第5話 こんにちは、クラスメイト
「いってきまーす!」
わたしは、お母さんにお弁当を作ってもらうと、元気に家を出た。
準備は万端! さて、どこに行こうかな。
ルンルン気分で、街を歩く。人が多いところは苦手だから、もう少し静かなところに行こうかなぁ。
「――うわあぁぁぁぁっ!!!」
「ふえっ!?」
とつぜん響いてきた大きな叫び声に、わたしは足を止めた。
聞いたことがある声。ちょっと高めだけど、落ち着いていて心が安らぐこの声は……
「もしかして、絆くん?」
何かあったのかも!
わたしは、声のした方へ走る。
ええっと、たしかこっちの方だったはず。
細い道を通り過ぎかけたとき、道の奥に人影を見つけた。あの後ろ姿には見覚えがある。
「絆くん、大丈夫!? って、どうしたの……?」
橙色のパーカーと青いオーバーオールを着た、黒髪の男の子――水無月絆くん。
彼は、地面にへたり込んでいた。
けれど、その前には何もいない。
何してるんだろう……。
わたしは、横から覗き込んでみた。
「えっ」
わたしの口から、声が漏れ出る。
そこにいたのは、ハムスターだった。
絆くんのくつにちょこんと手を乗っけて、後ろ足で立っている。
どうりで、何もいないと思うわけだね。とっても小さいから、絆くんのからだで隠れちゃっていたんだ。
「かわいい〜!」
「か、かわいい……?」
絆くんは、ぎょっとしてわたしを見る。
「これのどこが、かわいいの!?」
わっ、珍しく声が大きい。いつもクールなのに。
「僕がクール……? 僕のどこをどう見たら、そんなふうに思うの? 帰ったら鈴那に聞いてみよう」
ええっとね……いつも静かだから、かな?
それより、気になることがあるよ。
「……絆くん、ハムスター怖いの?」
わたしが聞くと、絆くんは顔を真っ青にした。
「いや……そ、その……ハムスターじゃないよ!」
「え?」
ここにいるの、ハムスターだよ?
「そうじゃなくて、動物みんなやだ……」
な、なるほど……。「動物嫌い」ってことなんだね。
「いいなあ、かおるちゃんは」
「ふえ?」
「苦手なものなんてなさそう」
うひゃあ、すごくどんよりしてるよ。こっちの気分まで下がっちゃいそう。
うーん、苦手なものかぁ。
すぐ思いつくものはないけど……あっ。
「わたし、虫が苦手だよ」
「……そう、なんだ」
絆くんは、なぜかうれしそう。さっきまでの、どんよりした空気はなくなった。
わたしにも苦手なものがあるって知って、安心したのかな。
「僕と一緒の人がいた……!」
あっ、虫も嫌いなんだ……?
えっと……絆くんは、人見知りで、動物嫌いで、虫嫌い。
でも、天才ってみんなが言ってる。
すごく頭が良くて、テストで100点以外をとっているのは見たことがないし、運動もそこそこできるみたいだし、実はものすごく強いらしい……。
ハイスペックになるかわりに、神様が苦手なものを多くしちゃったのかもね。
なんて考えながら、絆くんの足に張り付いていたハムスターを抱っこした。
「ハムスター取ってくれてありがとう。僕、帰るね。バイバイっ、かおるちゃん」
絆くんはハムスターから早く離れたいのか、逃げるように走って帰ったのでした。
ハムスターは、飼い主さんが見つかったので返してきた。飼い主さんを見つけるのに、1時間くらいかかっちゃったよ。でも1時間ですんでよかった。
「お腹すいたな……」
そうだ、丘の上でお弁当を食べよう。
わたしが歩いていると、ヒュンヒュンと風切り音がした。
「なんだろう……」
わたしは、音がした方向へ向かう。
「ふえぇっ!?」
わたしが見たのは、縄跳びを跳ぶ男の子。
二重跳びかな? 縄に引っかかることなく、ヒュンヒュン音が鳴り続けている。
すごい……! わたし、あんなに縄跳びできない。
「あのっ」
思わず、声をかけた。
「!? ――いってぇ!!!」
彼は、わたしを見て、驚いた。それで足にバチンッと縄が当たる。
「ふええっ! ごめんね……っ」
わたしは、彼に駆け寄った。
黒い短髪で、体育系の男の子ってかんじ。まだそこまで暑くないのに、もう半そで半ズボンだ。
「いって……。ああ、大丈夫だよ。急に話しかけるから、ビックリしただけ」
「でも、それってわたしのせいだよね……?」
「ちげーよ。オレの不注意」
でも……でも……。
わたしがオロオロしていると、彼はため息をついた。
「あのさあ、そういうのウザイんだけど」
「あっ、ごめんなさい……」
「そんなに何回も、自分のせいって言うなよ」
「……」
わたしが黙ってしまったからか、彼は腕組みをして、何か考える素振りをする。
それから、ピコーンと何か思いついたらしい。
わたしに、ニッと笑いかけた。
「オレは
「えっと……今知りました……」
「マジ?」
同じクラスのはずなんだけど、ぜんぜん話したことがないから、覚えていなかった。
また何か言われちゃうよ……。
わたしは、勝手に縮こまっていた。
でも、れんくんは、
「ま、しゃーねーか。じゃ、これから覚えてな」
そう言って、笑ってくれた。
「……! うん」
なんだろう、この気持ち。
胸が、ポカポカ……ドキドキする。
……嬉しい。
「あー、腹減ったー……。うちに帰らなきゃ」
れんくんは、「じゃあな」と、歩こうとする。
「あ……待って!」
わたしは、れんくんの手を掴んだ。
「どした?」
「あの、えっと……お弁当、一緒に食べよう?」
わたしは、カバンを抱きしめる。
れんくんは、わたしを目を見開いて見つめた。
だ、駄目だったかな? やっぱり、いきなりは良くなかったかな? つい、言っちゃったけど。
「……いいのか?」
目をぱちくりさせて聞くれんくんに、わたしはうんうんと首がもげるほどうなずく。
「やった!」
れんくんは、目をキラキラに輝かせた。
それから二人で、お母さんが作ってくれたサンドイッチを食べた。
れんくんの感想は、
「これが、ほっぺが落ちるってやつか……!」
だそうです!
今日は、とっても楽しかったな。れんくんと仲良くなれたみたいでよかった。
またお出かけしよう!
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