第17話 菜乃葉とユウト

 わたしのもとへ、空気を切り裂いて、矢が飛んでくる。

 これ、どういうこと?

 あの矢、わたしに飛んできてるよね?

 もしかして、このままだったら、わたし死んじゃう?

 あの矢が刺さって、死んじゃうのかな。

 どうしたらいいの?

 ここから逃げる?

 部屋から出ないと。

 ああ、でも足が動かない。

 これ、もう無理だ。

「――ハァッ!」

 諦めかけた瞬間、外が青色に輝いた。

「な、何……!?」

 わたしは、窓を開けた。

 ギシッと悲鳴を上げながら、窓はすごい勢いで開く。

 窓から顔を出して、下を見る。

 わたしの部屋は2階だから、人がいるなら下のはず。

 下にいたのは、想像していない人だった。

「ユ……ユウト先輩……?」

 彼は、6年生に転校してきた、三つ子の末っ子。

 どうして、彼がここに?

 わたしが何も言えないでいると、ユウト先輩は、わたしを見た。

「やっほー、王女様」

 萌え袖のパーカーを振りながら、にこにこ笑っている。

 もう片方の手には、矢が握られていた。


 ☆


「おじゃましまーす!」

 ユウト先輩は、元気に入ってきた。

 わたしの部屋でいいのかな……?

「ちゃんと女の子の部屋だね」

 なんですか、その言い方!?

「わたし、ちゃんと女の子です!」

「わかってる。冗談だよ」

 それなら、いいのですけれど……。

「ねえ、菜乃葉ちゃん」

 いきなり、ちゃん付け!?

 さ、さすがに驚きます。

「そう? まあいいや。この扇、練習するの?」

 先輩が指さしたのは、わたしが使う扇だ。

「はい。この国の伝統です。王女が髪を捧げて、舞を踊ることで、この国の繁栄を神に願います」

 このために、今まで髪を伸ばし続けてきた。

 それも、そろそろおしまい。

 この行事で、わたしは髪を切る。

 どのくらい楽になるんだろう。

 でも、ちょっと寂しいかも。

「ふうん。それで、舞はどのくらい身につけた?」

 うっ、それは……。

「――ええ!? 全然できてない!?」

「は、はい……。お恥ずかしい話です……」

 いくらやっても、理解できない。

 上手くできない。

 一人じゃ無理。

「それは、まずいよ。国事なんだから」

 そう、ですよね……。

「そうだ、できないなら、僕が練習に付き合ってあげようか?」

 その言葉を聞いた途端、わたしは立ち上がった。

「本当ですかっ?」

 ユウト先輩は、わたしが急に近づいたせいで、ちょこっとのけぞる。

「もちろん……。積極的だな」

 あわわ、すみません!

 わたしは、ユウト先輩から離れた。

「練習するには、舞の手本が必要だ。何かない?」

 舞の手本?

 えっと……あるには、ある。

「どれ?」

「これ……」

 わたしは、お手本の本を持ってくると手渡した。

 ユウト先輩は、本をパラパラとめくる。

「……挿し絵はないんだな」

「そうなんです……」

 全部文章だから、全然わからなくて……。

「わかった。僕が読み解く。こういうのは得意だから」

「ありがとうございます!!」

「礼は、全て終わってから言え」

 ユウト先輩は、小さく呟いた。

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