閑話  黒色矮星ーアセビ

 Side ??


 あなたは、馬酔木あせびの花を見た事があるのでしょうか?

 まるで人間が花開くかのように、真っ赤な蕾から真っ白な花が咲くのです。

 あの忌々しい花が咲くように。

 「……!、おいそこ上見ろー!」

 「……もうどうしようもありませんから」

 「ッ……クソッタレ!」

 地面に座り込んでいた私に親切にも声をかけてくれた彼も、どこかへ走り去っていきました。

 きっともう助からないでしょう。彼も私達も。

 空から滅びが降ってきます。叫びが聞こえます。

 松の種子が落ちてくるかのように、私達に等しく終わりを与えようとやってきます。

 小さな小さなそれは、空を覆いつくしてこちらを見ています。

 品定めをしているのでしょうか?それとも余裕が故の油断?

 ……それを考える意味もそうありませんね。

 それを知った所で何になるというのでしょうか。

 私達は、もう終わってしまいましたから。

 隣に横たわる彼を見遣ります。

 「随分と、軽くなってしまわれましたね。私よりも軽いのでは?」

 ……返事は、返ってきません。

 そりゃあそうです。だって―――。

 ―――腹部から下が存在していないのですから。

 浸食する前に、彼が自分の手で切り開いてしまいました。

 もう二度と、目を覚ますことは無いでしょう。

 切り離したとしても浸食は止めることは出来ず、やがて触れている私すらも吞み込んでいくでしょう。

 あらゆる対策を以てこの赤色に挑んできましたが、結局どうしようもありませんでした。

 みんな呑み込まれて、一つの真っ赤な蕾になりました。

 彼と一つになれるというのは甘美で素敵な言葉なのですが、如何せん手段が論外すぎますね。

 ……まぁ、それでもいいのです。

 「これも一つのカタチとしては最適なのでしょうか……」

 上側の花の天蓋を砕く必要がありますね。

 最後のお別れと行きたいところですが、私達の間に限ってはそうはいきません。

 「私達はいつでも一緒。そう誓いましたわね」

 契約は絶対です。どんな存在でも、時間ですらも私達を別つことは不可能なのですから。

 「あの赤すら霞むほどの深紅で、私達は繋がっているのですから」

 ですから。

 「たとえ禁忌に触れようとも、あなたは変わらず愛してくれますよね?」

 掌を上に向けて、強く念じます。

 想像するのは天まで届く程の道。

 天蓋を砕き、空を貫き、宇宙すらも超えて、貴方の下へと向かうための目印を穿つ。

 「では、またいつか逢いましょう?私の愛しい旦那サマ」

 『籠払いの雀瓜』

 そう頭の中で諳んじれば、雲一つない快晴の空が頭上に現れました。

 それと同時に、自身の一部が消えた事に焦ったのか、急激に輪を狭めてくる赤色達。

 でも残念、少しだけ遅かったですね。

 私と彼はもう上にいます。

 ……またいつか、この赤色にくだんご達ときっと会うことになるのでしょう。

 次は必ず滅ぼしてやります。

 何を犠牲にしてでも……。

 ……あ、私達以外でお願いしますね!









――――――――

 やっと夏休みだよ。

 自由に物を書けるって素敵だね(53位)

   

 

 

 

 

 

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