第17話 一番星は何処に眠る?
「では、第一回エグゼクス捜索会議をこれから始める」
小鳥のさえずりが聞こえる朝。
エグゼクス捜索を理由に通常授業が免除された俺達は大図書館にて集結していた。
ユレアとの予期せぬ密会から一夜、大きく変化した学園生活で未来と復讐を賭けた学園との戦いが始まる。
……と意気込んではいたのだが。
「で……何処探せばいい?」
開始早々詰んだような空気が流れていた。
冷静に考えれば存在しないとまで言われる程に情報がなかったエグゼクスのページを学生身分の俺達が探すなんて無謀だ。
エグゼクス本人からも神の意向で明確なヒントは全く与えられていないのが現状。
「マッズ、何かあるか!」
「分かるほどに優れた知識があれば良かったんだがな。俺は脳まで筋肉なんだよ」
「……ストレック、何かあるか!」
「私の屋敷でこっそり色々と古書を漁ったけど……どうも有効的な手掛かりはないわね。貴族でも知らない領域ってこと」
「はい、もう詰んでるなァッ!?」
嘘だろと思うほどに情報がない。
日が昇る前から手当たり次第、それらしき本を大図書館で読み漁ったが全く有効的なヒントを得られる事はない。
何やかんやでゴリ押せば見つかると考えていたが完全に浅はかで希望的観測だった。
「畜生め……何て面倒なことしてくれたんだ前の選ばれし者はよ」
別にそいつを否定するつもりはない。
神のゲームなんてものを放棄したくて色々と試行錯誤する気持ちも分かる。
だがそれによってより鬼畜な難易度になってる事実は憤りたくもなるだろ。
机に置かれているエグゼクスの根本しかない破られた純白色のページを見つめながら頭を抱える。
「バイトも全部止めてこれに本腰入れるつもりなのによ……こうなったら借金して他国に行きまくるのも覚悟の上か?」
こうなると他国に出向いて情報集めをしなくてはならない可能性も浮上してくる。
学費稼ぎでのバイトの貯蓄はあるものの、なけなしであり旅となるならかなりの借金するのも覚悟の上となるな。
ストレックに甘えてもいいが彼女にいらぬ負担を掛けさせる訳にもいかない。
「その必要は……はぁ……はぁ……ありませんよ、多分ね」
と、壮大な旅路に覚悟を決め始めた俺の前に凛とした声が投げかけられる。
声色が奏でられた大図書館の入口へと目を向けると朝っぱらから息を切らしたモニカが仁王立ちで勇ましく佇んでいた。
彼女の足元後方には見たこともない複雑さを極めた機械のような代物が鎮座している。
「モニカ? どうしたんだ息切らして」
「試したいことがあります。一か八かではありますが……ふんっ! こいつ何でこんな重いのよ!? はぁ……はっ……ちょ誰か持ってくれませんか?」
今にも体力が切れそうなモニカを救出すべく俺とマッズで謎の機械を持ち上げ付近の机へと設置する。
そこまでかと考えていたが手に取った瞬間ズシリとかなりの重量感が神経を伝わる。
よく見ると彼女が辿って来たであろう廊下には引き摺って来たような深い跡があった。
「ッ! モニカちゃんこれって」
「流石は華麗なるストレック先輩、もうお気づきになりましたか」
未知の代物に俺とマッズは顔を見合わせるがストレックは一目でそれが何なのか分かるような素振りを見せる。
長方形のフォルムをした機械には方向指示器とよく分からないモニターや数え切れないボタンなどが付いている。
「それは何だ、自爆装置の類か?」
「んな訳ないでしょうが、バカなんですかケツに魔導書ぶち込みますよ」
「前より辛辣になってない?」
後輩からの愛情ないツッコミに泣きそうになる俺を他所にモニカは息を整えながら説明を始める。
「ワールトゥス魔力探知機旧式型。魔導書の紛失、または部分的損失の際に闇市への流出を防ぐことを目的とされた探知機です。ミレニオン粒子という特殊粒子を魔導書及びページ放たれる個々の潜在的な魔力と原子レベルの共鳴を起こすことによる物理演算から推定二百キロまでの探査を可能としてます。新型は借りれなかったので旧式を資料室から無理矢理引っ張ってきましたが」
「あぁ……うん……勿論俺は今ので理解できたんだがもっと子供とかに分かりやすく説明してみたらどうなる?」
「つまりは百キロメートルの範囲なら破られたページも探し出せる凄い機械です」
「おぉ小さなお子様方にも伝わるなッ!」
