チャプターⅡ・争奪ゲーム編

第13話 学園裁判・窮地

 ただパンツが見たいだけ。

 それさえ叶うことが出来れば他の願いなんて望んでもいなかった。

 権力もお金も愛情も平和も、俺にとっては特に拘る必要のない要素。  

 パンツ、復讐を行う為に憎きユレアのパンツを見ることだけ……なのにだ。


「これより第四階層レッド・アリスへの違法魔導書所持の容疑による学園裁判を行う!」


 俺は大半の生徒が軽蔑の視線を向けられる中、被告人として証言台に立たされていた。

 重大な事件や事態を起こした容疑を掛けられた生徒に対して生徒会主動で行われ、実刑の効力を持つ学園裁判。

 滅多に使われる場所ではなく散々パンツと喚いていた俺が裁判に掛けられていなかった事実がこの裁判の被告人になるのがどれほど深刻な事かを裏付けている。


「どうして……どうしてこうなった」


 風紀委員会からの拘束後、エグゼクスの魔導書は回収されマッズ達にも同様の容疑が掛けられているとのこと。

 仰々しく装飾された赤と金の眩い法廷の裁判官席には風紀委員会や生徒会の面々が連ね傍聴席には多数の生徒が行く末を見守る。

 中心部に存在する裁判長席に着席している奴はと言うと


「ユレア……!」

 

 相変わらずの秀麗で艶のある銀髪に美しさの限界点を突き破るような顔立ち。

 銀細工を彷彿させるほどに透き通った銀色の瞳に整った鼻筋に可憐さと可愛さを兼ね備えた唇。

 この学園を支配するユレアは女神と見紛う程に美しい出で立ちで悠然と俺を見下ろしながら裁判長席に腰掛けていた。

 舐めた視線向けやがって……見下ろされることはもう慣れてはいるが。


「学園裁判は弁護人と検察側を設置し揺るぎのない証拠と証言による裏付けを下に公平なジャッジを行う」


 ユレアの右腕とも言える副会長バースは進行役としてよく響く声で学園裁判の特殊なシステムを今一度明かしていく。

 検察側の席にはユレア狂信者のスズカと謎多き性別不明のアイナ二人を中心に複数の役員が出揃っている。

 対する弁護側の席は……生徒会の役員が一人だけいるがどうもやる気を感じずやらされて渋々座っています感が凄まじい。


「ねぇあいつ何したの?」


「お前も感じただろ? あの身を震え上がらせるような魔力、どうやらあいつがその原因とも言える魔導書を持ってるらしいぜ」


「マジで!? 何で第四階層の人間が……」


「なんか市民も魔力を感じ取って国中が軽いパニックになってるって話らしいわよ?」


「パンツの次はこれってもう救いようがないにも程があるわね」


「アッハハハッ! 頑張れよ変態王子!」


「死ねやパンツ野郎ッ!」


 傍聴席から飛び交う言葉は様々。

 疑念の声、軽蔑の声、面白おかしく囃し立てる声、シンプルに死ねという声。

 会話に耳を立てるにやはりエグゼクスから放たれた魔力をこの学園の者どころか国までもが感じ取っていたらしい。


「静粛に。レッド・アリス、貴様に掛けられている容疑は魔導書関連の重大な違法についてだ。詳しくは検察側から説明が行われる」


 厳かかなバースの手元にはエグゼクスが握られながら絶対不利の尋問は始まる。

 クソッタレ……これもゲームが面白くなったと笑ってんだろ、そうだろヴェリウス?


「被告人は政府及び学園が認可していない種類の製造不明の魔導書を所持しています。これは重大な違法であり魔力の高さを鑑みればも妥当だと考えます」 

 

 予めのモニカの説明通り、検察代表のスズカは「この判定が絶対」と言わんばかりの力強い言葉で死刑を言及する。  

 

「待て待てズスカ! 幾ら何でも死刑ってのはおかしいだろうがッ!?」


「治安維持の観点から製造元が確認できない魔導書の不法所持は重大な罪。ましてやあの魔力を加味すると……どう転んでも死刑が絶ッ対ですッ! 第四階層のクソ変態」


「んだとゴラッ!?」


「まっユレア様を汚すパンツ怪人がいなくなって清々するわ。地獄にさよ〜なら〜」


「グッ……!?」


「余計な口は慎めスズカ、弁護人なにか意見はあるか?」


 不味い……死刑ってマジでヤバくないか?

 いやでも待て、明らかにやる気のなさそうな弁護人だが一応は俺の味方の立場、何かしらは有利に向かうような発言を!


「弁護側からは特にありません」


「ないのかよ!? お前弁護人ならせめて何か言えよボケがッ!」


「何かは言いましたよ?」


「屁理屈こいてんじゃねぇよ!?」


 さっき抱いた淡い希望は撤回する。

 こいつ、裁判の体裁を守るだけで俺を無罪にしようとする気概がゼロじゃねぇかッ! 

