第二十三話 星巡り
Side ミオ
とても長い夢を見ていた気がするのです。
掛けられていた毛布を端に寄せて、いつの間にか運ばれていたらしいベッドの上から降ります。
レイの手はいつも温かいのです。
「ここはどこなのです?」
窓からは、青空と薄汚れた?家の外壁が見えるのです。
「ここはとある婆さんの家の中だよ」
聞き覚えのある声が背後から耳に届いたので振り返ると、部屋の入口にもたれかかっているレダさんの姿が見えたのです。
「レダさん!」
「よぉ、ずいぶん気持ちよさそうに眠ってたなァお二人さん?」
駆け寄ると、体に傷は付いていないのに、装備だけが妙に摩耗していることに気が付いたのです。
「なんかすごい戦いでもしてきたのです?」
「あぁ、お前らが気絶する前に狼が現れたのは……見てないか、俺が目を塞いでたもんな。まぁ、そいつの攻撃でお前ら吹っ飛ばされて気絶してたんだよ、それを運んで退避させてもらったのが此処って訳だ」
成程、気絶していたから全く知らない場所だったのです……。
って、そうじゃないのです。
「聞きたいことはまだまだあるのですよー!」
「おう、何でも聞いてみろ」
色々と聞いて、元々いたNPCは殆ど全員避難していて無事な事、狼の攻撃はなぜか建物や地形へのダメージが無かったことを知ったのです。
都市としてのダメージも殆ど無く、すぐにでも日常に戻ることが出来そうとのことなのです。
「そんでもってこの装備の傷はあれだな、俺が討伐しちまったからだな」
「え?倒しちゃったのです!?」
町への被害が計算されるレベルという事は、相当な強さだった筈なのに……?
「私が良い感じにお膳立てしたからじゃろう若人め」
レダさんの背後から少しだけしゃがれた声が聞こえました。
見ると、
「んだよ婆さん、せっかく良い所だったのによぉ」
「ふむ、双子はすっかり元気になったようだねぇ。こいつに少し話があるから借りていっても良いかい?」
もちろんいいのです!と返事をすると、かなりの体格差があるにも関わらず服の背中の裾を引っ張って部屋を出て行ってしまったのです。
「これからどうしましょうか……?」
「そろそろ黒狼だけというのも味気なくなってきましたね……」
二人でベッドに座りながらこれからについて考えます。
レベルの事を考えるともうここでの成長は見込めなさそうなのです。
星誕祭という大きな行事が終わった以上、これ以上此処に留まる理由は無いのです。
……着物のお兄さんやバビさん達にもう一度会っておきましょうか。
そうと決まれば行動なのです!
「レダさんにはメールを送っておきましょうか」
あいさつ回りに行ってきます……と、よし。
それじゃあ出発なのです。
ベッドの部屋はそのまま外に出ることが出来るようで、奥で話し合っている二人に気付かれることなく外に出ることが出来ました。
「外に出たのは良いけど……ここどこなのです?」
出る前にレダさんに聞いておくべきでした。
「ひとまずここの通路を出てから考えましょうか」
じめじめとして薄暗い色の路地を抜けて、大通りに出ようと歩みを進めます。
そんな時でした。
(警告。これ以上先に進んだ場合、エリア設定がプライベートからパブリックに変更されます。よろしいですか?)
目の前にステータスの板とよく似た、真っ赤な色をした板が出てきました。
読んだ限りではこの先に進むと云々らしいのですが……。
パブリック?、プライベート?、ってどういう意味なのです?
「赤ってことは危ないのでしょうが、進まなければどうすることも出来ませんし……」
後ろを振り返ると、さっきまで見ていた薄暗さに加えて、その奥により深い闇が満ちているのが見えました。
あっちには行きたくないのです……。
この警告は振り切って行くしかないのです。
より深く強く手を繋ぎ、光差す方へ向かいます。
赤い板はいつの間にか無くなり、目の前はさらに明るくなっていきます。
やがて目を開けられなくなり――――――
「あ、いた!!!」
ふぇ?
「やっといたのか!」「わー配信で見るよりかわいいー」「あの子ドストライクだわ♡ウフ」「お前ホモかよぉ!?」「おまわりさんこいつです」
何かたくさんの人の目がこっちを捕捉してるのです!?
も、もしかしてこれ全員不審者さんなのです!?
「に、逃げなきゃ……!」
って、逃げようにも包囲されてるせいで逃げ場がないのです!
路地に逃げても袋小路なのです!
そうこうしている間にも、不審者包囲網はどんどんその輪を狭めてくるのです。
ま、まずいのです、一体どうすればいいのです!?
