鈴那と絆のお話

第13話 水無月三弟妹

 七夕が終わって、気づけば夏休みが近づいていた。

「ねぇねぇ、ねえねえ、にいにい!」

「「どうしたの?」」

 あたし――水無月鈴那と、双子の弟・絆は、同時に返事をする。

「あのねー、さっきねー、ヘリヘリコプコプターターがね、おそら、とんとんでたでたよ」

 こう話すのは、あたしたちの妹・柚名ゆずなだ。黒髪のツインテールを揺らしながら、空を指さした。

 柚名は、なぜかわからないけど、おかしな話し方をする。

 今のは、「ヘリコプターが、お空飛んでたよ」っていうこと。

 家族はもう慣れてしまって、柚名の話す言葉を瞬時に理解できるようになっている。

「ヘリコプターが飛んでたの? 音がしなかったけど……」

 こう言ったのは、絆だ。

 オーバーオールを着ていないと、安心できない『オーバーオール依存症』。

「そんなのないから」

 あるかもしれないでしょ?

「僕がオーバーオールばっかり着るのは、安心するからじゃない」

 じゃあ、どうして?

「動きやすいから。楽だし、棒も直せる」

 なるほどね。たしかに、あのでっかいポケットなら、絆愛用の棒が余裕で入る。

「ねぇねぇ、ねえねえ、にいにい。ねえねえは、格闘技が好き好きでしょでしょ? にいにいは、剣術が好き好きでしょでしょ? ゆずゆずは、ムチが好き好きだよだよ! でもでも、特訓はきらい」

 柚名ったら、またはっきりと……。

 あたしは格闘技が得意だし、絆は剣術が得意。

 柚名はムチを操るのが得意。

 これは、普通の子だとありえないと思う。

 けれど、あたし達は違う。

 あたし達のお父さんは、警察官なの。

 それで、あたし達に戦う技術を教えてくれている。

 自分の身を自分で護るのは、大切なことだからね。

 そのために、特訓をしている。

 でも、その特訓が、なかなか厳しい。

 走り込みや、技術の向上を目的としたメニュー。

 今はやりきれてるけど、今後どうなるかな。

 一応、特訓のおかげで、今まで風邪を引いたことがないんだと思う。

「鈴那、ヘリコプターって、音しないと思う?」

 急に、絆が話しかけてきた。

 急すぎて、ビビった。

 しかも、声の大きさが、まあ蚊の鳴くような声。

 夜だったら、叫んでた自信がある。

「そんな自信なくていいよ。で、音しないと思う?」

「するんじゃない?」

 いつも、うるさいし。

「音がしないヘリコプターが、あるかもしれないよね。さっき、柚ちゃんがヘリコプターが飛んでたって言ったけど、音はしなかったし。柚ちゃんは、僕たちのすぐ近くにいたから、音がしたなら気づいたんじゃないかなって」

 淡々と喋り続ける絆。

 無表情で、早口で喋らないでほしいな。

 と、言いたいのをこらえる。

「それは……知らない」

 一応、答えてあげる。

 でもちゃんとした答えは返せない。

「でも、この国にそんな技術ないと思うんだよね」

 なるほどねー。

 って、こら、やめなさい。

「菜乃葉に怒られるわよ」

 菜乃葉は、この国の王女様なんだから。

 いくら幼馴染といっても。

「菜乃葉は、この国の技術士じゃないよ?」

「王女様でしょ!」

「あ、そういうことか」

 まったく、この弟は……頭いいんだか悪いんだか。

 あたしは、はぁ……とため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る