第26話 パンツを揺るがす爆乳の誘惑
「ぐえっ!?」
何が何だか分からず引きづられに引きづられ謎の部屋に辿り着いた俺は屈強な男によってソファーへとぶん投げられる。
ボフッと心地の良い音が鳴り響き思わず辺りを見回した俺の視界には綺羅びやかさを表したような景色が広がっていた。
「何だここ……生意気にも生徒会室より立派じゃねぇか」
豪華絢爛な装飾に机もソファーもシャンデリアも全て上質な物で作られているであろうまさに上流階級の空間。
向かいに見えるショーケースには数え切れない程のメダルやトロフィーが権力を誇示するかのように展示されていた。
「手荒な真似申し訳ごさいませんレッド様、しかしこうでもしなければならなかった事情があるのはご理解戴きたい所ですわ」
と、圧倒されている俺の背後からはこの状況を生み出した張本人であるあの赤髪のお嬢様が相変わらずの微笑みを向ける。
筋肉質な男達に知的な男、上品そうな女にスポーツマンチックな女、余り共通点のなさそうな多数の取り巻きを引き連れ彼女は向かいのソファーへと優雅に腰掛けた。
「どういう神経してんだ……いきなり俺を拉致ってこんな空間に放り込んで」
「素晴らしい空間でしょう? ご感想は?」
「あぁめっちゃ立派……ってそこは問題じゃねぇんだよッ!? 誰だアンタ? 俺では不釣り合いなお嬢様の方から一体何の用だ?」
「失礼、まだ名を告げてませんでしたわね。しかし私の実態を知れば貴方はきっと逃げてしまうかと思いましたから」
「はい?」
優雅に立ち上がると同時に慣れた動きからなる膝折礼を繰り出したお嬢様はようやく自らの名と立場を俺へと明かした。
「ご機嫌麗しゅう、カリドゥース魔法高等学院三年、ペンティ・トライペルト」
「パンティ・トライペルト?」
「ペンティですッ! 二度とお間違えのなきよう……この学園で名を馳せる第一階層でありアルマリア馬術部の総合部長ですわ」
待て、今こいつ何て言った?
アルマリア馬術部……最も影響力を持つ部活動であり反ユレア派の巨大勢力。
その総合部長ってことは結合機の所有権を持つ馬術部のトップってことだよな。
えっ俺そんな人の名前をパンティとかいうクソみたいな聞き間違いしたのか?
「反ユレア派のトップ……だと」
急速に神経を駆け巡る緊張感。
鳥肌は立ち、気を付けろと全細胞が俺の思考へと警告を行っている。
聖人君子にも見えた朗らかな笑顔も今は不気味でしかない。
一体何をする……まさかこの場でユレアと幼馴染の俺をボコボコにでもするのか。
「あぁそんなに強張らないで。別に貴方の腕や足をもぎ取るなんてリンチをする為にここへ連れてきた訳ではありませんから」
「……笑えねぇ冗談だな」
「あら申し訳ありません、冗談を言うのは余り慣れていない身でありまして」
「なら俺を何でここに連れてきた。最強を目の敵にする反ユレア派の人間がよ」
美少女だろうと大きなおっぱいだろうとそいつが危険なら俺は靡くことはない。
そもそも俺は小さい胸が好きでありユレアが眉を顰めるほどに敵対しているとなれば警戒するのは当然のことだ。
「その前にまずは私達が築き上げた栄光について少し語らせてもらいましょう」
栄光__。
彼女が持つ絶対的な繁栄__。
「アルマリア馬術部、国内外にて多大なる頂点を獲得し我が物してきた名門。私はその部長でありエース、実力も権力も美しさも金も全て私は物にしている」
「ハッ、その自慢言葉に一切の誇張がないってのはユレア以来だな」
「格闘部、アーチェリー部、修復委員会、数多の部活や委員会は私が支配を行う馬術部への傘下を表明している。私の周りにいる者は全てその傘下の有力者達です」
「こいつら別の部活の奴らなのか?」
「勿論、貴方を持ち出した屈強な男は格闘部部長のバリウス・ハリウス。その隣にいる小柄な美少女はアーチェリー部部長のダウト・エスタリア、全て私の従者達ですわ」
取り巻きに共通点が全くなかったのはそういうことなのか。
ペンティの紹介に間髪入れず側近の二人は礼儀正しく深々と俺へ頭を下げていく。
自ら進んで傘下にいるのか、それともただ逆らえないだけか……真意は読めない。
「これで分かるでしょう。つまり……私は偉大ということであります」
「へぇそいつは凄い、流石はエリート集団のリーダーだな」
拍手と共に送るお姫様への賛辞。
内心では何故こいつの自慢話に突き合わされているのかと段々湧き出る不満をどうにか顔に出さぬよう必死に堪えている。
と、居心地の悪さを覚え始める中、視線を一瞬だけ反らしたその隙にペンティは隙間を空けず俺の隣へと腰掛ける。
