夢叶のお話

第7話 夢叶の休日

 転校生がやってきた日から、2ヶ月が過ぎた。

 雨が増えてきて、ちょっと嫌なかんじがする。

「ふぅ……」

 俺――旭山夢叶は、息をついた。

 自主制作ゲームを、今サイトに投稿したところだ。

 制作者名は「AYU」。

 俺の苗字と名前の、頭文字を取ったものだ。

 次は、どのくらい遊んでもらえるだろう。

「疲れた……寝るか」

 俺は、うーんと伸びをすると、布団に入ろうとした。

 そのとき。

「ゆーめーとー!!」

「わっ!?」

 外から、ななみの声がした。

 ななみは、生まれる前からの付き合いだ。

 俺たちの母さんが、高校の同級生なんだそう。

 幼稚園、小学校と同じで、さらにクラスが離れたことがない。 

「なんだよ……」

 俺は、ベランダから顔を出した。

 思ったとおり、隣の部屋から、ななみがこっちを覗き込んでいる。

「不法侵入って言っていい?」

「だめー!」

 ななみは、わーっと叫ぶ。

「いくらマンションの部屋が隣だからって、覗き込む必要はないだろ」

 やっぱ、不法侵入じゃね?

「夢叶、何してたのー?」

「耳はどこいった?」

「あるよー!」

 ななみは、ほっぺを膨らませて反論してくる。

「聞く耳持たず――話を聞かないってことだよ」

「なっ! あたし、夢叶の話ちゃんと聞いてるし!」

 どこが? 俺の質問に、答えなかったろ。

 すると、ななみは人差し指をツンツン。

「そ、それは……だって……夢叶、いつも突っ込んでくるから、めんどくさいなって……」

「めんどくさい?」

 俺は、めんどくさいのか?

「……外で話そうよ」

 お前ってやつは、本当に……。

「わかったよ。んじゃ、マンションの下な」

 俺は、ななみにそう言った。

「やったー! 夢叶が、あたしのお願い、聞いてくれたっ」

 頼みを聞いただけなのに、ななみは飛び跳ねて喜ぶ。

 ベランダから落っこちるぞ。

「あたしは、そんなドジしませーん」

 なんか嬉しそうだな。

「うん、嬉しいよ!」

 にぱっと笑うななみ。

 その笑顔に、俺はドキリとする。

「夢叶、顔赤い」

「!? いや、熱とかないから!」

「熱ありそうって、言ってないけど……?」

 不思議そうに、ななみは首をかしげる。

「別にいいだろっ! ほら、外行く!」

 俺は、家の中に入った。

「本当に、ななみは素直だな……」

 とりあえず、外に出よう。

 ななみは、そうと決めたら、あっという間にやり終えてしまうからな。

 今も、たぶんダッシュで下に降りている。

「隣の公園で、遊んでたりしてな」

 何気ない想像をしながら、家を出た。

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