第5話 こんにちは、クラスメイト

「いってきまーす!」

 わたしは、元気に家を出た。

 準備は万端!

 さて、どこに行こうかな。

「――うわあぁぁぁぁっ!!!」

「ふえっ!?」

 この声は……。

「絆くん?」

 何かあったのかも!

 わたしは、声のした方へ走る。

「大丈夫!?」

 って、どうしたの……?

 橙色のパーカーに、青いオーバーオールを着た、黒髪の男の子。

 彼は、地面にへたり込んでいた。

 けれど、その前には何もいない。

 何してるんだろう……。

 わたしは、横から覗き込んでみた。

「えっ」

 わたしの口から、声が漏れ出る。

 そこにいたのは、ハムスターだった。

 どうりで、何もいないわけだね。

「かわいい〜!」

「か、かわいい……?」

 絆くんは、ぎょっとしてわたしを見る。

「これの、どこが可愛いの!?」

 わっ、珍しく声が大きい。

 いつもクールなのに。

「絆くん、ハムスター怖いの?」

 わたしが聞くと、絆くんは顔を真っ青にした。

「いや……そ、その……ハムスターじゃないよ!」

「?」

 ここにいるの、ハムスターだよ?

「そうじゃなくて……動物……みんなやだ……」

 な、なるほど……?

「動物嫌い」ってことか。

「いいよね……かおるちゃんは」

「ふえ?」

「苦手なものなんてなさそう……」

「ええと……」

 たしかに、すぐ思いつくものはない……けど……。

 でも……あっ。

「虫、苦手だよ」

「……そう、なんだ」

 絆くんは、なぜか嬉しそう。

「僕と一緒の人がいた……!」

 あ……虫も嫌いなんだ……?

 えっと……絆くんは、

 人見知り。

 動物嫌い。

 虫嫌い。

 でも天才。

 ……大変そう。

「僕、帰るね。バイバイっ」

 絆くんは、その場から逃げるように、帰ったのでした。


 ☆


 お腹すいたな。

 そうだ、丘の上でお弁当を食べよう。

 わたしが歩いていると、ヒュンヒュンと風切り音がした。

「なんだろう……」

 わたしは、そちらへ向かう。

「ふえぇ……」

 わたしが見たのは、縄跳びを跳ぶ男の子。

 二重跳びかな?

 縄に引っかかることなく、ヒュンヒュン音が鳴り続けている。

 すごい……!

 わたし、あんなに縄跳びできない。

「ねえっ」

 思わず、声をかけた。

「!? ――いってぇ!!!」

 彼は、わたしを見て、驚いた。

 それで足にバチンッと縄が当たる。

「ふえぇっ! ごめんね……っ」

 わたしは、彼に駆け寄った。

「いって……。あ、ああ。急に話しかけるから、ビックリしただけ……」

「でも……わたしのせいだよね……?」

「ちげーよ。オレの不注意」

 でも……でも……。

 わたしがオロオロしていると、彼はため息をついた。

「ほんっと、うざい」

「! ごめんなさい……」

「そんなに『自分のせい』って言うなよ」

「……」

 わたしが黙ってしまったからか、彼は腕組みをして、何か考える素振りをする。

 それから、ピコーンと何か思いついたらしい。

 わたしに、ニッと笑いかけた。

「オレは香川かがわれん! かおるだろ? 4年のときに転校してきた。……もしかして、オレの名前知らない?」

「えっと……今知りました……」

「マジ?」

 また、何か言われる……。

 わたしは、勝手に縮こまっていた。

 でも、れんくんは、

「ま、しゃーねーか。じゃ、これから覚えてな」

 そう言って、笑ってくれた。

「……! うん」

 なんだろう……。

 胸が、ポカポカ……ドキドキする。

 ……嬉しい。

「あー、腹減ったー……。うちに帰らなきゃ」

 れんくんは、「じゃあな」と、歩こうとする。

「あ……待って!」

 わたしは、れんくんの手を掴んだ。

「どした?」

「あの……えっと……お弁当……食べよ」

 わたしは、カバンを抱きしめた。

「一緒に、お弁当食べようっ!」

 れんくんは、わたしを目を見開いて見つめた。

 だ、駄目だったかな?

 やっぱり、良くなかったかな?

「……いいのか?」

 わたしは、うんうんと首がもげるほどうなずく。

「やった」

 れんくんは、目をキラッキラに輝かせた。

 それから二人で、お母さんが作ってくれたサンドイッチを食べた。

 れんくんの感想は、

「これが、ほっぺが落ちるつてやつか……!」

 だそうです!

 今日は、とっても楽しかったな。

 また、お出かけしよう。

 わたしは、そう思うのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る