第17話 菜乃葉とユウト

 わたしのもとへ、空気を切り裂いて矢が飛んでくる。

 これ、どういうこと? あの矢、わたしに飛んできてるよね? もしかして、このままだったら、わたし死んじゃう?

 あの矢が刺さって、死んじゃうのかな。

 どうしたらいいの?

 ここから逃げる? 部屋から出ないと。

 ああ、でも足が動かない。

 これ、もう無理だ。

「――ハァッ!」

 諦めかけた瞬間、少年の声とともに外が青色に輝いた。

「な、何……!?」

 わたしは、窓を開けた。

 ギシッと悲鳴を上げながら、窓はすごい勢いで開く。

 窓から顔を出して、下を見る。

 わたしの部屋は2階だから、人がいるなら下のはず。

 下にいたのは、想像していない人だった。

「ユ……ユウト先輩……?」

 彼は、6年生に転校してきた、三つ子の末っ子。

 どうして、彼がここに?

 わたしが何も言えないでいると、ユウト先輩は、わたしを見た。

「やっほー、王女様」

 萌え袖のパーカーを振りながら、にこにこ笑っている。

 もう片方の手には、矢が握られていた。



「おじゃましまーす!」

 ユウト先輩は、元気に入ってきた。

 わたしの部屋でいいのかな……?

「ちゃんと女の子の部屋だね」

 なんですか、その言い方!?

「わたし、ちゃんと女の子です!」

「わかってる。冗談だよ」

 それなら、いいのですけれど……。

「ねえ、菜乃葉ちゃん」

 いきなり、ちゃん付け!?

 さ、さすがに驚きます。

「そう? まあいいや。この扇、練習するの?」

 先輩が指さしたのは、わたしが使う扇だ。

「はい。この国の伝統です。王女が髪を捧げて、舞を踊ることで、この国の繁栄を神に願います」

 このために、今まで髪を伸ばし続けてきた。

 それも、そろそろおしまい。

 この行事で、わたしは髪を切る。

 どのくらい楽になるんだろう。

 でも、ちょっと寂しいかも。

「ふうん。それで、舞はどのくらい身につけた?」

 うっ、それは……。

「――ええ!? 全然できてない!?」

「は、はい……。お恥ずかしい話です……」

 いくらやっても、理解できない。

 上手くできない。一人じゃ無理。

「それは、まずいよ。国事なんだから」

 そう、ですよね……。

「そうだ、できないなら、僕が練習に付き合ってあげようか?」

 その言葉を聞いた途端、わたしは立ち上がった。

「本当ですかっ?」

 ユウト先輩は、わたしが急に近づいたせいで、ちょこっとのけぞる。

「もちろん……。近いな」

 あわわ、すみません!

 わたしは、ユウト先輩から離れた。

「練習するには、舞の手本が必要だ。何かない?」

 舞の手本?

 えっと……あるには、ある。

「どれ?」

「これ……」

 わたしは、お手本の本を持ってくると手渡した。

 ユウト先輩は、本をパラパラとめくる。

「……挿し絵はないんだね」

「そうなんです……」

 全部文章だから、全然わからなくて……。

「わかった。僕が読み解く。こういうのは得意だから」

「ありがとうございます!!」

「礼は、全て終わってから言え」

 ユウト先輩は、優しそうな雰囲気とはちがう、少し冷たい言い方で小さく呟いた。

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