 チッ……こうなったら自分自身だけでどうにかするしかないのか、死刑は御免だ。  

 噂じゃこの裁判に掛けられた被告人はほぼ確実に有罪になるとも言われてはいるが。

  

「……最初に言っておくが俺は無実だ。その魔導書だって俺が欲しくて手に入れた訳じゃない。ちょっと前に無理矢理契約させられて俺専用として持つことになったんだよ!」


 絶対的に不利だがこのまま諦めて大人しく罰を食らうつもりは毛頭ない。

 俺は嘘をついていない、実際あの魔導書はヴェリウスからの世界滅亡という脅しで半ば無理矢理に契約させられた代物。

 人類の破滅を回避したってのにパンツを見る前に人類に殺されるとか最悪すぎるだろ。


「異議あり、一体誰に? ついさっき魔導書を渡されたとでも言うのですか? しかもマナがクソ雑魚な貴方へと?」


「流石に無理がある話……かな。粗を探せば幾らでも出てくる。第四階層の君に魔導書を渡す必要性がない。君に契約を迫った人物は誰だと言うんだい? そもそも契約とは?」


 即座に検察側のスズカとアイナは俺の無罪主張をバッサリ嘘だと切り捨てていく。

 確かに二人の立場からすれば「こいつは何を言っているんだ」と思われても仕方のないことかもしれない。

 だが今発言した内容は誇張のない事実なのだが俺を擁護してくれる奴はおらず弁護側も反論する素振りを見せない。


「無理も粗もクソもねぇ! これは全部本当の話だッ! 人間じゃない、そこにある魔導書と俺は契約したんだ、名はエグゼクス、一度は耳にしたことがある名前のはずだ」


「「「「はっ?」」」」


「……俺はな、ヴェリウスが作り出した神の玩具に選ばれたんだよ。世界の破滅を脅しに神のゲームに参加されられた哀れなパンツの人間ってことなんだよッ!」


 この場面、勢いを抑えた方が負けだ。

 マッズ達に話した通り俺はエグゼクスとの全ての経緯を熱を込めて明かしていく。

 世界滅亡を守る為の契約、エグゼクスという存在の真実、神の理不尽なゲームに巻き込まれたこと、嘘っぱちなく話したが周りから聞こえて来たのは軽蔑を示す爆笑。

 

「アッハハハハッ! あの変態王子ついに頭まで可笑しくなっちまった!」 


「何が世界滅亡よ、馬鹿みたいな話を」


「おーい、もっとマシな嘘をついた方がいいと思うぜギャハハハハハッ!」


「神のゲームってガキンチョでもまだ洒落たこと言うぜ?」


 周りからのブーイングは加速し生徒会もスズカやアイナは愚か、鉄仮面のバースでさえ頭を抱える仕草を見せた。

 予想はしていたがやはりあの貯蔵庫を目にしていない第三者達は俺の話を信じないどころか軽蔑の感情を露わにしている。

 傍から見たら世界滅亡だとか恥ずかしい事言っている痛い奴にしか思われないだろう。


「被告の言い分は以上か? ならば弁明の余地がないとして判決を下すとしよう」


「ちょおい待て! もう少しは俺の話を聞きやがれってんだッ!」


「時間稼ぎでもしているのか? ここから貴様が場を覆すとは考えられないのだが」


「まずは聞けって言ってんだよ、顔だけでなく頭も固い野郎がッ! お前の脳みそは岩石で出来てんのか、このクソ眼鏡ッ!」


「ッ……そこまで言うのなら聞かせてもらおうではないか。覆せない場合、侮辱罪も追加されることになるが」


 バースは俺の逆ギレに不快な表情を見せた後、仕方がないと言った様子でようやく話を聞く姿勢を取ってくれる。

 とは言っても……プランはない、奴が言っている事は間違いではなく俺が抗っているのは有罪にさせない為の時間稼ぎだ。

 どうする、何を言えばいい、何をすればこの危険な状況を覆せる?

 あの魔導書を奪い返して更には死刑を回避しなければパンツへの道は開かれない。

 考えろ、まだ詰んではいない、俺が出来ることを探し出せ。


「ッ……!」


 一度でも間違えれば人生終了の極限化。

 緊張の糸を張り巡らせながら必死に脳を巡らせていた俺の思考に閃光が走る。  

 そうだ、何も真実を伝えるだけで無実を潔白しようとしなくていい。

 いつもの俺らしく……狡猾に、使える手段は使っていいんだ、それが嘘だとしても。


「ハッ……ハハッ、アッハハハッ!」


 突然の爆笑__。

 前触れのない俺の高笑いに場の空気が凍り付いたように静まり返った。

 遂に壊れたかと視線が集中する中、俺の表情には余裕が満ちており周りの不安の膨張を生み出していく。


「何に対しての笑いだ、レッド・アリス」


「なぁバースさんよ、本当にこのまま俺を有罪にしていいのか? いやその魔導書を近くに置いといて大丈夫なのか?」

 

「何だと?」


「それ……するぞ」

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