「へっ?」
突然の急接近__。
鼻腔を刺激する甘美な香り__。
情欲を掻き立てる優れた肉体も相まって不意打ちの迫りに俺はゴクリと唾を飲む。
身体に熱が走る中、更に追い打ちを掛けるようにペンティは艷やかな吐息を繰り出す。
「だからこそ、私は貴方をこちらの物にしたいと考えているのです。貴方が持つ最強の魔導書と共に……ね」
男というのは何故こうも愚かなのか。
明らかな愛のない誘惑だというのにときめく自分が何処かにいてしまっている。
異常なボディタッチと共にペンティはホルダーへと仕舞われているエグゼクスと俺の顔を交互に妖艶な視線を動かす。
「レッド様、何故貴方はあの冷酷無慈悲な女に執着をしているのでしょうか?」
「はっ?」
「貴方に辱めを与えて嘲笑し自らの力を誇示する……実に、実に非情だこと。しかし私はそのような事は致しませんわ。階層での差別も一切行わないません」
丁寧にマニキュアされた細長い色白の手で俺の手を支配するように被せていく。
「貴方が望む物はこちらが持つ結合機、そうでしょう? お望みなら喜んで提供を行いますわ。対価として少しばかり私に貴方様が持つ神のお恵みをご享受くだされば」
「俺の……最強の力を利用してユレアを潰すって魂胆か?」
「利用ではなくそちらを優位にした共有という体制ですわ。世は常に栄枯盛衰、何時までも栄える者など存在しない。この学園にあのタブーな存在は不要なのです。新たな勝者は……我々アルマリア馬術部が相応しい」
「何故そこまでユレアを目の敵にする?」
「私の顔に泥を塗ったからです。あれほど高貴たる私の尊厳を踏み躙った者はいない。立場を捨てるのなら……貴方様のようにパンツを晒して辱めを受けさせたいですわ」
穏やかながら完全なる殺意が込められたワントーン下がっている声色。
どうやら俺にも負けないくらいユレアへの私怨を抱いているようで。
「ねぇレッド様、お互いに恨みを抱き同じ傷を刻まれた者同士、互いに手を組みあの女を踏み躙りませんか? 貴方の復讐劇を完遂する為にも後ろ盾がある方が心強いでしょう」
今日が初対面ではあるが確かにこいつと俺は似たような性質を感じるのは事実だ。
最強に憎み、恨み、妬み、復讐を果たしたいと思うインモラルな野心。
「共に……我がアルマリア馬術部と学園の未来とパンツを掴みませんか? 貴方達を含めより皆が幸せになるために」
共感はしている。
立場はまるで違えど反ユレア派を高らかに公言するって程にはあいつの存在を良くは思っておらず仲間を作ろうとしている。
こんな美女からの誘惑……世の男からすれば誰もが抱く妄想であり断るという運命などあってはならない。
結合機も手に入ってデメリットなど一つもないように都合の良い最高の展開。
「断る」
だが今回だけは例外だ。
女性的な魅力に飲み込まれるよりも前に誰でも分かる声で拒絶の声を口にする。
「えっ?」
不敵さを常に醸し出していた表情は崩れ目をまん丸くしながら彼女は俺を凝視する。
考えられない、こんなのあり得ないと言葉が聞こえる程には分かりやすかった。
「そりゃアンタと俺は似てるし互いにユレアを恨んでんのも同じだ。だがアンタの物になりたいとも思わない」
重ねられていた手を振り解きゆっくりと上質なソファーから身を上げる。
本能的な情欲を脳裏から消滅させ理性だけを残した状態で言葉を紡いでいく。
「怪しさ満点なんだよ。慈愛があるように見えて自分以外はゴミのように思っている瞳、どうせ結合機なんて渡さずに俺から無理矢理エグゼクスの全権を掌握してユレアも潰すって魂胆だろ?」
「何を言って……私があのユレアのように卑劣極まりないことをするとでも」
「あいつはクソ女だが誠実だ。アンタに比べりゃよっぽど裏表がないし俺のことを理解している」
人の悪意や醜さを昔からずっと身を持って体感してきたからこそ分かる。
こいつの内に潜む黒い物は俺を人間と思わず力を理不尽に向けてきた奴らと同じだ。
猫を被っているからこそ余計にタチが悪いが根のヤバさを隠しきれてない。
断言しよう、こいつはベイルなんかの下らない小悪党よりもよっぽどイかれてる。
「アンタの提案は断らせてもらう。どの道アンタに大人しくなるのはロクなことにならないだろうからな。失礼する」
結合機の獲得はまた後で考え直す。
周りの威圧と雰囲気に流されぬようキッパリした言葉でその場を立ち去ろうとした。
「クソ猿が」
と、扉の取っ手へと手を掛けようとした俺の鼓膜に聞こえたのはドスの効いた声色。
