第22話 お願い

 僕達は、居間に通された。

 詳しく話をしてくれるそうだ。

「僕らは、宇宙の果てにある惑星――アイザード星で生まれた」

 ユウハ先輩は、ゆっくり語り始めた。


 ✡


 僕らは、さっきも言ったとおり、宇宙の果て・アイザード星で生まれた。

 アイザード星は、冷たい星で、一年中気温が低い。

 十分に身体を温められない人は、死んでしまうほどに。

 けれど、王が星の環境を変えてくださった。

 誰もが暖かい家で、安心して過ごすことができる。

 温かいご飯を食べて、温かい布団で眠ることができる。

 そうなったのが、僕らが生まれる6年前。

 僕らは生まれてこのかた、苦労する人を見たことがなかった。

 みんな幸せそうで、これが星のあるべき姿なんだ。

 そう感じた。

 僕らも、幸せだったんだ。

 今じゃ想像できないくらい幸せで、不幸なんて考える暇もなかった。

 父さんと母さんがいるのが『当たり前』で、みんな笑顔なのが『当たり前』だって、平和ボケしていた。

 その幸せが、突如チリになってしまうまでは。


 あの日――5歳の誕生日だった。

 両親は、欲しかったプレゼントを買ってくれて、お祝いのケーキまで用意してくれて――。

 なのに、あいつら――『争いの星』から軍隊がやってきた。

 国の人々は、みんな連れていかれた。

 僕達の家は、都から少し離れたところにあったから、気づくのが遅くなってしまった。

 家の外で空気を切り裂く音がして、父さんは確認のために外に出たんだ。

 それで、捕らえられた。

 家の中にもたくさん兵が入ってきて、母さんも捕らえられた。

 僕達は何もできなくて、すぐに捕まった。

 無理やり外に出された。

 ――両親は、兵に動けなくされていた。

 今でも思い出す。

 両親が、僕らの名を呼ぶ声を。

 

 ✡


「――僕が、両親を殺した」

 ユウハ先輩は、苦しそうに言った。

「ユウハのせいじゃないわ」

「あいつらが悪いんだ。ユウハは、悪くない」

 状況がわからない。

 うん。聞くしかない。

「どうして、自分の親を殺してしまうことになったの?」

「ちょっと、絆!」

 鈴那が怒った。

 怒られるとは思ってたけど。

「いいんだ、鈴那ちゃん」

 ユウハ先輩は、首を振る。

「僕たちには――異能力・『術』がある。それを、やつらに利用された」

 ユウハ先輩は、ギュッと目をつむった。


 ☆


「『術』って、一体なんですか?」

 菜乃葉が、先輩達に聞いた。

 その疑問に、キララ先輩が答える。

「『術』はね、わたし達の身体の中で作られる、エネルギーなの。術を持つ人は、ほとんどいない」

 生き物の生体エネルギーと、似たものかな。

「よし、ここからは『術』の話をしよう」

 シュウヤ先輩が言う。

「ユウハは、今は話せなくなってるみたいだしな」


 ✡


『術』は、さっきも言ったとおり、身体の中で作られる、エネルギーだ。

『術』には、種類がある。

 水の術、癒やしの術、火炎の術、闇の術、光の術――これらを元に、たくさんの種類の『術』が生まれた。

 水の術からは、氷の術、風の術など、水に関係のあるもの。

 癒やしの術からは、自然に関係のあるもの。

 火炎の術からは、炎に関係のあるもの。

 ……と、語りきれないほどだ。

 そんな『術』は、誰もが持っているわけではない。

 なぜ『術』が生まれたのかも、わかっていない。

 ただ、1つ。

『術』は、人間の科学力に大きな変化をもたらす。

 何千年も昔に、『術』を様々なエネルギーに代用するとこで、1つの星を破壊しかねないほどのエネルギーを手に入れた星がある。

 それが、『争いの星』。

 あいつらは、俺達が持つ『術』を狙って、アイザード星を襲い、支配下に置いたんだ。


 ✡


「そんでな、地球人のお前らにも、いるんだよ」

 シュウヤ先輩は、真剣な顔で言った。

「菜乃葉とかおる――お前ら、自分の力に気づいているか?」

 指名された二人は、互いに顔を見合わせた。

「わたし……?」

「ふえ……わからないです……」

 同時に首を横に振る。

 シュウヤ先輩は、大きなため息をついた。

「だと思ったよ」

「はいはーい! ここからは、ボクが話す!」

 キキくんが、バヒュと手をあげた。

「よろしくな」

 シュウヤ先輩が、弟を見るような目で、キキくんを見た。

「えっとね、菜乃葉ちゃんは、『氷の術』だよ」

「氷?」

 菜乃葉は、キョトンとする。

 僕達、幼馴染も首を傾げる。

「氷を出せるの! 君、手が冷たいでしょ? つまり、こーゆーこと!」

「冷え性かと思っていました」

 菜乃葉の受け答えが、冷静すぎる。

 もうちょっと、驚いてもいいと思う。

「でね、かおるちゃんは、『記憶の術』だよ」

「記憶……たしかに、記憶力はいいけど……。小さい頃の思い出も、たくさんあるよ。2歳くらいのとき、家族で水族館に行ったの、今でも覚えてる」

 ……2歳?

 今、2歳って言った?

 信じられない……。

「それだよ。『記憶の術』は、見たもの・聞いたもの――覚えたことは、忘れないんだ」

 ななみが欲しがりそう。

 上手く使えば、勉強なんて簡単なんじゃないかな。

 でも、大変そうだな。

 全部覚えてるってことだよね。

「ふえぇ……。記憶力いいだけかと……」

 2歳の頃の記憶もあるのに、疑わなかったんだ……?

「こんな感じで、自分の力に気づかないで生涯を終える人もいるとかいないとか……」

「どっちだよ」

 ミライくんが、キキくんに言う。

「いませーん!」

 うっそぴょーん、とキキくんはゲラゲラ笑った。

「生きているうちに、気づくからな。『自分は人と違う』って」

 ミライくんは、どこか遠くを見つめた。

 と、そこで、キララ先輩がパンと手を打った。

「はいはい、暗くなるのおしまいっ!」

 それから、ユウハ先輩を見る。

「言う事あったでしょ、ユウハ」

 さっきまで苦しそうだった先輩は、もう平気そうだった。

「……ああ。そうだな。あのために、こうしてはるばる地球に来て、協力者を探したんだから」

 僕らを、まっすぐに見つめる。

 ギュッとしばっていた口を、ゆっくり開いた。

「頼む。僕らの星を、助けて」

 その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

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