第3話 かけっこ対決

 2人は、真剣に準備運動をしている。

 クラスメイトも全員もれなくグラウンドに来て、2人の様子を見守っている。

「菜乃葉、今から何するんだ?」

 わたしに、夢叶が聞く。夢叶はさっき教室にいなかったから、今の状況の理由を知らないみたい。

「ミライくんと、ななみの勝負です。グラウンドを半周して、先にゴールしたほうの勝ちです」

 わたしは、夢叶の質問に答えた。

「なるほど……。それをして、何か決めるのか?」

「何も決めないんじゃない?」

 わたしと夢叶の話に、絆が割り込んだ。

「なんで?」

「さっきの二人を見た限りだと、ミライくんは、ななみが不機嫌そうに見えたんだと思うよ。あの『ザ・運動バカ』には運動で勝負するのがいいと考えたんじゃないかな」

 わたしの入る隙がなくなってしまいました。

 絆、1人で寂しかったんでしょうか? 話したいなら、そう言えばいいのに……と思うけれど、絆はそれが苦手なんだった。

「なんで、ななみが『ザ・運動バカ』だって、転校生がわかるんだ?」

「ななみの全てが運動要素で埋め尽くされているから」

「まあ、確かに。髪型も服装も言動も……なんか、カンガルーみたいだよな」

 夢叶がうなずきながら、ななみを動物に例えた。

 カンガルー……どうしてでしょう。元気に跳ねるからでしょうか?

 首をかしげたのは、わたしだけじゃなかった。

「あれ、カンガルーみたいだっけ? 僕イノシシだと思ってた」

 きっ、絆、イノシシだと思っていたんですか!?

 夢叶も驚く……と思ったら、それはちがった。夢叶は少し、ムッと目を細めた。

「ななみは可愛いだろ。イノシシって、本人に言うなよ」

 わたしたちの中で一番ななみとの付き合いが長いのは夢叶だから、気に障ったのかな……?

「おーい、菜乃葉たちー! ななみとミライくん、勝負始めるってー」

 あっ、鈴那が呼んでます。

 わたしたちは、ゴール付近に行った。他の子たちもいて、ななみとミライくんの勝負が始まるのを、じっと待っている。

「よーい……」

 掛け声をかけるのは……、あれっ? 転校生のキキくん!

 手には、赤い旗を持っている。振り上げた旗を、思い切りおろした。

「どーーーーーーーーんっっっっっ!!!!!」

 わ……すごい声……!

「耳がぁぁぁぁ!!」

 隣で夢叶の、耳をつんざく悲鳴がする。

 絆がビクッと驚いたのが目に入った。

「夢叶も十分うるさい」

 鈴那が夢叶の悲鳴に重ならないように言うと、夢叶は「ごめん」と謝った。

 そんなわたし達をよそに、ななみとミライくんは、スタートダッシュをきる。

 ぐんぐんスピードを上げ、わたし達よりもずっと速く走る。

 ミライくんが、ななみを抜いた。

 ゴールまで、あと数メートルのところだった。

「あっ……!」

 ななみの驚く声と同時に、ミライくんがゴールした。

 ほんの一瞬遅れて、ななみもゴール。

「はあっ、はあっ……、ミライくん……すご……速いね」

 ななみが全身を使って呼吸するのに、ミライくんは、すました顔でいる。

 まるで、「この程度か」と言うみたいに。

「ねえ……!」

 ななみが、ミライくんに語りかけた。

 顔をあげると、なんとキラッキラに輝く瞳だ。

「ミライって、呼んでいい!? めちゃくちゃ足速いね! すごい!!」

「え……いい、けど」

 ミライくんは、おどろいて固まっている。

 ななみは彼の様子に気づいていないのか、その場でピョンピョン飛び跳ねた。

「やったぁ! 今度、また勝負してねっ! そのときには、もーっと速くなって、ミライなんて置いてっちゃうんだから!」

 ななみはニッと笑ったのでした。

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