第19話 菜乃葉の舞
源家にて。
「――そういうことだから、行かないか?」
菜乃葉ちゃんの舞を観に行かないか、と提案する僕・ユウトに対して、兄と姉、いとこは、ギョッとしていた。
「あ、ああ……別に、いいけ、ど……」
長男のシュウヤは、ただ驚き、
「珍しいわね……?」
長女のキララは、いぶかしげに。
「お前も他人に興味があったんだな。俺には関係ないが」
ミライは、一瞬驚いたものの、すぐに平静を装って、そっぽを向く。
そのミライの頭を僕はなでた。
「お前も行くんだよ」
「……えー……」
「とにかく、行くぞ。約束、しちゃったから」
あぁ、正直めんどうだ……。
菜乃葉ちゃんが舞を披露するという会場にやってきた。
会場は王都にあった。都会だからだろうか、小学校がある地域と比べて空気が汚れている。
僕の後ろには、シュウヤ、キララ、ミライ、そしてなぜかついてきたキキくんがいる。
歩いていると、ミライのクラスメイトを見つけた。
あの子たちは、たしか菜乃葉ちゃんの幼なじみだった気がする。
「ねーねー、菜乃葉、あとちょっとで出てくるかな?」
茶髪をサイドテールにした女の子――ななみちゃんが、瞳をキラキラさせながら言う。
「知らねー」
天然パーマの金髪の男の子――夢叶くんは眠たそうだ。
「待っとけば、すぐだよ」
そんな2人に、赤みがかった茶髪の女の子――かおるちゃんは笑顔で言う。
「鈴那ぁ……空気汚くない……?」
黒髪でオーバーオールの男の子――絆くんは1人だけ違う話をする。
「それは思った」
絆くんとソックリな、真っ黒い瞳の女の子――鈴那ちゃんがうなずく。
違う話にもちゃんと返答してやるとは良いやつだな。
「ユウハ――じゃなくて、ユウト、あんまり目立つことすんなよ?」
わかってる。シュウヤは、しつこい。
「はぁ……」
ため息をつくな。
「ねえ、ユウト、じゃなくて、ユウハ――でもなかったわね。ユウトは、もうちょっと優しい子じゃなかった?」
ちょっと、何度も名前を間違えるな。
キララは、本当に馬鹿だな。
「もう! その悪い口はどうしたら良くなるのかしら」
どうしても、良くならない。
これが僕なんだから。
「そろそろ黙れ。始まる」
ミライに言われて、僕らはステージに目を向けた。
菜乃葉ちゃんは、とても上手に舞っていた。
きれよく、しなやかに。
落ち着いて、ゆったりと。
僕と練習したものが、今ここで、ようやく形になったようだ。
「綺麗……」
「だな」
僕の両隣で、キララとシュウヤが呟いた。
今は、舞の最中だというのに。
普段の二人だったら、きっと何も言わなかった。
けれど、ああ言っている。
だからきっと、それほど美しいんだ。
菜乃葉ちゃんの頑張りが、伝わっている。
「……!」
ミライだけは、ただ目を見開いて、菜乃葉ちゃんを見つめているばかりだ。
とてつもなく珍しい。
こんなミライ、見たことがない。
僕は、もう一度ステージに目を戻す。
「っ……!」
菜乃葉ちゃんの周りが、キラキラと光を反射している。
あれは、もしかすると……。
そうか――だから、あいつらは……。
僕は、シュウヤとキララを見る。
気づいてるのか、いないのか。
今度は、ミライを見る。
すると、目があった。
……気づいたみたいだな。
それから僕は、菜乃葉ちゃんの様子を、じっと見つめていた。
「なーのはーっ!」
菜乃葉ちゃんの幼馴染たちが、菜乃葉ちゃんに群がる。
「ちょ、ちょっと、みなさん」
菜乃葉ちゃんは、髪を切っていた。
せっかく腰まで伸ばしたロングヘアが、肩のあたりまで短くなってしまった。
「あっ、ユウトくん。見に来てくださって、ありがとうございました」
菜乃葉ちゃんは、僕に頭を下げる。
「どういたしまして! すごく綺麗だったよ」
僕は笑顔を見せて、そう言った。
心の中では、まったく別のことを考えている。
……話すべきだ。僕らのこと全部、みんなに。
「みんな」
僕よりも先に、ミライが声をかけた。
「明日の朝、俺たちの家に来てくれ。話したいことがある」
ミライ、ナイス。
「?」
首をかしげたのは、ななみちゃん。
「「「はい」」」
3人そろってうなずいたのは、菜乃葉ちゃん、かおるちゃん、夢叶くん。
「「了解です」」
同じ声のトーン、イントネーションでうなずいたのは、絆くんと鈴那ちゃん。
みんな、わけがわからないみたいだ。それでも、何も聞き返さずにうなずいてくれて嬉しい。
これで、何も隠さなくて良くなるんだ――。
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