サンタクロース

@d-van69

サンタクロース

 ある寒い冬の夜、夕食の席についた少年はお父さんとお母さんに尋ねます。

「本当にサンタクロースっているの?」

「もちろん、いるに決まっているじゃないか。」

 迷わず答えたお父さんに続き、お母さんが心配げ眼差しを少年に向けました。

「どうしたの?いきなりそんなこと訊いて」

「友達が言ったんだよ。サンタなんかいないって。お父さんの変装だって」

 お母さんはお父さんと顔を見合わせ、プッと吹き出しました。

「そんなことあるもんですか。毎年サンタは来ていたでしょ?だから今年もきっと来るわよ」

 二人の笑顔を見て安心したものの、夜中にトイレに起きた少年は、両親の部屋の前で偶然こんな会話を聞いてしまったのです。

「あなた、今年の衣装、このクロゼットにしまっておきますからね」

「ああ、わかった。今年もがんばらなきゃな」

「そうですよ。あの子も楽しみにしているんですから」

 衣装だって?僕が楽しみにしている?なんだろ。って、もしかして……。

話の続きを聞きたくて、少年はドアのそばでじっと聞き耳を立てていたのですが、二人の会話はもうぜんぜん別の話題へと移ってしまいました。

 少年はあきらめて自分のベッドに戻りました。しかし、朝までぜんぜん眠れませんでした。



 次の日。

 少年はお父さんが仕事に行ったのを見届けると、お母さんが洗い物をしている隙に、二人の寝室にそっと忍び込みました。クロゼットの中を確かめるために。

 少年が順に引き出しを開けていくと、その一番上の段に真っ赤な衣装が収められていました。白いふわふわのついた帽子に黒い大きなベルト。

 それは間違いなくサンタクロースの衣装でした。

 少年は見てはいけないものを見てしまったと思い、そっと引き出しを閉じました。そして自分の部屋に戻りベッドに飛び込みました。

 ひとつの考えが少年の頭の中をぐるぐる回ります。

 サンタクロースは、お父さんの変装だった……。

 サンタクロースは、本当はいないんだ……。



 それからと言うもの毎日重苦しい気分でした。

「サンタクロースの正体はお父さんなんだろ!」

 そう言ってやりたかったのですが、それを言ってしまえばお父さんとお母さんの気持ちを踏みにじってしまうようで、とても言えませんでした。



 そして12月24日。

 家族3人でささやかなクリスマスパーティーを開きました。お父さんが飾り付けた大きなクリスマスツリー。お母さん手作りの素敵な料理とクリスマスケーキ。

いつもなら楽しいこの光景も、今日は色あせて見えます。

 でも、少年は精一杯楽しいように振舞いました。

 そんな彼の気持ちには気づかずに、お父さんとお母さんは心から楽しんでいるようでした。

 むりやり笑顔を作ることに疲れ果てた少年は、そうそうに自分の部屋に向かいました。ベッドの枕元にはお母さんが作ってくれた大きな靴下が吊るされていました。

 布団にもぐりこみながら少年は考えます。

 この後、お父さんはあの衣装に着替えるんだ。そして、前もって僕から聞き出した望みのプレゼントをもってくるんだ。僕が眠った頃に……。

 いつもなら深い眠りについている時間になっても、少年はなかなか眠れませんでした。

 すると、部屋のドアが音もなくスーッと開いたのです。

 まずい。僕が寝たと思ってお父さんが来ちゃったんだ。そう思い、少年は目を閉じて寝たふりをしました。

 部屋に入ってきた誰かは静かにベッドに近づいてきます。ゴソゴソという物音と気配でプレゼントを靴下に入れているのがわかりました。

 その時、少年は我慢しきれずに、パッと目を開いてしまったのです。

 そこに立っていたのはお父さんでした。彼の予想通りです。

 あの赤い衣装を着て、帽子を被ったお父さんは驚き顔で立ちつくしていました。

 少年は思わず叫びます。

「サンタなんて、いないんだ!やっぱりお父さんだったんだ!お父さんのうそつき!」

 その言葉を聞いて、お父さんはようやく口を開きました。

「いいかい。今は時間がないから何も言わない。でも、帰ってきたらちゃんと説明してあげるから、おとなしくしていなさい」

 言い終えたお父さんは窓に向かって歩きはじめました。窓際に立つと、そのガラス戸をいっぱいに開き、そこから外に飛び降りてしまいました。

 少年の部屋は2階です。彼は慌ててベッドから飛び起きると窓から身を乗り出しました。

 そこにはサンタクロースが……。お父さんのサンタクロースがいました。プレゼントを山ほど積んだソリに乗って。

 ソリは8頭の大きなトナカイにひかれ、そして驚くことに宙に浮いていました。御者台に座ったお父さんは大きく手綱をはたくと、トナカイたちに号令をかけ、ソリを大空に走らせました。鈴の音を響かせながら。

 目にいっぱいの涙を浮かべながら、少年はそれを見送りました。

 いつの間にかお母さんが少年の背後に立っていました。お母さんは彼に優しい眼差しを向けています。

 少年は星空に浮かぶサンタクロースを見つめたまま言いました。

「やっぱりサンタの正体はお父さんだったんだね。でも、本当にサンタはいたんだね」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サンタクロース @d-van69

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