「そこにない」ものを踏んでしまった話。
上村夏音
「ない」ものを踏んでしまった話。
ある冷え込んだ朝のこと。私は寝起き15秒(体感)で、何かを踏んだ。
「痛〜い!」
私はこれから朝の支度をしなければならない。ギリギリまで寝ていたので急がなければいけないのだが、もはやそれどころではない。めっちゃ痛いのだ。痛い。確認してみると、血が出ていた。私はパニックになり、泣いた。母は、「何泣いてんの、大袈裟だね」と冷静だった……。
その日はなんとか乗り切り、帰宅してから。早速何を踏んだのか、検証を始めた。そこで、この事件は奥深いことを知ることとなる。
何を踏んだのか、わからないのだ。いや、踏んだものが、ないのだ。
どれだけ探しても、ない。朝と同じように動き、足のあたりにあったであろうものを探す。しかし、足に怪我を負わせられるような、そんな代物はどこにもなかった。「踏んだ時、勢いでどっかに飛んでいっちゃったんじゃないの」母は、冷静にそう放った……。
「飛んでいった」。疑問は残るが、これで事件は終幕を迎えた……はずだった。後日、母が踏んで飛んでいったであろう物を拾い、持ってきた。小さな何かの破片だった。確かに尖っていて、ポテンシャルは十分だった。しかし、私は明らかに違うと断言できた。私に傷をつけたのは小さなものではない。
あの日、私は確かに一瞬浮いた。つまり、何か大きなものを踏み、それに乗ってしまった際、足に食い込んだのだ。傷を見ると小さく感じるが、私が踏んだ直後に感じていたのは「ポケモンのデンジュモクの頭を踏んだ!」だった。丁度家の外ではあるが、それに近しいものを持っていたため、それを踏んだと思ったのだ。ただ、勿論そんな危ないものが家の中、ましてや家族がよく通る場所に置かれているはずがなく……。この事件は迷宮入りした。
あの出来事から二ヶ月が経過した今でも考えたり、探してはいるが手がかりすら見つからない。「私があの日踏んだのはハリネズミなのではないか……?」そんなありえない考えすら頭をよぎってしまう。それとも、たまたま一瞬だけ異世界と繋がってしまっていて、異世界の何かを踏んだとか……。ファンタジー好きな私は、そこから何か物語に繋がらないかと内心ワクワクしていた。
が、未だに現実で卵を割るのを失敗して泣いたりだとか、行ったことのある図書館に行くのに迷子になってしまって泣いて帰ったりだとか、かと思えばこんな出来事を書くのにピッタリなコンテストを見つけたりだとかで騒々しく、逞しく暮らしている。そしてこれからも、こんな調子で現世で暮らしていくのだろう……。
そういえば、その1週間後くらいに今度は何もないところで箱のようなものにぶつかった気が……。
「そこにない」ものを踏んでしまった話。 上村夏音 @ralueuno
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