断章02 行動パターンNo.11『藍の惑星』
今回の研究日誌をここに記す。
いつか役に立つ事があるといいが……まぁ、これを見ているなら頼む。
2080/06/16
この世に生を宿す。
初期状態は良好、以降、名称を『R』として引き続き実験を継続する。
2080/06/30
Rの状態に変化あり。
刺激に対して拒絶に分類される反応を示した。
何らかの方向性を得たとして、今後より多くの刺激を与える。
2080/07/13
Rが方向性を示した。
どうやら刺激を与え過ぎたらしく、全てを拒絶する方面に進化をしたようだ。
実に面白い!
これだけでも十分に扱えそうではあるが、他の奴らがうるさいので安定剤として『W』を接触させる。
碌な結果にはならないと思うが、俺は知らんぞ。
2080/07/20
案の定だ!この腐れ脳みそ共がやらかした。
敵意がこっちに向いてんじゃねぇかよオイ。
あーやってらんね。
めんどくせぇから全員潰してこいつの餌にでもすっかな!
これだから低能どもは……
2080/08/01
R・W共に変化あり。
人間を餌として与えた日から、日に日にサイズが増加している。
私と比べると然程大きいわけではないが、このまま成長を続けるとしたら場所を変える必要がありそうだ。
あいつに依頼をするとするかね。
2080/08/10
新しい実験場が完成した。
早速R・Wを新しい方へ移動させた。
無能共を殺した時に暴れられたせいで、かなりガタが来てたからな。
ここなら安全に、そして自由にやっていける。
あいつは何もかも揃えてくれたからな!
2080/08/27
やっべぇ、めっちゃ快適じゃんここ。
一日中RとWに張り付いてても身の回りの世話は勝手にやってくれる。
おかげで詳しい様子も見ることが出来た。
どうやら、RとWそれぞれの体内に粒のような何かが大量に存在しているようだ。
それらがぶつかり合い、あるいは混ざって新しい粒を作り、一つに収束していく。
その一粒が出来た瞬間、それが全体に溶けだす。
その繰り返しを以て『成長』となるらしい。
粒の摘出は出来なかったが、これを発見できただけでも大きな進歩だ。
引き続き実験を進める。
2080/09/02
突然だが、小さな子供がぬいぐるみを渡されたらどうなるだろうか?
大事にするし、一方通行の会話を試みるだろう。
実際に所帯を持った事はないので本当にそうなのかは分からないが、先達の言を信じるのならそうなのだろう。
突然その話をしたのはなぜか。
RとWが人語を発し始めたのだ。
それも、途轍もなく汚い言葉を。
……あぁ、まだあの豚共は邪魔をするというのか。
順調に大きくなってきたと思ったらこれだ。
きっと、子供を持つ親の気分とはこういうものなのだろうな。
実験としてはこのまま放っておくのが最善だろうが、あいつ等が汚い言葉を覚えさせたのなら、私はキレイな言葉を覚えさせてみよう。
いつか話せるようになったのなら、気持ちよく会話をしたいからな。
2081/01/01
これを書くのに随分間が空いてしまった。
成長の結果を簡単に記すのなら、RとWに完全に会話能力が備わった。
前回これを書いたあの日からコツコツ言葉を重ねていった甲斐があったようだ。
それ自体は非常に喜ばしい事なのだが、ここで一つ疑問が出て来た。
こいつらはどうやって言葉の『意味』を覚えたのだろうか?
俺は子を持つ親の気分と書いたが、それはあくまで気分の話だ。
どちらかというとオウムやインコを育てるような、意味が通らなくても話したら面白いだろうなという感覚の方が正しいだろう。
それがどうだ。話してみれば言語として正しい使い方を完璧に行っているではないか。
当の本人達に聞けば早いのだろうが、いざ聞こうと口を開いたときにこう……表現できない何かを感じたんだ。
生まれた時から観察や実験を繰り返し、解析を途方もない回数重ねたというのに、それでも見えないナニカ。
それが私の口を粘液の糸で縫い合わせたように止めてしまう。
それから逃れる術を私は持ち合わせていなかった。
サイズもかなり大きくなって、そろそろ成人女性の平均程に達するだろう。
もう後戻りは出来ない。
2081/01/25
R・Wが殻に籠った。
今までは不定形のアメーバのような形態だったのだが、「ちょっと危ないかも」という一言の後に蝶の蛹のような殻を形成した。
それが一週間前の出来事で、今も変化はない。
殻の強度はあまりにも高く、これを破壊できる物は存在しないと断言できる程に硬かった。
殻の表面の解析も二日目にして終わり、これだけの日数を一人で過ごしていると、強く孤独感を感じるようになった。
どうやら私自身も彼らとの会話を一つの心の支えとしていたらしい。
久しぶりに、外に出ることにした。
扉をカードキーで開け、階段を上る。
エレベーターを指紋認証で開いて上に、出る時には網膜認証。
出てすぐに突き当たった大きな鉄扉を14桁のパスワードで開くと、大通りを少し外れた小道のさらに路地裏に出る。
薄汚れた壁に視線を這わせて空を見上げると、壁よりもどんよりとした雲が広がっていた。
間が悪い事に今日の天気はくもりだったらしい。
生温い風が指先をくすぐった。
極秘研究だからセキュリティは厳重にとは言った手前、こういう立地になる事も納得してはいたが、久しぶりに出て来てこれだと何かあれだな。
久しぶりの埃混じりの空気を吸って、腕を上げて伸びをした。
とても静かだった。
目に埃が入って絶妙に痒い。
清潔な環境に慣れ過ぎて外に適応出来なくなっているようだ。
早く戻って観察を続けなければと思い、鉄扉に再び向き合った。
パスワードを思い出すのに少し時間が掛かったが問題なく入力し、網膜認証でエレベーターに乗り込む。
指紋認証を通して出て、長い階段を下る。
上手く反応しなくなったカードキーを何とか通し、蛹の下へ戻った。
出る前と全く変わらない二つの塊がそこにはあった。
2081/03/01
孵化した。
私は間違えていた。
あの時更に研究しておけば良かったのだ。
あの時もっと深く聞いておけば良かったのだ。
あれは対応できなかった訳ではなかった。
知識さえ!それさえあればこれは防げたというのに!
そう言って、
安らかに寝とけ。
クソ親父。
俺は外にでも出るとするかねぇ。
外に出て……どうしようかな?
今回の研究日誌をここに記す。
いつか役に立つ事があるといいが……まぁ、これを見ているなら頼む。
なぁ、観測者?
確認……資料回収完了。
名称『R・W』観測完了。
固有名の認定後、導入を検討。
――――――――――
この時期に父親が死ぬとは思わないじゃんねー……。
大学一年で喪主することになるとは。
次の章の構想考えてたらめっちゃ遅れました。
ホントにごめんちゃい。
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