王女殿下の休日

夕日ゆうや

わたくしは王族ですわ!

「王女殿下、ご再考を!」

「わたくしはもう決めました。この国に未練はない、と」

「しかし、王女殿下! 国民に混乱が乗じます!」

「そのために影武者がいるのでしょう?」

「違います! 彼女にはたいした知識もなく……」

「ああ。もううっさい! わたくしはただの一人の娘として生きます!」

 城壁を突破し、持っていたナイフで金糸のような長い髪をばっさりと切り捨てる。

 それは王族を捨て、俗世で生きるという強い意思の表れだった。


 持ってきた金貨で、しばらくは自由を謳歌していたが、そのうち財産も尽き馬小屋で一夜を過ごす日々。

 幸い変態どもの楽園には導かれなかったけど、いつそうなってもおかしくない。

 わたくしは決意を新たにする。

「やっぱりわたくしは王族なのだわ」

 わたくしの持っている知識では民草とは相容れない。

 その知識、知恵といった前提がそもそも違うのだ。

 民草は悪くも良くも、考えなしに行動している。

 明日の日銭を稼ぐためだけに生きている。

 そう結論づけたわたくしは、再び王城を訪れていた。

 あれから二か月。

 いやというほど、大衆にまみれてしまった。

 リンゴを売る男性に、スラムで盗人をしている少年。自らの身体を預ける少女。

 その奇異の目にさらされながらも、わたくしは王族にとりつく。


「なんて、愚かな娘だ」

 父は嘆き、わたくしを謁見の間に通し開口一番罵る。

「でも、これで民草の気持ちが分かりましたわ。これから良き外交を――」

 そこで父が肘掛けを強く叩く。

「貴様は私がなぜこうも憤っているのかも分かるまい!」

 否定の言葉は大きかった。

「ち、父上……?」

「お前は、もっとこう父の気持ちを知りたまえ」

 ここまで激高する父上は初めてみた。

 その威圧感に気圧されて言葉を失うわたくし。


 わたくしは間違っていたらしい。

 すでに影武者は殺され、わたくしの進退も怪しいところ。


 もう一度、やり直したい。

 そう思ったわたくしでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王女殿下の休日 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