第11話 双子の幼なじみ

 7月7日。

 今日は、七夕の日。

 学校では、図書室に笹が飾ってある。

 笹の横には短冊が置かれている。

 毎年恒例の、小さな行事なんだ。

 短冊に、1人1つの願い事を書いて、笹に飾る。

 そうすることで、笹は色とりどりになるし、みんなも七夕を楽しめる。

 もちろん、あたしも七夕を楽しむうちの1人。

 ……だったんだけど。

 どーしても、夢叶が頭の中にちらつく!

 しつこい!

 もー、早くいなくなってよぉ!

 なんで、こんなに夢叶が気になるの?

 おかしいなぁ……。

 今までも、好きって自覚はあった。

 それは、そこまで気になるほどじゃなかった。

 夢叶は、あたしなんて、見向きもしないって思っていたから。

 けどさ、違うかもしれないじゃん。

 夢叶の家に行ったとき、夢叶は、あたしにおにぎりを作ってくれた。

 そこまでは、『幼馴染だから』ですませることができた。

 でも夢叶が、あたしのほっぺについたご飯粒を取るために、すごく近づいたとき。

 心臓が破裂しそうなくらい、ドキドキした。

 自分でもビックリするくらいで、頭は真っ白で。

 そのとき、思ったんだ。

 やっぱり、あたしは夢叶が好きなんだなぁって。

 あたしは直感がするどいみたいだから、たぶん間違ってない。

 でも……これから、どうしたらいいんだろう。

「ななみ、どうしかした?」

 突然、声をかけられた。

 振り返ると、オーバーオールの男の子がいた。

「あ……絆」

 ビックリさせないでよ、もう。

「ごめん。……何か、悩みごとでもあるの?」

 あたしは、驚いた。

 そんなこと、絆に言ったっけ?

「どうして?」

 絆に聞いてみる。

「浮かない顔だから。そんな難しそうな顔、ななみには似合わないよ」

 そっか、だから、ああ聞いてきたんだ。

 それにしても、『難しそうな顔、ななみには似合わないよ』って……あたしはいつもバカに見えるってこと!?

「そう? あたしは、元気だよ」

 一応、いつも通りに話す。

 絆は、あたしをじっと見つめた。

 さすがに見つめられると、ムズムズする。

 絆って、顔整ってるし……。

 将来、イケメンになる顔だよ。

「……そっか。鈴那に伝えとく」

「え!?」

 ちょっと待って、どういうこと?

 何を伝えるって……。

「『ななみの話を聞いてあげて』って。もちろん、『ななみから頼まれたときだけ』って言っておくよ」

「それでいいの?」

 絆は、必要なことなら、すぐに行動に移す子だ。

 あたしが、誰かに話を聞いてもらうべきなら、絆はあたしに『誰でもいいから、話を聞いてもらえ』って、言うはずだ。

「いいよ。本人の意志が一番大事だから。でも、何もかも1人で抱え込んじゃいけないよ。時には、誰かに相談することも必要」

 ああ、そうか。

 絆は、すごく優しい。

 たしか2年生のときに、転んで泣いてる1年生を、保健室まで、おんぶして連れていってあげてた。

 人見知りで、慣れない人とは会話も苦手で、いつも鈴那の後ろにいる絆が。

 そのくらい、優しいんだよね。

「うん……。わかった」

 あたしは、ゆっくりうなずいた。


 ☆


 どうしよう……。

 絆は、「鈴那に伝えとく」って言った。

 それから、「誰かに相談することも必要」って。

 それはつまり、遠回しに「相談しろ」って言ってるってこと……だよね。

 あたしも、それは大切なことだと思う。

 自分だけで抱え込んだら、どうしようもなくなってしまうかもしれないから。

「相談、してみようかな」

 あたしは、鈴那のところに行くことにした。

「いつも、放課後は体育館の渡り廊下にいるよね」

 とりあえず、そこに行ってみよう。

 あたしは、図書室を出る。

 意外と、この小学校広いんだよね。

 移動にも、時間がかかる。

「やっと着いた……」

 あたしは、渡り廊下を覗いてみた。

「あっ、いた!」

 思ったとおり、鈴那がいる。

「あれ? ななみ」

 鈴那はあたしに気がつくと、にこっとほほ笑んだ。

 やっぱり、学年1モテる鈴那は違うなぁ。

 仕草ひとつひとつに、見惚れてしまう。

「あっ、もしかして、絆が言ってたこと?」

 あたしは、ブンブンとうなずいた。

「だと思った。絆ったら、お人好しだよね。人見知りのくせに」

 それは、人見知りの子が可哀想なんじゃ……。

「それで、どんな相談? いつでも聞いてあげる」

「すずなぁ……! 実はね――」

 あたしは、話せることを全部話した。

 鈴那は、うんうんとうなずきながら聞いてくれて、あたしも話しやすかった。

 絆が、鈴那に頼むわけだ。

「そういうことだったんだ……。ななみは、夢叶のことが好きだったんだね。今まで、全然気づかなかったよ」

「えへへ……」

 そういえば、誰にも話したことなかったな。

 それに、気づかれないようにしてたし。

 みんなが気づかないのも、無理はないのかも。

「あたしが言えることは、ただ一つ。ななみ、告白しな」

「こっ、告白!?」

 い、いきなりそんな……。

 ハードル高いよ……!

 さすがに、あたしでも、その高さのハードルは飛べないよ?

「飛べないなんて、みんなわかってる。だから、挑戦するのよ」

「挑戦?」

「ハードルを飛べたとき、ななみの恋は実る。飛べなかったら、恋は散ってしまうの」

 な、なるほど……?

 あたしの頭では、理解するのが大変だよ。

「でも、そんなの結果でしかない。今のななみは、自分の限界に挑戦しようとしない、ハードル走選手」

 あたしは、はっとする。

 そっか……。

 挑戦、すればいいんだ。

 結果なんて、所詮結果。

 大事なのは、飛べたかどうかじゃない。

 飛ぶことに、挑戦したかどうかなんだ。

「鈴那、ありがとう。あたし、挑戦してみるよ!」

「うん! 行ってきな」

 あたしは、帰路についた。

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