始まりで本当に申し訳ありません。まずは皆様に説明をしようと思います。
実は私、数年前から遺書を書いております。
はい、まだ意味がわからないと思います。とりあえずこの先をお読みください。
よろしいですか皆様、遺書というのは何も死を目の前にした者の特権ではありません。世の中に「終活」という言葉があるのはご存知でしょうか。聡明な皆様は勿論ご存知だと思います。
年を重ねたご老人の方々が、死後滞りなく遺族が遺品整理や葬儀を行えるよう、生きている間に身辺整理をすることです。所謂生前整理という奴です。遺言状なんかもその類ですね。土地や金品等を保有している方は、相続に伴い遺言状を遺すことがあるでしょう。
ちなみに私は土地も金品も所持していないので、遺言状は書いていません。
そして、度重なる質問で非常に恐縮なのですが、皆様「一寸先は闇」という言葉をご存知でしょうか。聡明な皆様は勿論ご存知だと思います。
人生何が起こるかわからないという意味です。勿論悪い方の意味です。
そう、人生何が起きるかわからないんです。明日交通事故に合うかもしれないし、事件に巻き込まれるかもしれないし、心臓麻痺を発症するかもしれません。無論確率は低いですし、そんな事を言いだしたらキリがないのは分かります。
ですが、実際に起こる可能性があるのです。身も蓋もない言い方をすると、老若男女問わず、人はいつ死ぬか分からないという事です。
ならば、急に死んでしまった時に備えて、元気なうちに遺書を書いておこうという事です。ご理解いただけましたでしょうか。
ニュアンス的には、遺書というよりは申し送りに近いかもしれません。引継書と表現していただいても構いません。目的自体は終活と同じです。遺族に対しての申し送り事項をしたためているのです。私の死後、私の遺品や人間関係に関する対応を簡易に記載しておけばいいのです。
よろしいですか皆様。ついてこれていますか?ついてこれていなくても進めます。
さて、最初にお話した通り、私はこれから今年の遺書を書きます。今年のという表現をしたということは、勿論去年の遺書があります。
私は毎年遺書を更新しています。まぁ当然といえば当然ですよね。一年あれば環境も変わりますから。環境が変わるということは、それはつまり申し送りの内容も変わるということです。
従って、キチンと更新しておかないと、いざ遺族が見た時に記載内容と現実が大きく乖離してしまいます。
故に私は毎年更新しているのです。勿論これから書いていく遺書も、来年中に私が死ななければ更新します。大筋はそんなに変わらないと思いますが、気になるようでしたら、過去の遺書を見ていただいても構いません。ただ、コレが最新版です。
最新版の遺書なんて日本語はないので、念のためファイルの名前を「死者からの伝言」にしておきます。過去に記録した遺書は纏めて一つのファイルに入れておきます。
「遺書_過去分.zip」にしておきます。解凍して御覧ください。
さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
私がこの遺書に書いておきたい事項、つまり皆様に申し送りたい事項は2点です。
まず1つ目が、PCについてです。
ご存知だとは思いますが、私の所持しているPCは非常に高スペックです。
売ればそれなりの値段がつくと思いますし、普通に使用して頂いても構いません。ただ、いずれにせよPCの初期化は必須でお願いします。
個人情報もそうですが、膨大な量のピンクデータがそのPCには保管されております。なので、私の名誉を守るという意味でも、可能な限り猥褻図書館の中身を覗かずに初期化していただければ幸いです。
もっとも、既に死んでいる私に、止める手段はありませんが、どうしても私のピンクデータが見たければ見ても構いません。死人は口も手も出せませんから。
ただまぁそうなると、いよいよこの遺書の意味が無くなる気もしますね。
皆様の良心にお任せします。
2つ目は葬儀についてです。
この遺書を読んでいる段階で、もし葬儀が終わっていないのであれば、火葬時に棺桶の中にタバコを敷き詰めておいてください。ニコチンと共に空へ昇っていきます。タバコを抱えて私は天国へと参ります。
生前、非常に善人だった私は、当然天国に行くものだと思っていますが、果たして天国は喫煙可能なのでしょうか。
天国が禁煙だった場合、私としてはかなりショックです。喫煙所があることを祈ります。葬儀場の係員の人に止められたら、素直に係員の人に従ってください。そして墓参りの際、線香の代わりにタバコを差して頂ければ大丈夫です。これもドラマのワンシーンみたいで少し憧れるシチュエーションですよね。
ちなみに酒はかけないでください。私下戸なので。
はい、以上が申し送り事項です。
「え?それだけ?」と思いましたか?
実際こんなものですよ。
先程も申しました通り、私は土地や金品を持っていませんし、友人も多くありません。私の望みは、これを読んだ家族、親戚、友人の皆様が「ああ、あいつはこういう奴だったな」と笑ってくれたらそれで良いのです。
今後の人生で、内容は変わると思いますが、とりあえず今現在私が望むもの、皆様に申し送りたい事はそれだけです。
それでは来年も私が生きていることを祈って、筆を置きたいと思います。
Will 赤鐘 響 @lapice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます