6月 self portrait
第27話、時を超えた偶然
もし、僕が、今の記憶を持ったまま、また同じ時間に入ることができたら、どんなに良かったかな。
オートクチュールであつらえたかのように、そこにあることがあまりに自然な計算されたシルエットを持つ磨かれた靴。
暗闇に沈むフロアにある光り輝く水槽には、悠々と泳ぐ魚がいて、そしてアクリル板を挟んで僕が向かい合っている。
「はーい!では、撮りまーす!」
サンシャイン60の水族館で僕は、背中に炎と龍をモチーフにしたシャツとオーガンジーのシアージャケットを纏いポーズを決めている。
月明かりを浴びた野薔薇を感じさせる香水を身に纏う僕は、初対面の時に彼が言ったように女みたいなのかもしれない。
僕の仕事はプログラマーだけど、こんなことをしているのには訳がある。僕が仲間と作ったアプリが大成功を納めたからなんだ。
不思議だよね?仲間達3人で僕の部屋で集まって構想を練っていたんだけれど、荷物や僕が部屋を開け閉めする関係で、いつまでも僕の部屋に集まる訳にもいかなかった。
とりあえず、ひと月で借りたワーキングスペースの中は、アプリの形が見えてきた頃には、こたつがない3人の秘密基地に変貌していた。
「こんな感じかな?」
「この部分、邪魔」
「そうかな?」
「あ、それ、繋ぎ合わせよう」
「は?これを?何に?」
「ほら、それ、滑らかにして」
「え?僕が?」
「うん、できない?」
「・・・これは?」
「あ、うん。いいね」
「でっしょー」
「じゃあ、よろしく」
「え?ちょっと、ここで寝ないで!?」
僕が考えたアプリはシンプルなコンセプト。人の生活そのものを切り出して、目的にまつわるトラブルを解決する。
人の生活をシンプルにすると「心臓を動かすこと」と「心を動かすこと」の2つだと、僕は思っている。
だから、システムを「体」と「心」の2つに分けた。次に「機能」を空間に依存する事象と時間に依存することに分けた。
「体×空間」だと「体の治療@病院」とか「ご飯@台所」とか生きるために必要な「機能」を示す。
「心×時間」だと「非日常体験@映画鑑賞」や「趣味@釣り」とかかな。場所に依存するものもあるし、漁師さんとかだと違う結果ではあるけど、その対象者にとっての「機能」で分ける。
僕の考えたアプリは、これを24時間ベースの物理的な時間と場所という現実世界と、1人ひとりに合わせた「機能」に対する演算結果をシームレスに繋いでいく。
この1人ひとりに合わせた最小限の電気的なインターフェースで、「対象者」に合わせた「場所」と「時間」を「横」に繋げていく。
分散型システムと一緒で、全部を計算する頭はいなくて、小さな一つ一つがその「空間」にある「ステーション」につながることで必要な「追加機能」を受け取ったり、時間になれば「ダウンロード」をする。
アプリの特徴は現実世界である「場所」「24時間」との組み合わせを「体」「心」並びに「空間」「時間」として携帯電話で動かすこと。
あくまで主体はアプリ。拡張現実の世界を現実と重ね合わせる小さなシステムにした。人でも工場管理でも使えるシンプルなコンセプトにミニマルなシステムコード。
似たようなコンセプトやサービスはいっぱいある。でも今のアプリは「広告」や「思想」が多すぎて、これだと「誘導」になってしまう。
僕は思いやりをもって巡礼者を迎え、旅にまつわるトラブルを解決し、次の目的を探す手伝いをしていた頃のコンシェルジュをシステム化したかった。
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