そろそろ……?
「……あ~」
「咲夜ちゃん? さっきからずっとそうじゃない?」
「……だってよぉ」
見るからにやる気のない声を出す咲夜に苦笑する。
賑やかだった夕飯の時間を終え、後はもう寝るだけだが……高校生三人が集まって大人しく夜が過ぎて行くわけもなく、俺の部屋に集まって勉強道具を広げていた。
……まあほら、学生には勉強って必要だし?
「ほらほら、月曜には小テストがあるって言ってたでしょ? 軽く予習くらいはしてても損はないじゃん」
「そりゃそうだけどよぉ……なんで理人が傍に居るってのに勉強なんかして時間を無駄にすんのかなって」
「それは……そうだけど」
おい。
咲夜の言葉に同意するように、菜月は手を止めて俺を見つめ……まるで彼女の目が獲物を見るような目に変化したのはおそらく見間違いで……見間違いってことにしてくれ。
「確かにこのメンツが集まって勉強って言うのも味気ないけど、やっぱり大事なことだしな?」
「それって遠回しに私たちと味気あることがしたいってこと?」
「なんだ、なら最初からそう言えば良いのに」
その瞬間、完全にスイッチが入ったように二人は目の色を変えた。
しかしながらここまでは俺を揶揄うつもりだったらしく、ギョッとした俺を見て菜月と咲夜は楽しそうにクスクスと笑う。
「……ったく、とにかく今日は勉強するぞ!」
「は~い」
「しゃあねえなぁ」
ということで、その後は特に何もなく勉強は終わった。
勉強が出来る菜月に俺は教えてもらえたし、咲夜も最終的にはビックリするくらいに集中していたので、まさか学校以外でこんなにも充実した勉強時間を取れるとは思わなかった。
「……ふぃ~」
勉強道具は一旦テーブルの上に広げたまま、俺はゆっくりと床に寝そべって腕を伸ばす。
菜月たちも思い思いに過ごしているが、咲夜は随分と眠たそうだ。
学校から帰って俺と一緒に結構寝たって言うのに……まあ、眠たい時には寝た方が良いからなこういうのは。
「あたし……なんか今日は疲れたよ」
「部屋に戻る?」
「あぁ……今日はもう菜月に譲る。おやすみぃ」
よたよたと危ない様子で部屋を出て行ったが……大丈夫かな?
一応菜月と一緒に確認に行ったらちゃんと布団の上に横になっていたので、俺たちは苦笑して部屋へと戻り……まるで見計らったかのように菜月がギュッと飛び付いた。
「えへへ、二人っきりだねぇ♪」
「……………」
「あ、今私を可愛い奴だなって思ったでしょ~」
「自分で言うんじゃないよ」
でも当たり……当たりすぎてその勘の鋭さが怖いってば。
ある程度体を動かしても菜月は一切離れてくれないので、俺はそのままベッドに腰を下ろす。
スリスリと肩に頬を擦り付ける菜月だったが、しばらくして顔を離し俺のベッドに横になった。
「あ~、こうして理人のベッドに寝るのも久しぶりだねぇ。たっくさん私の匂いを付けちゃおっと」
「おい」
「ふふんだ。知らない内に頼れる男になっちゃった罰だよん」
「なんて理不尽な罰なんだ」
けど……確かにこうして菜月と部屋に二人は久しぶりな気がするな。
彼女が少しでも部屋に訪れたという意味ではなく、こんな風にのんびりしているのはという意味だ。
「ここ数日の変化は目を見張るものがあるよ本当に。理人は凄く大きく頼れる存在になっちゃってるし、咲夜ちゃんは噂なんて気にならなくなるくらいに可愛いって分かったし……私もこんな風にグイグイ攻めるタイプなんだってのも知っちゃったし」
「……そう言われると改めて思うよな。俺たち、ここ数日で今までと比べて変わりすぎだろって」
「そうだよねぇ。ねね、キスしない?」
「……はっ?」
今、なんて言った?
