転校生のお話

第1話 今日から新学期

 4月。桜が舞う、暖かな日だ。

 しかし、舞っているのは、桜だけじゃない。

 わたし――菜乃葉の心も舞い上がっていた。

「今日から5年生ですっ」

 上級生の仲間入りだ。

 はしゃぐわたしに、オーバーオールの男の子が言った。

「菜乃葉、クラスのメンバーは変わらないよ?」

きずな、そうじゃないの。5年生になるのが嬉しいんだよ」

 彼に、肩上で髪を切りそろえた女の子が言う。

 男の子にそっくりだ。

「えっ? そうだったの? 鈴那すずな、よくわかったね」

「絆ったら、せっかく頭いいのに、読み取りかた間違えてる」

 この2人は、水無月みなづき絆くんと、水無月鈴那ちゃん。

 2人は双子の姉弟で、わたしとは1年生からの付き合いなのです。

「おっはよー、みんな!」

 わたしたちが話していると、茶髪をサイドテールにした、元気な女の子が走ってやってきた。

「ななみ、うるせぇ……。みんな、おはよ」

 女の子の後ろから歩いてきたのは、金髪天然パーマの男の子だ。

「うるさい!? 夢叶ゆめと、ひどっ」

 こちらは、佐納さのうななみちゃんと、旭山あさひやま夢叶ゆめとくん。

 2人も1年生からの付き合いです。

「おはようございます」

「「おはよう」」

 わたしが挨拶したあと、鈴那と絆の声がピッタリ重なった。さすが双子、息ぴったりです!

「聞いた? 今日、転校生来るんだってよ!」

「転校生の情報知ってんの、マジ何者だよ」

 ななみは、いつも通りの情報通だ。

「「転校生!/転校生……?」」

「転校生って、ほ、本当ですか?」

 思わず、聞き返す。

 この自然小学校に、転校生が来るなんて珍しい。

 だいたい、全校生徒が100人以下の学校だ。

「あたしたちのクラスも、13人しかいないしね」

 そうなのだ。

 1年生は、今年18人入ってくるそう。2年生は、それより少なく15人。3年生は10人。4年生は11人。6年生は16人。本当に少ない。

「転校生か……」

 絆が、浮かない顔だ。もしかして……。

「不安、ですか?」

 わたしがきくと、絆はコクリとうなずく。

「僕、昔から苦手なんだ……。初めて会う人に話しかけたり、友達になったりするの。だいたいは、鈴那が手伝ってくれるんだ。だから今、菜乃葉たちと、いい関係性を築けているんだけど……」

 そうでなければ、鈴那以外、話せる相手がいなかった……と。

「絆は、気にしすぎ。大丈夫、仲良くなれるさ」

 夢叶が優しく語りかける。

「そうだったらいいな……」

 絆が、小さく笑った。

 と、そこへ頭にリボンカチューシャをつけた子が来た。

「あ、あのっ……菜乃葉ちゃん……」

「かおるちゃん」

 わたしは、彼女――花坂はなざかかおるちゃんを見た。

 かおるちゃんは、4年生の終わり頃に転校してきた子で、みんなに「珍しいね」と言われた子だ。

「ええと……絆くん、不安なんだよね……。話、勝手に聞いちゃった。ごめんね」

 かおるちゃんは、絆にペコッと頭を下げた。

「あっ、ダ、大丈夫デス……」

「きずなぁ……」

 ガチゴチに固まった弟に、鈴那はあきれている。

 かおるちゃんは、視線をあちこちにさまよわせる。

「どうしよ……話題がないよぉ……!」

 かおるちゃんが小さく言った。

 それで落ち着きがないのですね。

「そ、そろそろ先生来ちゃうよ」

「あっ! ホントだ!」

 かおるちゃんの言葉に、ななみが声を上げる。

「やべ」

「座ろ、絆」

「う、うん!」

 ななみと夢叶は、光のスピードで席につき、絆は鈴那に声をかけてもらって助かったと言わんばかりに、2人で席に向かった。

 残された、わたしとかおるちゃん。

「……座っちゃった」

「せっかく、かおるちゃんが話しかけてくれたのに……ごめんなさい」

 わたしが頭を下げると、かおるちゃんは首を横に振った。

「ううん! 気にしないで。大丈夫だよ。『先生来ちゃう』って言ったのは、わたしだもん」

 かおるちゃんは残念そうに、ふにゃっと笑ったのでした。

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