女性とは思えない低音の言葉に思わず鳥肌が立った俺へは前触れのない衝撃が襲う。
何事かと振り返る暇もなくペンティの側にいた格闘部部長のバリウスは俺の両腕を掴み強制的に地面へと跪かせる。
「ッ……!」
「はぁ〜バカな雄猿、大人しく男として私の誘惑に従順であるなら苦しませずに力を奪ってあげたのに。これだから第四階層は愚かなのね。堕ちたあの女と同じように愚かだわ」
俺の本能は間違いじゃなかった。
仮面が剥がれた彼女は人が変わったような悪魔の形相で見下ろし殺意を向ける。
こちらを人間ではなく下等な虫にしか捉えていない邪悪さを具現化した瞳。
「やっぱり……俺からエグゼクスを強引に奪って自分の物にするつもりだったのか。反ユレア派ってのはヤバイ奴しかいないのか?」
「手と足、目と耳」
「えっ?」
「一番何処がお好きですか?」
「め……目?」
「なるほど、ならば大切なものから潰すとしましょうか」
「なっ!?」
ロングスカートの内側に隠されていたブックホルスターから取り出されたのは薔薇色のを纏う上等な魔導書。
綺麗な薔薇には棘があると彼女を皮肉ったような魔導書からは眩い光が解き放たれる。
「処世術のいろはも知らぬ哀れな奴が、大人しく君主ペンティに従っておけば痛みを伴わなかったものを……ゴミがッ!」
「アッハハハハハハハハハッ! 噂には聞いてたけどやっぱり傑作の馬鹿ッ! 馬鹿らしく脳死でいれば良かったのに〜ね?」
魔導書へと手を掛けられず完全なる無力と化した俺へとバリウスやダウトは好き放題に嘲笑い罵倒の槍を刺し込んでいく。
無理矢理従わされているのかと思ったが態度を見るにそうではないらしく二人もユレアを相当嫌っているようだ。
「ハハッ……スズカも馬術部の連中共は黒い噂があるって話だったがお前らのイかれっぷりを見るに間違いじゃなさそうだな」
「イカれた猿から罵られる筋合いはない」
「本気で俺の目を潰す気か? 俺に手を掛ければエグゼクスが許さな「はぁ?」」
「そんな見え透いた三流の嘘に従うとでも? あの生徒会のように大衆の生命を恐れて貴方の嘘を信じた弱者と私が同じと?」
「……それで本当にエグゼクスが暴れでもして責任取れんのかよ」
「顔も知らぬ生命など尊重する義務はない。寧ろ観衆にはより大勢死んでもらった方が失態としてユレアを失脚させやすくなる」
チッ、こいつも嘘だって気づいてたのか。
ベイルといいこの女といい、何でこうも危険極まりない奴は勘が鋭いんだよ……!
俺はどうしよもうないクズと自負していたがどんな事にも上には上がいるようだ。
「お前、それでも人間か?」
「いいえ、私は女神です。どれだけの蛮行だろうと勝ってしまえば美談となる。愛しきエグゼクスの力と共に私が作り出す新世界では全てが許されるッ!」
「……正気か」
「正気を語る資格が貴方にあるとでも?」
やっぱりこいつと俺は似ている。
自分が誠実の欠片もない行動をしていると理解した上で成し遂げようとする覚悟。
こういう奴は俺を含めて強い、理性っていうトリガーがぶっ壊れてんだからな。
「やれよイカレ女、この部屋が汚ねぇ血で汚れてもいいってんならよ」
「これから目を潰される猿が吐き捨てるセリフではないわね。何時までその威勢が持ち私に命乞いをしないのか」
「たかが目を潰されるくらいで折れるような復讐心なんて、俺は復讐と呼ばねぇよ」
「あっそ。なら潔く血に濡れなさい」
魔法陣を纏った右手は徐々にゆっくりだが確実に俺の右目へと迫りくる。
元から常識の道から外れてる人間だ、いずれはこうなる事も理解していた。
せめて右手だけは残して欲しいな、魔導書を握れなきゃ力も使えない。
さぁ来いよクソ女。
お前の下劣さ全て抱きしめてやる。
痛みに悶えて苦しむ姿を見たい性癖なら相手を間違えたな。
支配しようと笑みを浮かべる彼女へと歯向かうように歯を見せる笑いを俺はぶつけた。
「何してんすか……アンタら」
寸前、本当に……本当に寸前。
あと数ミリで俺の右目が秀麗なる手に握り潰されようとした寸前。
この場の空気を全て吹き飛ばす声色が鳴り響き扉の方向へと全員が一斉に振り向く。
「モニカ?」
これまでにない怒りの形相を表へと露わにしている彼女は迷わずに魔導書を開く。
知的さと眼鏡を纏ったアンニュイな外見に隠れた凶暴性を爆発させたモニカは抑えきれぬ激情を口から盛大にぶち撒けた。
「何してんだよお前らァァァッ!」
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