呆然とする俺に彼女は再びこう言った。
「キスしようよ」
「……………」
やっぱり聞き間違いじゃなかったらしい。
キスをしよう……その言葉を理解した時、俺は即座に顔が熱くなったのを感じた。
それもそうだ……だってキスだぞ?
こうして俺は思いっきり照れているっていうのに、言い出した菜月は全く照れた様子がない……まるで言い慣れているんじゃないかって思わせるくらいだ。
「あ、もしかして言い慣れてるとか思ってる? 私、こんなことを言ったのは今が初めてだよ? 確かに私たちは付き合ったりしてない……でも、私は理人のことが好きだからキスをしたいの」
「いやそれは……」
「唇と唇を合わせるだけじゃん。何が嫌なの?」
「嫌とかそういうことじゃなくて……えっと、お酒とか飲んでる?」
「飲めるわけないじゃん! まだ未成年だし!」
ですよねぇ。
どこまで本気なのか……そう思いつつも、キスという行為を俺は前世も含めてしたことがない。
女の子とそういうことをするのは興味があるし、キスなんてものもそりゃもちろん興味がある……でもやっぱり、軽い気持ちでやれるようなものではないってことは理解してる。
「……キスは興味あるよ。むしろどんな感じなのかしてみたい」
「うん」
「でもやっぱり……良い意味で抵抗はあるよ」
「ま、そうなるよね」
「これ……男らしくない?」
「……ごめん、私がいけなかった」
どうやら俺がかなり悩んでいると思われたらしい。
正直……俺ってどうしたいんだろうなぁ……自分が何を求め、何をしたいのか、どんな風に答えを出せば良いのか分かっていない。
俺は菜月と咲夜……好きだと言ってくれた二人のことを嫌っているわけがないし、普通よりも好意に寄った感情は抱いている。
「でも意識はしてくれてるんだ?」
「そりゃするって。二人はビックリするくらいの美少女だから」
「あははっ、そんな風に言ってくれるんだもん理人ったら。おだてるつもりとかでもなくて、本心で言ってくれるのが分かるから凄く嬉しい……だからこそ、理人の傍に居る私はこんなにもドキドキしてる。理人と愛し合いたくてたまらなくなってる」
「……菜月も正直すぎるだろ」
「私だけじゃなくて咲夜ちゃんもそうでしょ?」
そうだよ……そうなんだよ!
こんなこと、誰にも相談出来るような内容じゃない……家族が傍に居たとしても絶対に無理だ。
ほんと……どうすりゃ良い?
そもそも俺は……どんな風に二人のことを考えている? 俺は二人とどんな関係を構築したい……? まずはそれを真剣に考え、気持ちを固めていく必要がありそうだ。
「好きだよ理人。今の理人がどんな理人よりも好き……あなたと幼馴染で良かったし、あなたと出会えて良かった……あなたが帰ってきてくれて嬉しかった」
「帰って……?」
「ふふっ、何でもない♪」
……?
菜月の伝えてくれた言葉とは裏腹に、嬉しかったと言われた瞬間何か嫌な感情が胸の中に宿った……まるで自分ではないような、それこそ他人の気持ちが自分の中に入り込んだような気味の悪い感覚だった。
しかし、それもすぐに気にならなくなる……だって。
「ねえ、私の心臓こんなにドキドキしてるよ?」
「んなっ!?」
菜月が俺の手を取り、自身の豊かな胸に押し当てたからだ。
彼女が言ったようにとてもドキドキしているのが伝わるし、何よりとても熱いのがよく分かる……それは間違いなく彼女が興奮している証でもあった。
股をモジモジとさせる菜月の様子に、俺の方も今までとは比べ物にならないほどのドキドキが支配してくる……本当にこの先、どうなっちゃうんだろうって俺は不安になるのだった。
『素敵……本当に今の理人が素敵――好き』
『気付いてくれよ……それは僕じゃない! 君の好きな僕じゃないんだよ菜月ぃ!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます