第29話 決戦

 ユウハちゃんは、男を睨む。

 前世って、どういうことだろう。

 物語ではよくみる。

 生まれ変わって、別の生命になる。

 でも、それが現実で起こるの?

 信じられません。

「ハッハッハッハッ」

 男は、突然笑い始めた。

「前世? そんなの関係ない。お前に『水姫の記憶』があるかぎり、お前は水姫だ!」

 話が通じてる……ってことは、本当なの?

「理屈がわからん」

 ユウハちゃんの表情は、険しくなる。

「ハッハッハッ。さすが、水の術の使い手だ。冷たい…………」

 冷たい……のところで、ガクリと肩を落とした。

 なんだか、普通の人と同じに見える。

「急にシュンとするな。気持ち悪い」

 その、「気持ち悪い」というのは、ハッキリ言って良いものなのでしょうか……。

「……思春期か」

「違う。他人に嫌気が差した」

「わしは、お前の他人か?」

「そうだ」

「そうか……」

 話が、あっという間に進む。

 何がしたいんだろう、あの男。

「もういいか? 僕はお前をこらしめに来たんだ」

 ユウハちゃんは、ザッと構えた。

 右足を前に出して、少し身体をかがめる。

 ユウハちゃんの手から、青い光を放つ、スライムのようなものが出てくる。

 あれは……水?

 水が、重力に逆らっている。

「殺さないのか」

「そんなことしない。僕は僕らの平和を守るために、途切れさせないために、あんたの術を剥奪する――いや、僕らの術を取り戻す」

 ユウハちゃんが言うと、シュウヤくん、キララちゃん、ミライくんが、ユウハちゃんを囲んで立った。

「ほう……。やれるものなら、やってみろ」

 男は、ユウハちゃん達と距離を詰めて――。

 眩い光が、わたし達を包んだ。

 ドカーン! と、耳をつんざく音がした。

「「キャアっ」」

 わたしとかおるちゃんは、同時に声を上げる。

 外と繫がる窓や扉が一切ない広い部屋で、突風が吹き荒れる。

 ユウハちゃん達は、飛びまわっていた。

 空を飛び、自由自在に移動する。

「ハァッ!」

 キララちゃんが、手から緑色の光を出した。

 それは植物のツルに変わる。

 いたるところに、トゲが生えている。

 それは男に突き刺さった。

「ぐぅ」

 男は動けなくなって、身をよじる。

 そこに、シュウヤくんが炎を飛ばした。

「ぐあぁっ」

 男は燃えている。

(心配すんな。燃えてない)

 頭の中に、ミライくんの声が響く。

 驚いて、ミライくんを見たけど、彼の口は動いていない。

(テレパシーだ)

 テレパシー?

 わたしが、かおるちゃんを見ると、彼女も目を真ん丸にしていた。

 かおるちゃんにも、聞こえてるんだ。

(よく聞くんだ。これは、あのクソジジイ以外に聞こえている。作戦だ)

 作戦?

(かおるが、クソジジイの記憶を消す。術の使い方を、忘れさせるんだ。それから、菜乃葉が氷で動きを止める。そうしたら、俺達が術を取り上げる。あいつの術は、元は俺達の物だ。簡単に取り戻せる)

 術を奪えば、あの人は戦えなくなる。

 そうすれば、わたし達は勝ったことになる――?

(いいな、頼んだぞ。3秒数える)

 1――。

 ミライくんの声が、頭に響き渡る。

 かおるちゃんは、炎に焼かれて苦しんでいる――ように見える、男をじっと見つめた。

 2――。

 かおるちゃんは、わたしにうなずきかける。

 記憶を消したんだ。

 男は、地面に降り立った。

 焦っている。

 術が使えないから、ユウハちゃん達に対抗できないんだ。

 3――。

 わたしは、男を凍らせた。

 呼吸はできるように、頭は出しておく。

「く、くそぉ……!」

 男は、氷から抜け出そうとする。

 わたしは、氷の強度をあげる。

 大丈夫。

 出られない。

「あなたの――争いの星の首相としての――人生は、ここでおしまい。アイザード星で、死ぬまで牢屋に入っていることね」

 キララちゃんが、男に手をかざしながら言う。

「俺達の術を、返してもらうぜ」

 シュウヤくんも、ユウハちゃんも、ミライくんも。

「父上――水姫だったら、そう呼んだ。でも、今は違う。すまない」

「菜乃葉を傷つけたこと、許さねえから」

 そうして、あたりには、七色の光が飛び散った。

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