選択はどうしよう

「……………」


 金曜日の学校……やはり俺が思った通りだった。

 それは昨日のやり取りが尾を引いているということで、菜月や咲夜とのやり取りを結構な数のクラスメイトが見ていたせいだ。

 菜月は自分のクラスに居るものの、咲夜はずっと傍に居る。

 それもあって俺たちに近付く者は居ないし、だからこそ遠目から眺められるだけという時間が続いている。


「なあ咲夜、俺たちはパンダにでもなっちまったんかな」

「そう言われるとこれがそんな気持ちなのかって思うねぇ……何か言いたいことがあるなら言えば良いのに」

「それが出来たら苦労しないって」

「軟弱者共だな理人と違って」


 そんな風に俺と比べるのは光栄だけど、俺の場合は彼らと感覚そのものが違う……もう俺からしたら何度も擦っているネタだけど、人生二周目だからな!


(普通だったらイジメとかで心を病むほどだとしても、俺からすれば子供のじゃれ合いレベルだし……そもそも反撃とかも出来るからなぁ)


 反撃は暴力というわけではなく、単純に言葉でということだ。

 俺も頭に血が昇ることはあるだろうけど、それ以上に我慢が利かないのも彼らである……つまり、口さえ開けばいくらでも丸め込むというか相手の勢いを削ぐことは出来るし、脅しに似た口八丁もお手の物ってやつだ。


(ほら、暴力よりは絶対良いじゃん。言葉の暴力って言い方もあるけど少なくともそっち方面のことは言わないつもりだし)


 死ねとかがその代表例かな。


「お、おっす住良木」

「うん? おぉ、おはよう森本君」


 依然注目を浴び続ける俺の元へ森本君が近付く。

 彼はいつも朝に声を掛けてくれるので、傍に咲夜が居たとしてもそれは変わらないらしい。

 咲夜をチラチラと見ている森本君だけど、咲夜は自分がどんな風に見られているかを知っているので文句なんかを言う気はないらしく、逆にそんなに見てくるなよと笑いながら言った。


「……ごめん神崎……やっぱ怖いのもあるんだけど、それ以上に住良木に言われたからさ。神崎は噂ほど悪い人間じゃないって」

「そんなことを言ったんだ?」

「まあな。俺の知り合いだし、軽くでもそう認識してもらえたらって」

「……ふ~ん」


 咲夜はジッと森本君に目を向ける。

 その際に胸の下で腕を組んだことで、その豊かな胸が大きく揺れたが咲夜は意図したわけではないようだが……森本君は思いっきり見てしまって顔を赤くしている。


「別にあたしは理人以外の誰かに良く思われたりしたいわけじゃない。でも理人の友達なら仲良くするくらいは出来るし、そうしてもらえるならあたしも嬉しいかな」

「そ、そうか……?」

「あぁ――つうか、こんなあたしを見て怖いって良く思えるよね。どっちかって言うと怖いよりエロい女でしょ」

「エロっ!?」


 自分で言うのかよそれを……。

 ニヤニヤと笑う咲夜だが、確かにエロい女というのは間違っていないので、俺としても否定は一切しなかった。

 というより、彼女とのやり取りがどちらかというとエロ方面に特化しているのが大きい。


「す、凄いんだな住良木は……」

「なんで俺が凄いことになるのか話し合おうよ森本君」


 そう言うと森本君は即座に逃げ出した。


 ▼▽


 菜月とのやり取りなども含め、もっと色々なことをされるのではないかと警戒はしていたが何もされなかった。

 それだけ咲夜が俺を庇ってくれたことが大きいらしく、ふと聞いた話では俺にちょっかいを出すと咲夜にボコボコにされてしまうなんて噂も流れており……だからどこでそうなったんだと噂の出所を知りたいもんだ。


「理人~、咲夜ちゃんも!」

「うっす菜月」

「来たか菜月。それで、今日はもうそのまま?」


 とまあこんな風に放課後になった途端、菜月がこちらに合流したので俺たちは三人で下校を開始した。

 案の定昨日と同じように視線を浴びることになったが、菜月も咲夜も周りを一切気にした様子はなく、むしろ若干見せ付けるような仕草さえ二人はしていた。


「ねえねえ、今から少ししたら私たちってどんな風に見られるのかなってワクワクするね」

「ワクワクする……?」

「それは確かに。けど、あたしとしては菜月に負けるわけにはいかないからな。たとえ外でも遠慮しないぞ」

「遠慮……しない?」


 二人の言葉に物騒なモノを感じる。

 菜月と咲夜も俺の両隣に位置しているが、俺を挟むようにしている二人は本当に仲が良い様子を見せている。

 ただ……それでもお互いに張り合う部分はあるらしく、学校から離れるとグッと二人が抱き着いてくるのだ。


「お互い同時だったね?」

「やっぱりあたしたち、お互いにライバルってやつだな?」

「……………」


 左右から感じる圧倒的な膨らみと柔らかさ……このことに俺はドキドキしなかった。

 それは何故かというと、俺自身どうしたいのかをずっと考えていた。

 俺はどういう形で菜月と咲夜を決着を付けたいのか、果たしてどういう選択を取れば纏まるのか……こればっかりは人生二周目というアドバンテージなんて役に立たないほど、俺に何の答えも見出してくれない。


(俺だけが納得するんじゃなく、彼女たちも納得してくれる答えを出さないと……それか、俺だけが嫌な部分を引き受けて彼女たちにそうさせないようにすれば……)


 おそらく、このどちらかになるとは思っている。

 日曜の夕方までだけど、今日から菜月も突然だがうちに泊まるわけだし否が応でも何かあるだろう……まさかこんなことで正念場を迎えそうだとは思いもしなかった。

 俺はもう二人を漫画のキャラクターなんだと思っちゃいない……思ってはいないけれど、菜月のことは読者として何度も読んだからこそ魅力を知っているし、咲夜もこうして知り合ったことで変化のあった彼女をたくさん見てきたから。


「……はぁ」

「ちょっと~、なんでため息吐いてるの?」

「もう少し喜ばせてあげないとダメっぽいか? じゃあ早く家に戻って楽しもうぜ?」


 ため息を吐いた俺を見て二人が顔を寄せた。

 俺はそんな二人に何でもないと首を振り、これは早いうちにどうにかしないとなって改めて思うのだった。

 だってそうしないと……いっそのこと流されてしまえば良い、なんて考えてしまったらその時点で人として終わる気がするし……ねえ?

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