イベント目白押し
「……転勤か」
父さんの転勤に際し、母さんが付いて行く。
このことに関しては先ほど全ての話が終わり、来週の木曜日から向こうへ行くことも聞いた。
突然のことに母さんだけでなく、後から父さんも何度も謝ってきたけど俺としては笑顔で送り出す他ない……というか、別に一人暮らしだからと言って泣き言を口にするような年齢でもないぞ俺は。
『本当に立派になったなぁ理人』
『最初から立派よ理人は……でも、ここ最近は本当にそう思うわ』
ま、人生二周目ですからね!
なんてことを何度も思いつつ、いつまで擦れるネタかなと不安になりつつも、しばらくは擦るんだろうなと苦笑する。
「けど……母さんが言っていたことは少し気になるな」
話の終わり際、母さんがボソッと呟いた言葉。
あの環境から離れられるなら……あの言葉が何を意味するのかちょっと分からないけれど、母さんのことだし突飛な発想ではないだろうから別に気にしなくても良いのか?
「まあ……それ以上に今日は大変だったけれど」
何が大変だったのか、それはもちろん菜月のことだ。
今までに見たことがないほどに妖艶な雰囲気を醸し出しながら、少女ではなく女なんだと思わせる……こう言ってはなんだが、本当にあの菜月はエロかった。
エロ漫画のヒロインなんだしエロくて当然だけれど、それが今まで持っていた感想を全て置き去りにするほどのエロさ……生々しいまでの現実としてそれを感じてしまった。
「……ふぅ」
このふぅは別に意味深なものじゃないぞ? 健全なため息だ。
「……だからなんで一人ツッコミしてんだか」
もう一度ふぅっとため息を吐き、改めて思い返す。
菜月の新たな表情を見れたとはいえ、それは同時に神崎とのことを思い出すのも必然だ。
二人のことを比べるわけじゃないけれど、あの二人とのここ最近の絡みがあまりにも多く、そして濃すぎるせいで菜月と神崎のことばかり意識しなくても考えてしまう。
「菜月は俺を……ということはもしかして、同じようにあんなことをした神崎も俺を……?」
何とも思ってない人間をあそこまで優しく受け止めるか……?
どうでも良い人間に対し、あそこまで柔らかく自らの体をアピールするように近付いてくるか……?
ぶっちゃけ、俺は女性にモテた経験ということがない。
だからこそ俺ってばめっちゃ好かれてるじゃんマジかよって思えないというか……。
「これから先、どうなるか分からないけど……この世界に生きる一人の人間としてしっかり向き合わないと……」
……向き合わないとちょっと菜月が怖いんでね。
いやでも、あんなに仄暗く染まった目をした人間を俺は今まで見たことがない。
完全に光を失った瞳……まるでヤンデレというか、そういうのを感じさせる瞳だった。
「ヤンデレ……ねぇ」
メンヘラはともかくヤンデレって現実に存在するんすかね。
取り敢えずそんなことは頭の片隅に置いておくとして、俺が俺を取り戻してからまだ一週間程度……数ヶ月はあってもいいほどにイベント目白押しだったけど、何度も思うがこれもまた俺が起こした変化なのだろう。
「……ふわぁ」
今日はもう眠たい……明日に備えて眠るとしよう。
自分の部屋、それはどんな場所よりも一番リラックス出来る場所と言っても過言ではない。
自分にとっての敵なんて居ないし、戦国時代でもないので何者かの襲撃があるとも考えていない……そんな俺の考えが、翌日の事件を引き起こすことになろうとはな。
▼▽
男なら誰しも、可愛い彼女が欲しいと思うことは当然だろう。
まあ可愛いだとか綺麗だとか、見た目はともかくとして彼女という存在が人生を彩ってくれるだけでなく、一緒に居るだけで楽しいというもの。
俺はオタクと言えばオタクだったので、数多くのラブコメを知っていたからこそそんな憧れもあって、してほしいことなんかたくさんあったし夢見ていた。
(……なんだ?)
さて、突然だが朝の目覚めだ。
だがまだ頭は完全に覚醒していないし、体はまだまだ寝足りないと俺に訴えかけている。
じゃあ……寝るか?
そう思うのに、何かが体を這っている気がする……え? 虫?
「理人……おねんね中だねぇ♪」
「……………」
「あぁ……凄くエッチかもこの感覚……うふふ♪」
「だあああああああっ!」
「きゃっ!?」
虫じゃない幼馴染だったわ。
俺の体を這っていた何かは菜月の指……ということはつまり、朝っぱらから菜月が部屋へ侵入していたことになる。
すぐに菜月だと気付いたとはいえ、突然のことに驚き声を上げたのはご愛敬だ。
「な、何してんだよ菜月……」
「もう驚いたじゃんか!」
「俺の台詞だ!」
「……それは確かに。ごめんね? 理人の寝顔、見たかったの」
「……………」
ストレートなその言葉に俺も何も言えない……弱いな全く。
(でもまさか……翌日にこんなことまで)
菜月が俺を起こしに来るというのは初めてじゃない。
今までにも何度かあったが、彼女は決して今のようなことはしなかったしエッチだとか口にすることもなかった……どこを見てエッチだと言ったのかは敢えて言及しないけど、流石にキャラ変わりすぎてない?
「なあ菜月」
「なあに?」
「……転生者だったりする?」
「転生……者? 何それ」
ふぅ、どうやら違うらしい。
やっぱりこの菜月の変化は俺によるもの……ってことかぁ。
「まずは挨拶だよな……おはよう菜月」
「おはよう理人」
驚きはしたけど幼馴染に起こしてもらうイベント……悪くない!
うんうんと一人頷いていると、菜月があっと声を出す。
「そういえば聞いたよ。おばさんたち、しばらく家を空けるって」
「あ、聞いたのか。父さんの転勤らしくてさ」
「大変だね。でも理人のことだから胸を張って送り出すんでしょ?」
「……もう全部分かるじゃん」
「分かるよ。でももっと知っていくからそのつもりで居てね?」
ウインクをしながら菜月はそう言う。
両親の転勤の話が菜月の耳にも入ったということで、彼女はここぞとばかりに「困ることあったら言ってね~」とか「私はどうしようかな~」とか色々言ってくる。
それは学校に行っても変わらずで、時折目にする俺たちのやり取りに神崎が首を傾げていたのは言うまでもない。
中身が変化すれば行動も変化する。
それに応じて周りとの関係性もそうだし、関わることの全ても変わっていく……それを俺はずっと感じているし、認めないわけにもいかない。
人助けもその一環だが、俺は聖人ではないのでどんな物事にも介入するかと言われたらもちろんそうではない。
(……ったく、本当に縁があるなぁ神崎ぃ!!)
適当に放課後、一人で歩いていたら神崎の姿を見かけたんだ。
彼女は明らかにイライラした様子で一人の女性と向かい合っていた……その女性は神崎と顔立ちが似ており、直感だが母親だと俺は分かった。
気になってバレないように近付くと、その女性は神崎のことをとにかく酷く言っていた……そのせいで俺は神崎がこの程度でどうにかなるほど弱くはないと分かっていたのに、スッと体を割り込ませていたのだ。
「……住良木?」
「よっ、神崎」
目を丸くする神崎を背に、俺は女性と向かい合う。
突然の登場に女性も神崎同様に目を丸くしていたが、すぐに俺を睨みつけてきた……めっちゃ怖い。
怖すぎて一気に逃げたくなったけど、それは流石に恰好悪いだろうと踏ん張る。
「誰、アンタは」
「彼女のクラスメイトっすよ」
さ~て、どうしようか理人。
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