第19話 菜乃葉の舞

 源家にて。

「――そういうことだから、行かないか?」

 提案する僕・ユウトに対して、兄と姉、いとこは、ギョッとしていた。

「あ、ああ……別に、いいけ、ど……」

 シュウヤは、ただ驚き、

「珍しいわね……?」

 キララは、いぶかしげに。

「お前も他人に興味があったんだな。俺には関係ないが」

 ミライは、一瞬驚いたものの、すぐに平静を装って、そっぽを向く。

 そのミライの頭を僕は撫でた。

「お前も行くんだよ」

「……えー……」

「とにかく、行くぞ。約束、しちゃったから」

 あぁ、正直めんどうだ。


 ☆


「ねーねー、菜乃葉、あとちょっとで出てくるかな?」

 ななみちゃんが、瞳をキラキラさせながら言う。

「知らねー」

 夢叶くんは眠たそうだ。

「待っとけば、すぐだよ」

 そんな二人に、かおるちゃんは笑顔で言う。

「鈴那ぁ……空気汚くない……?」

 一人だけ、絆くんは違う話をする。

「それは思った」

 違う話にも、ちゃんと返答してやる鈴那ちゃんは良いやつだな。

「ユウハ――じゃなくて、ユウト、あんまり目立つことすんなよ?」

 わかってる。

 シュウヤは、しつこい。

「はぁ……」

 ため息つくな。

「ねえ、ユウト、じゃなくて、ユウハ――でもなかったわね。ユウトは、もうちょっと優しい子じゃなかった?」

 ちょっと、何度も名前を間違えるな。

 キララは、本当に馬鹿だな。

「もう! その悪い口はどうしたら良くなるのかしら」

 どうしても、良くならない。

 これが僕なんだから。

「そろそろ黙れ。始まる」

「「「了解」」」

 僕らは、ステージに目を向けた。


 ☆


 菜乃葉ちゃんは、とても上手に舞っていた。

 きれよく、しなやかに。

 落ち着いて、ゆったりと。

 僕と練習したものが、今ここで、ようやく形になったようだ。

「綺麗……」

「だな……」

 僕の両隣で、キララとシュウヤが呟いた。

 今は、舞の最中だというのに。

 普段の二人だったら、きっと何も言わなかった。

 けれど、ああ言っている。

 だからきっと、それほど美しいんだ。

 菜乃葉ちゃんの頑張りが、伝わっている。

「……!」

 ミライだけは、ただ目を見開いて、菜乃葉ちゃんを見つめているばかりだ。

 とてつもなく珍しい。

 こんなミライ、見たことがない。

 僕は、もう一度ステージに目を戻す。

「っ……!」

 菜乃葉ちゃんの周りが、キラキラと光を反射している。

 あれは、もしかすると……。

 そうか……だから、あいつらは……。

 僕は、シュウヤとキララを見る。

 気づいてるのか、いないのか。

 今度は、ミライを見る。

 すると、目があった。

 ……気づいたみたいだな。

 それから僕は、菜乃葉ちゃんの様子を、じっと見つめていた。


 ☆


「なーのはーっ!」

 菜乃葉ちゃんの幼馴染たちが、菜乃葉ちゃんに群がる。

「ちょ、ちょっと、みなさん」

 菜乃葉ちゃんは、髪を切っていた。

 せっかく、腰まで伸ばしたロングヘアが、肩のあたりまで短くなってしまった。

「あっ、ユウトくん。見に来てくださって、ありがとうございました」

 菜乃葉ちゃんは、僕に頭を下げる。

「どういたしまして」

 ……話すべきだ。

 僕らのこと全部、みんなに。

「みんな」

 僕よりも先に、ミライが声をかけた。

「明日の朝、俺たちの家に来てくれ。話したいことがある」

 ミライ、ナイス。

「?」

「わかった」

「「了解です」」

「うん」

「はい」

 みんな、口々に返事をした。

 ななみちゃんは、首を傾げていたけど。

 でも、これで……。

 やっと、何も隠さなくて良くなるんだ。

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