―――カァァァ。
その時、聞き覚えのある声と共に、空から二匹の鳥が急降下で私達と不審者さん達の間に割り込みました。
「レオ!ポリーも!」
「「ガァァァ!」」
一声鳴くと同時に、レオが不審者に向かって暗赤色の翼を広げ、ポリーは私達が繋いでいる手の間に留まりました。
何をしているのかと思ったのも束の間、レオが全身からさっきの光とは比べ物にならないほどの光を放ち、ポリーは鋭く一鳴き響かせたのです。
「カアッカァッ!!」
「眩しッ!」
「なんだあの鳥!?」「双子の従魔的な奴だ!」「フレンドになりたいだけなのに―!」
「目がぁーッ!目があぁァァ!?」「イーッタイメガァー!?」
瞼を閉じても尚瞳に届くその輝きは、不審者さん達全員にも須らく届いていることでしょう。
急な閃光に驚いた目が言う事を聞かないのを黙らせてこじ開けると、不審者包囲網の一番外側の背中が見えました。
「……えぇ?」
「!。ミオ、逃げよう!」
「えっあっ、分かったのです!」
いち早く状況を飲み込んだレイに手を引かれて、私達はその場を逃げ出しました。
「ひえぇ、何だったのですあの集団は……」
人混みを搔い潜って駆け回り、何とかレダさんと会った広場まで辿り着くことができたのです。
レダさんが立っていた場所のさらに端、誰も気づけないであろう薄暗い場所に二人と二羽で潜伏します。
あ、レオはいつの間にかレイの肩に留まっていたのです。
「何とかしてバビさんの所に行かないといけないのです」
バビさんから貰った“初級観光パンフレット・アイオロス編”を開いて、私達がどこに向かうべきなのかを確認するのです。
これによると、私達がいたのが南の“商業地区”で、バビさん達がいる図書館は西側にある“学術地区”にあるそうなのです。
丁寧にバビさんのメモで『ここ―!!』って印までしてあるのです。
いつ見つかるか分かったモノでもないので、確認も最小限にすぐにインベントリに戻して立ち上がります。
「じゃあ早く行くのです!」
「待ってミオ、レオとポリーを人目につかないようにしないと。直ぐにバレちゃうよ」
「「カァー……」」
「あぁいや、二羽が悪いって訳じゃないからね?」
伸び伸びと行動出来ない事にあからさまに落胆した二羽を、それぞれの服の間にしまい込んで首元から顔だけ見えるようにして、改めて暗がりから飛び出しました。
「あ!いた!」
……何の意味もない行動だったのです!
祭りの始まりの時の目線とは違う、少しだけギラついた目線の束を受けながらも、私達は学術地区への道を駆け出したのです。
「ポリーちょっと外出て来て!」
「ガアァ!?」
人の群れから逃れる為に走っているのですが、走る度にポリーの羽根がわっさわっさと胸をこすり続けるのが鬱陶しくなってきたので、鷲掴みにして宙に放り出したのです。
文句を言うかのように鳴きながら羽ばたくポリー、その横には同じく投げ出されたのあろうレオもいるのです。
「早くあの子たちに教えてあげないと!」「色々と聞きたいことが多すぎる!」「あの子達絶対良いモデルになる!」「調香♡の参考にしたいわー!」
ひえぇ、さっき囲まれた時よりも人が増えてるのです。
とはいえ、そろそろ図書館に着くからそこで匿ってもらうのです!
「やあ、僕の事覚えてるかな?」「ホントにあの子達じゃーん?」「聞きたいことがあるのでな、止まってもらおうか」
―――なんてこった、なのです。
前方からも不審者の集団がやってきたのです。
しかも先頭にいるのはレダさんと口論していた金属鎧に身を包んだ……名前な忘れたのです……。
「そこにいるのは……えーっと、何でしたっけ?」
「レオンハートだよ!結構目立つ名前してるって自覚し始めたから覚えてるかと思ったのに!?」
重そうな鎧なのに軽快なリアクションを披露してくれた後に、頭を外したのです。
中からは、本の挿絵で見るようなザ・イケメンといった風貌の顔にキラキラと輝く金髪が現れました。
「あいつ素顔晒したことあったっけ?」「いや無いな。珍しい所の話じゃ無いぞ」
はえー意外と見た目は良い感じになってるのです。
「取り敢えず鎧だと威圧感すごいからね、外させてもらったよ。それで、僕の話をきいて―――」
そこまで聞いたタイミングで、真横から空間を裂いて現れた手に私達は掴まれたのです。
「……は?何それ!?」
「ごめんねー、ちょっとこっちに来てもらえない?この人達や後ろから迫って来てる群衆からも逃げられるよ?」
手が喋ったのです。
その言葉に反応して後ろを見ると、あの不審者集合体が迫って来ているのです!
路地裏のような横道もない完全な一本道なので逃げ場もないのです。
「あなたは何者なのです!?」
「そうね、取り敢えず不審者では無いとだけ言っておくよ」
んー……どうしようもないからやるしか無いのです。
レオンハートさん達もこっちに走ってきていて時間が無いのです!。
「じゃあよろしく頼むのです!」
「はいそんじゃお二人……と二羽もかな?ごあんなーい」
その言葉と共に、私達は明らかに入るサイズでは無い裂け目に引き込まれていったのです。
もちろん、レオとポリーも一緒なのです!
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