ななみのお話

第10話 ななみの憂鬱

 7月6日、七夕の前日。

 あたし――佐納ななみは、ベランダから夜の空を見上げていた。

「あしたは、七夕かぁ……」

 どんなお願いしよっかな?

 そういえば、先月は夢叶がゲームを作ってること、新しく知ったな。

 そのうち1つは、あたしがしたことのあるゲーム。

 同じ色や形をした星を、ペアにして消すパズルゲーム。

 丸い星、星型の星、月みたいな星……色々あって、すごく面白かった。

 制限時間内に、どれだけ消せるか試すのが好きだった。

 夢叶は、あれを、自分が作ったって、知られたくなかったみたいだけど。

 自慢しても、いいと思うんだよね。

 あれは夢叶の得意なことなんだから。

「……夢叶、今何してるんだろ」

 さすがに、覗いちゃだめだよね……。

 もう夜だし、迷惑かも。

 でも、やっぱり気になる……。

 だ、ダメダメっ!

「我慢、我慢!」

 ……夢叶は、あたしの気持ち、気づいてるかな。

 おにぎりを作ってくれたとき、嬉しかった。

 あたしのほっぺについたご飯粒を取ってくれたときの夢叶、なんだかちょこっと、ドキドキしちゃった。

 あの後、夢叶は思い切り離れたけど。

「なんだかんだ、優しいよね……」

 昔からそう。

 夢叶は、感情表現が苦手……なのかな?

 あたしには、そう見える。

 天才で近寄りがたい絆よりも、大きな声で笑うことは少ない。

 泣くこともない。

 はしゃぐこともない。

 でも、そういうところも好きなんだよね。

「あのとき、ちゃんと言えばよかったかな……」

『夢叶のゲームが』なんて言わないで、夢叶に『好き』って、言えばよかったかな。

「ううーん、でも言うの恥ずかしいし……」

 あたしも、鈴那みたいに、ハッキリ言えたら。

 菜乃葉みたいに、相手の目を見て話せたら。

 絆みたいに、コミュニケーション取るのが下手でも、自分の意見を言えたら。

 かおるみたいに、素直だったら。

 夢叶に、気持ちを伝えることができたのかな。

「あたしだって、ちゃんと言いたいよ……」

 でも、よく言うじゃん。

『初恋は実らない』って。

 今、夢叶にコクハクしたら……それが『初恋』になっちゃう。

 それなら、一度別の子を好きになって、それを『初恋』にして、夢叶を好きになるのは、『2度目の恋』にして……そうしたら、夢叶への恋は、『初恋』じゃなくなるんじゃないのかな……。

「……無理だなぁ……。あたしには、そんな勇気ないや」

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