第15話 イケイケ三兄弟

「お前なんて、嫌いだー!!」

 突然、絆に人が飛んできた。

 ドーン! とぶつかると、絆を押し倒す。

「いった……」

「うわぁ、ごめんっ! 勢い余って……大丈夫か?」

「う、うん……。だ、だ、大丈夫……です……」

 いやいや、全然大丈夫そうに見えない……。

「ごめんな」

一郎いちろうくん、元気だね……」

 絆に「一郎くん」と呼ばれた彼の名前は、新池あらいけ一郎。

 家がお金持ちで、お坊っちゃま。

 でも、すごくいい子なの。

「『お前なんて、嫌いだ』って……どうしたの?」

「すっ、鈴那さん! ああ、鈴那さんに話しかけてもらえるなんて、今日の俺は、なんて幸せなんだ……」

 そうそう、この子、あたしのことが好きみたい。

 あたしは別に、どうとも思ってないんだけど……。

「鈴那はあげないよ」

 絆、どうしたの?

 なんで、そんなにふくれっ面なの?

「別に……」

「そう?」

 本当、絆って……わかりやすいなあ。

 絆は、あたしのことが大好きなのよ。

 いつもいつも、あたしについてくる。

 まるで、ひよこみたい。

 なんでかって聞いてみると、いつも「鈴那は可愛いから」って言う。

 どういうこと? って思うよね。

 詳しく聞いたら「すぐ告白されて、断るのが下手だから、僕が一緒にいればクズどもは鈴那に近づけなくなる」

 ……って。

 あたしに近づく男の人を、「クズども」って言うの、どうにかしてほしい。

 正直、あたしも「顔しか見てないの?」って思うけど!

 あたしは、自分が可愛いことはよくわかっている。

 みんな、あたしに『可愛い』って言うんだもん。

 誰だって、あたしを一目見ただけでね。

 もちろん、嬉しい。

 でも、可愛いなりの苦労もあるのよ。

 こう言ったら、自慢してるみたいだね。

 もうちょっと、ちがう言い方を探さないと……。

 あたしも、嫌われたいわけじゃない。

 みんなと、仲良くしたいんだから。

「鈴那さん、聞いてください!」

 一郎、ごめんね。忘れてた。

三郎さぶろうが、『鈴那さん同盟』なら、鈴那さんと馴れ馴れしくするなって……」

 うん……それ、何?

「鈴那は可愛いから、ファンクラブができるんだよ」

 絆が不機嫌そうに言う。

「一郎、仲直りしなよ。みんな、あたしと話していいから。あたしも、みんなと話したいよ。ね?」

「鈴那さん……!」

 一郎は、大きくてうなずいた。

「わかりました! いってきます!」

 一郎は、ダッシュで教室を出ていった。



 さて、一郎たちはどうなったかな。

「鈴那さーん!」

 あっ、来た。

「仲直り、したよっ!」

 三郎――小太りな少年――が言う。

「鈴那さんの言葉は、身にしみたね」

 ほほ笑みながら言うのは、背が高めの二郎じろう

「ありがとうございます、鈴那さん」

 一郎も、嬉しそう。

 やっぱり、イケイケ三兄弟は、仲良しなのが一番だね。

「みんな名字に『池』がついて、名前が『一郎』『二郎』『三郎』なんだから、仲がいいのが一番」

 絆が少しほほ笑んで言った。

 イケイケ三兄弟は、そんな絆をじーっと見つめた。

「……絆ってさ」

 三郎から、ポロリとこぼれる言葉。

 絆が、ハッとして少し後ずさる。

 悪いことを言われるって思ったのかも。

「意外と――」

 二郎が、言葉をつなぐ。

 絆は想像と違ったのか、小さく「ん……?」と声に出す。

「話しやすいよな」

 一郎が、笑顔で言った。

「な、なんだ……警戒して損した……」

 絆は、身体の力が抜けたように、机に手をつく。

「頭良くて顔もいいって、めっちゃいいじゃん!」

「運動は、そこそこだけどな」

「でも、勉強教えてくれるぜ?」

 3人は口々に言う。

 あ、そういえば絆って……。

「や、やめてよ……。恥ずかしい……」

 ほっぺが、すっかり赤くなっている。

 やっぱりね。褒められなれてないんだよ。

 すぐ照れちゃう。

「でも、ありがとう」

 絆は、はにかむように笑ったのでした。

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