第21話 地球に来た理由

「異星人……?」

 かおるちゃんが、そう繰り返す。

「君たちは、信じてくれる?」

 ユウト先輩は、真っ直ぐな瞳で僕たちを見る。

「……証明できませんか」

 僕は言う。

 さすがに、突然「異星人だ」と言われても、信じきれない。

 けれど、何か1つだけでも、それを証明できるものがあれば――。

「証明? なるほど……」

 ユウト先輩は、腕を組んだ。

「それなら――」

 ユウト先輩が何か言いかけたとき、シュウヤ先輩が割り込んだ。

「それより、先にユウハの嘘を謝らないとな」

 ユウハ?

「うっ」

 ユウト先輩は、ほんの少し後ずさる。

 その手を、シュウヤ先輩が掴んだ。

「な、ユウハ」

「………………最初から、そのつもりだ。お前に言われなくたって」

 ユウト先輩は、大きなため息をつく。

 それから、にっこり笑った。

「僕は、源ユウハ。ユウトは、仮の姿だ。本来はこっち。どうぞ、よろしく」

 その場は、シーン。

「……」

 ユウト先輩――改め、ユウハ先輩は、なぜだか僕に近づいてきた。

「絆くん」

「あ、はい……」

 綺麗な女の子の顔が、数センチの距離まで近づく。

「…………」

 じーっと見つめられて、何も言えなくなった。

 もう離れてくれないかなぁ……。

 こういうのは苦手なんだけど……。

「こっち来て」

 グイッと手を引かれて、僕は転びそうになる。

「あ、あの、何をするおつもりで……」

 怖いんですけど。

「僕は何かしたか?」

「はい……?」

 思わず、聞き返した。

「僕は、何か嫌われることをしたのか?」

 なんだろう……。

 無表情で聞いてくるのは、やめてほしいな。

 そんな顔も、まるで人形のようだ。

 僕は、そういうの怖く感じるんだよね。

 家にある人形とか、意味不明で怖い。

「ええと……何もしてません」

 返事に迷ったけど、これでいいかな。

「そうか。それならいい……けど、やっぱりスッキリしない」

 しつこいな。

「だから、何が?」

 あっ、ついハッキリ言ってしまった。

「君、心の中ではズバズバ言うタイプか……。まあいい。何がと言ったな。それは、僕が本当は女の子だったのに、なぜここまで反応が薄いのかということだ」

 そういうことか。

 たしかに、性別が違ったのは、驚かれることかもしれない。

「反応が薄いのではなくて、みんな驚きすぎて、何も言えないんですよ」

 僕は、もちろん、みんなの感情がわからないけど。

 自分以外の気持ちはわからないよね。

 けど、僕がまあまあ驚いたから、たぶんみんなも驚いたんじゃないかな。

「そうなのか。なるほど、よくわかった」

「それは良かったです……」

 先輩は、ようやく笑った。

「絆くん、カッコいいな」

 急すぎて、返す言葉を失う。

 いつも言われるんだけど。

「これは嘘じゃないから。あぁ、でも、人見知りには苦痛か」

 グサッ。

「人を傷つけるのがお上手で……」

「え、傷つけている自覚はなかった。すまない」

 それは、本当に謝ってるのかな……。

 別に、謝ってほしいわけじゃないけど、そういうのは気になる。

「――とまあ、こんなふうに、ユウハは頭があれだけど、仲良くしてやってな!」

 シュウヤ先輩が、僕達の間に割り込んで、距離を開かせた。

「ごめんね、わたし達の妹が……」

「無視したら静かになるから」

 キララ先輩とミライくんが、僕に語りかける。

「可哀想だよぉー!?」

 唯一年下のキキくんは、二人の考えには反対のようだ。

 なかなか、愉快な家庭だな。

 僕は、思わず笑顔になった。


 ☆


「――それで、証明するんだったよな」

 ユウハ先輩は、気を取りなおしたらしい。

「1つだけでいい?」

 はい。

「これを見てほしい」

 ユウハ先輩が取り出したのは、ネックレスだ。

 深い青色で、雫のような形をしている。

 先輩は、それを宙にかかげた。

 すると、ネックレスから光が出て、画面が映し出された。

 家族写真のようだ。

 小さな先輩達と、親らしき人がいる。

「この技術……ありえない。そうだよね、夢叶?」

「ああ。見たことがない」

 僕が夢叶に確認すると、夢叶はうなずく。

 みんなも、うなずいている。

 それを確認してから、僕は先輩達に言った。

「信じます」

 僕が代表になってるけど、大丈夫かな……。

「本当!」

 キララ先輩は、パァッと嬉しそうに顔を輝かせる。

「よし」

 ユウハ先輩は無表情だけど、少し雰囲気が変わった。

「やったぜ」

 シュウヤ先輩は、ガッツポーズ。

「絆、ありがとう」

 ミライくんは、僕に礼を言った。

「やったぁ、やったぁ!」

 キキくんは、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

 僕は、ほっと息をついた。

 後は、菜乃葉にでも任せるかな。

 僕は早く目立たないところへ……。

「絆」

 ミライくんに名前を呼ばれて、現実に引き戻された。

 いつも、気づかないうちに、自分の世界に浸ってしまうんだよね……。

 気をつけないと。

「何?」

「……君さ、名前の通りだな」

「へ?」

 ミライくんは笑った。

「『絆』って。俺たちを繋いでくれてる気がする」

 そして、もう一度言った。

「ありがとう」

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