チャプターⅣ・ラブ・イズ・エンド編

第34話 完成する最強

「どうだ行けそうか?」


「急かさないで、結構神経使うんだから」


 日差しが窓ガラスから差し込む中、俺達はストレックの作業を凝視し独特の緊張に包まれつつ彼女を見守る。

 小難しい機械を用いて融合を行っていく姿は無意識にゴクリと唾を飲んでしまう。

 もう何分経ったのか分からない中、一瞬だけ眩い光が放たれると彼女はしたようにユラユラと尻餅をつく。


「終わった……成功したわ」


「出来たかッ!?」


 指を差した方向にあるエグゼクスへと触れるとそこには確かに魔導書とページが一寸の狂いもなく結合を完了していた。

 乱雑に破られていた箇所は見事に修復されこれまで以上にエグゼクスがエネルギーを取り戻したような感覚が俺の神経を伝う。

 ページには炎魔法らしき詠唱が荘厳さを醸し出しながら明確に刻まれている。


「凄い……こんな完璧にッ!」


「流石は俺が推してるストレックだな」


 類まれな手先の器用からなる彼女の技量に当然のように賞賛の声が上がる。

 額や首筋から零れ落ちる冷や汗のようなものは今ストレックが行った芸当がどれだけ高難易度なものなのかを案じていた。

 少なからず大雑把な俺が同じことをすればものの数秒で何もかもを駄目にするだろう。

 

「サンキューストレック……これで奴を、ユレアをぶっ潰せるッ!」


「馬術部の借りを返しただけよ、礼なんていらないわ」


 はや数日、馬術部二度目の不正行為及び現部長の殺人未遂は学園の大スキャンダルとなり今でも外野は騒がしく喚き立てている。

 ペンティや幹部達が収監されたものあって馬術部はほぼ壊滅状態にあるらしいが今はもう知ったことではない。


「しかし良かったのかストレック? 生徒会権限で馬術部の新部長になれたってのによ」


「そりゃ嬉しいけどもうあそこに戻るつもりはないわ。こっちの方が居心地が良いし」

 

 完全に迷いが吹っ切れた彼女はウインクと共に心からの笑みを浮かべた。

 驚天動地の連続に今も尚余韻が残るがその表情でようやくあの泥沼の頭脳戦は終わったのだと改めて自覚する。


「しかしまさか……こんなにも短時間でエグゼクスを完成させる所か、馬術部まで壊滅させるとは番狂わせにも程がありますね」


「んだよ、呆気なく何も出来ずに処刑されるとでも思ってたか?」


「最初はね、まっもう今となっては私の間違いですので何も言いませんが」


 相変わらずの発言を繰り出すモニカだがいつもと違って何処か嬉しそうにも見える。

 

「しかしこんな早いペースで達成出来たのならにも間に合うんじゃないか?」


「魔導戦か……確か開催は三日後、エグゼクスのお披露目には最高の舞台だな!」


 ユレアとあの夜に約束を交わした魔導戦での決闘、確かにこの時期に完成したのなら開催までには余裕で間に合う。

 

 何よりこのイベントの特徴は実際の成績に

大きく点数が反映されることであろう。

 仮にジャイアントキリングでも起こせば第四階層だろうと一気に階層を飛び級出来るという夢のような可能性を秘めている。

 上位階層からしても生徒会メンツを公的に倒せる機会であってほとんどの階層がこの魔導戦には力を注いでいる。


「まっ……ここ二回はユレアの圧勝による連覇だが、今回はそういかねぇ」

   

 自身の立場を誇示するべく勿論生徒会も参加はするのだが当然のように優勝という頂きを手にしたのはユレア。

 前々回は高熱、前回は骨折と中々魔導戦に出場ならなかった俺だが今回は違う、強さも含めて最高の状態で奴に挑める。


「やってやるよ、その為に命をすり減らしてここまで来たんだ、パンツに向けてッ!」


 そう、全てはパンツ。

 ユレアのパンツを見るためにここまで十年以上の月日を掛けて来た。

 これが俺の青春であり全て、目的の遂行こそが俺の目指すべき未来。

 役者は揃った、舞台は整った、ならば行こうではないか、壮大な復讐戦へとッ!


「残念ながら……それは厳しいかと」


 と、俺の昂る心を鎮火させる冷徹な声色が静寂の図書館へ鳴り響く。

 水を差されたことに「あっ?」と振り向いた先にいたのはユレアであった。 

 馴染みの顔とはいえ、仮にも生徒会長であり最強である彼女の突然の登場には全員が思わず驚きを露わにしてしまう。

 

「ユレアッ!? お前何でここに」


「そうではありません、勝負は何事にも絶対という言葉は添えられない。故に貴方の強さに苦言を呈する資格はありませんから」

 

「なら何だってんだよ」


「少し、皆様を借りても良いでしょうか?」


 ユレアはそう告げると俺の腕を強引に掴み、そのまま引きずるように図書館から連れ出していく。

 突然の出来事だがパワーも化け物な彼女に抵抗なんて出来ず俺は為す術なく身を委ね仲間も慌てて後を追う。

 

「ちょ何だよ!?」


 強引に連れられた地は生徒会室であった。

 彼女だけでなく全幹部が集結し、一目で異常だということは理解出来る。

 やっと開放されシワを直す俺へとユレアは一方的に言葉を紡いでいく。

 彼女の視線はホルスターに収納する完成されたエグゼクスへと向けられていた。


「んだよ……生徒会長様直々に連れてきてしかも幹部まで大集結、エグゼクスが完成した記念のパーティでも開くのか?」


「はぁ? んな理由ないでしょうがこのド変態クソパンツ「スズカ」」


「今は口論の時間ではありません」


 相変わらず俺の言葉に食って掛かるスズカをかなり真面目な口調でユレアは嗜める。

 常に余裕的な様子を見せる彼女が何時にも無く深刻な雰囲気に俺もこれ以上の軽口は叩けなかった。


「単刀直入に言いましょう、我が校の伝統として開催が続いていた魔導戦、今年はにしようと生徒会は考えています」


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