「……素直に分かんなかったって言ったらどうですか」
「うるせぇなッ!?」
俺のアホなやり取りにモニカはため息を溢し冷ややかな視線を送ると探知機を起動させるべく華奢な手を動かし始める。
「まっこれがあればエグゼクスのヒントも得られるかもしれんって訳です。ただ旧式は色々と操作が難しく……えっとこのケーブルをこの穴に挿せば」
バスンッ__。
「はったぁ!?」
何かが吹き飛んだ音と共に油断していた俺のオデコには小さなネジがクリーンヒット。
「あっ……すみません」
鈍い音を立てて床に転がり悶絶する俺とは対照的にモニカは申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。
「ハッ、これくらいの痛みどうってこと」
嘘です滅茶苦茶痛いです。
結構な勢いでぶっ飛ばされたせいで尋常じゃない痛みが駆け巡る。
「あれ〜確かコレで正しかった気がしたんですが……こっちでしたかね? クソッ機械の癖にインテリぶりやがってッ!」
意外にもこういう機械系には弱いらしくモニカは起動の段階で苦戦を強いられていた。
攻略法が見えない状況に段々と焦りの色が見え始める中、意外な人物が彼女への助け舟を優雅に出す。
「モニカちゃん、ちょっといい?」
焦燥に満たされるモニカの肩を優しく触るとストレックは慣れた手付きで探知機の接続を行っていく。
誰が見てもドン引きしてしまう程に複雑な造形をした機械だがものの数分で彼女は探知機を起動させてしまった。
二本線からなるメーターと共に緑を基調としたモニターにはこの学園を中心とした巨大な地図が表示される。
「す、凄い起動しましたよッ!?」
「こんな意図も簡単に……旧式って扱える奴あまりいない気がしたが」
全員が向ける仰天の目にストレックは少しばかり恥ずかしそうな顔を浮かべた。
「お父様が収集家でね。小さい頃に部屋に侵入してはこういう探知機とか古いのを良く弄っては怒られてたのよ。クソガキな若気の至りがここで役に立つとは分からないものね」
「家にあったって……これ一般市民の年収二年分くらいの値段はしますよ」
「お前の家、逆に何なら持ってないんだよ」
流石はお嬢様と言ったところか。
モニカが言う価値の高さを考えるに上流階級かその道の専門家以外はまともに取り扱えない代物なのだろう。
「さっ……お家のことはもういいだろ、それより今はこれに望みを掛けるしかない」
半ば強引にマッズが話を切り上げると同時にストレックは探知機へと視線を向ける。
「レッド、そこに窪みがあるでしょう? エグゼクスを嵌めて頂戴」
「そういうシステムか、分かりやすい」
指示通りモニター横の窪みへとエグゼクスを嵌め込むと不気味な効果音を奏でた。
ストレックは無数にある機器を右往左往と視線を移動させながら素早く操作を行う。
僅かな静寂が過ぎると共に機械は一定のリズムを刻み始めていく。
「設定は完了、百キロ以内にエグゼクスに酷似するであろう魔力があれば青いかなり小さな点滅で表示されるわ」
「されなかったら?」
「……長旅は覚悟の上ね」
「はぁ……借金抱えて旅行か」
百という数字でも気が遠くなるがそれでも該当がなければもう腹括るしかねぇ。
上等だ、旅になるなら一秒一秒を全力全開で楽しんでやるよ。
「幸運の女神が私達に微笑んでくれてる事を願いましょう。行くわよッ!」
全員が迫りくる結果に息を呑む。
一息ついた後にストレックが入力を行うと探知機が回転しながら光を発し、モニター上へと結果が出力されていく。
これにより俺達の未来は大きく変わる、額から零れ落ちる汗を拭き取る事もせず機械が導く運命を凝視した。
「……ん?」
青い点滅。
現在地を中心にして右上方のスペースには確かに青い点滅が表示されていた。
つまりは百キロ以内にエグゼクスに該当するであろうページが存在すると表している俺達にとってはこの上ない結果。
そう、長旅をする必要がなくなったという最高の展開なのだが素直に喜べなかった。
確かに表示はされている。
百キロ以内に存在するというのも確かな事実と言っていいのだろう。
だが……デカい、青い点滅が示すエリアは余りにも大きく抽象的だったのだ。
「なんか……大きくね?」
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