30 覚悟決めるのにも寄り道が必要


 酒が代金代わりになるなら、どこでも買い物できそうだな、と銀二はぼんやり考えつつ、風に当たりながら町を散策した。アジャとアルコは後をついてきながら、水筒に水を溜めては、「お酒」と催促してきた。オニコロシにカルアミルクを与えながら、銀二は魔王を煽り、立ち止まった。


「……戦争か」

「ギンジ、どうする? 村に帰る?」アルコが訊いた。

「ん? うぅん」


 さてどうするか、と銀二は思案した。

 酒の力で国が救えるとは到底思えないが、酒で救える人の心はある。

 この国に蔓延はびこった暗い雰囲気を晴らすには、酒はうってつけかもしれないが、それは現実逃避を助ける程度のもので、国を救うほどの力はない。しかし、こうして誰かと酒を酌み交わし、人の心に触れてしまうと、自分には関係ないと言い切る自信もなくなってしまった。


「ただ酒を飲んで楽しくやりたいだけなのに、それすら簡単じゃないとはね」

「ギンジは戦争が怖いのカ?」アジャが訊いた。

「そら、誰だって怖いだろ」

「戦ったことがあるのカ?」

「戦争は知らない。俺の生まれ育った国じゃ、戦争は遠い世界のことだし、戦争を知ってる大人なんて周りにはいなかったからさ。爺ちゃんでさえ、戦争を知らない。けどさ」


 身内に置き換えてみると、やはり気分はよくない。

 ここは日本じゃない。

 地元じゃない。

 知っている人はいないからと割り切るのは簡単だが、ここに暮らす人たちを身内に置き換えると、やはり胸の辺りは苦しくなるし、もやもやする。それに、知らないからこそ妙な怖さがある。その戦火がコルトン村まで及ぶとしたら、その光景は想像の域を出ない。


「せっかくできた居場所がなくなっちまうのはやっぱ怖いし、それは皆、一緒だろうな」


 この国に残った人たちも同じような恐怖を抱えているのかと想像すると、ただ突っ立って見ているわけにもいかない気がしてきた。


「なあ二人とも、俺に戦争を止める力があると思うか?」

「ナイだろ」アジャは言った。

「ないと思うけど、王様を救ったのはギンジだよ」


 二人の言葉に、銀二は「そうなんだよな」と顎を触った。

 酒瓶に残る魔王をちゃぷちゃぷと躍らせながら、空を仰ぎ見て、城へ向けて踵を返した。


「お城に戻るの?」

「戻る。アルコちゃんは村に帰りな、皆心配してるだろうしさ」

「一緒に行くよ。ギンジといると楽しいし」

「そいつは嬉しいけど、危なくなるようなら帰りなよ? アルコちゃんに何かあったら、お父さんに合わせる顔がないからさ」

「平気だよ。父ちゃんギンジのこと気に入ってるし。それより、ギンジこそいいの?」

「イヤだけど、このまま逃げ回ってもいいことはない気がするし、何より俺は、暗い酒は嫌いでね」

「面倒なヤツだな、なら最初から逃げなければいいだロ」アジャが言った。

「人間、覚悟決めるのにも寄り道が必要なのさ」銀二は言った。


 覚悟なんてできてはいないし、国のことも、そこに暮らす人たちのことも、よくは知らない。

 それでも、酒に酔った勢いでも構わないから、自分の気持ちに正直になろうと銀二は決めた。

 城へ戻ると、門前でジャスティが腕を組んで待っていた。

 銀二たちを迎えたジャスティは、心底うんざりするような表情で言った。


「戻ってきたか」

「他に行く場所がなくてさ」


 銀二が言うと、ジャスティは頭を掻き、「今度は逃がさないぞ」と念を押すように言うと、続けて口を開いた。「今、ちょうど皇国の使者が来ている。お前も顔を貸せ」と言った。


「……使者?」

「我々に降伏するように伝えに来た」

「殺セ。開戦だ」アジャが言った。

「殺しはしないが、黙って帰すつもりもない。ギンジ、さっそくお前の力を貸してくれ」

「……水、ありったけ用意してちょうだいよ?」


 ジャスティは頷くと、銀二たちを使者の元へと案内した。

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