第十八話  誓いの屍の上で

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Name:レダ Lv.20   point…0

Job:斧術士   JobLv.6 Jpoint…0


Status

HP…400    MP…90

Str…42     Agi…30

Int…20     Con…36

Star…500    Luck…1

Skill

passive……積層経験せきそうけいけん

     誓いの十二星・水瓶座

     夢を砕いて希望を掴む

     斧術発展型・子守

active……白静びゃくせい

     宣誓・白鳥の如く

     水瓶みずがめ

     誓いの十二星・水瓶座

     孤独

title……黄道十二星座保持者スタータイトルホルダー

    異常者

    白い鳥の伝承

    正しさの追究者ついきゅうしゃ

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 Side レダ


 あぁ、手が震える。

 これは強者を前にした武者震いだろうか。

 それとも、あまりにも分不相応な相手に対する恐れなのだろうか。

 目の前の狼を睨みつける。

 今までの相手とは全く毛色が違うが、殺せば勝ちという点だけは変わらない。

 そう考えている間も、どちらも相手の出方を伺い合うせいで動けない状態が続いている。

 あの決め台詞を出した後にこれだから、途轍もなく気まずいぜ。

 配信モードにしていなくて助かった。

 ……こちらから動くしかない、か。

 幸いにして、確実に効く保険なら用意してあるしな。

 相手の目がほんの少し上を向いた隙に、足を狙って横に斧を薙ぐ。

 その一撃を少し身を引いただけで避けた狼は、その動きを踏み込みとして飛び込んできた。

 やってくれるな。

 俺が後ろに引けない事を理解してんのか?

 まぁ問題ないんだが。

 「『孤独』」

 ぱきり、と。

 ガラスの砕けるような音と共に、路地裏であったはずの景色が一瞬にして草原のそれへと変わった。

 遠くにはアイオロスの町の外壁がそそり立ち、変わらなかったのは俺と狼だけ。

 「……どういう、事だ」

 「お前喋れたのか、さっさと教えてくれたらよかったのに」

 困惑している様子の狼だったが、その様子を見て少しだけおかしな点がある事に気付いた。

 双子を気絶させたあの黒いゲル状のドロドロ。

 あれがまた狼の体に発生しているのだが、その分狼自身の体が小さくなっているように見えるのだ。

 「おい、何かお前小さくなってねぇか?」

 「……わざわざ敵に教える義理は無いのだが、まぁいいだろう。これはな、私への……狼への天罰のようなものだ」

 「ほーん、天罰?」

 どちらも目をかっぴらいて相手を警戒しながら言葉を交わす。

 「あぁそうだ、天罰だ。そう言わなければ説明できない。……私達狼は自然の中で生きる。自然に生き、自然と闘い、そして自然の中で果てる。その亡骸は自然の糧となり次の命を形作る」

 だが、と。

 前足を折りながらもこちらを見る目は変わりなく、言葉を紡ぐ。

 「狼が自然のテリトリーを外れ、人の住処に入ったとしたらどうなると思う?」

 「その答えが天罰か?」

 「そうだ。今の私のように黒い何かに身体を侵され、やがて自然に返される。まぁ、ある意味では救いなのかもしれん。自然から離れずに済むからな」

 それでも、と。

 頽れるようにその身を横たえようとも、その瞳はより一層輝き。

 「そしてこの罰は、狼である以上何であろうと逃げることは出来ない。それが子であろうとも、群れの長であった私であろうともな」

 ……こいつ、あの時の星狼だったのか。

 「なら、何でここにお前がいるんだよ。よりにもよってお前が」

 「私は群れの長たる者なのだ。群れを守り、発展させ、それを率いていかなければならない」

 「お前ならわかるはずだろう?その天罰とやらが人里に入った段階で来るのなら、子狼はすでに死んでいると。人間に捕まえられたとしたら、猶更な」

 「それでも、だ」

 目の光すら薄れていく。

 路地裏で会敵した時点で戦える状態ではなかったのだろう。

 天罰によってその身を蝕まれながらも戦い続けた。

 群れの中のただの一匹に過ぎない子狼を、助かるかも分からない上でその可能性に自分の命すら賭けて。

 そしてその尊い命は今目の前で消え去ろうとしている、と。

 ふむ。

 好都合だ。

 こいつが群れの長として事を成そうとしていたように、俺にだって双子を死なせないという使命がある。

 そのための障害となるのなら、それが押せば崩れるほどに脆くなっているのなら、容赦はいらない。

 「ほーん。お前のやりたい事は分かったんだけどさ、俺もやらなきゃならん事がある。だから、お前とはここでおしまいだ。だが、殺す前に一つ言いたいことがある」

 「……なんだ?」

 もはやその目では何も写し出せていないであろう狼に向かって、最後の質問を言い放つ。

 「その子狼はどうなった?」

 「……死んださ。目の前でな」

 「そうか」

 首を一発で断ち切るために、高く斧を振り上げる。

 ……ところで、こんな言葉をご存じだろうか。

 手負いの獣程怖いものは無いと。

 ピスッ、という液体を撃ち出す音が聞こえた。

 それと同時に手首に強い衝撃が走り、 それによって弾き飛ばされて宙を舞う斧。

 それを認識するのとほぼ同時に、今までで一番目を輝かせながらこちらをかみ砕かんとする狼。

 ゲルを飛ばして来たのか。

 妙に冷静な頭を砕かれそうになりながらも、俺は笑った。

 なんてったってさぁ。

 ノーリスクで相手の脅威が分かる事ほどいいことってないもんなぁ?

 「「ガァァァ」」

 上空で待機していたレオとポリーが急降下で俺の元へ突撃してくる。

 その脚にはキラキラと輝く水晶が。

 そう、あの婆さんからもらった精神世界に引きずり込む水晶だ。

 てめぇの精神がどうなってんのか知らねぇが、取り敢えずこの状態は何とかなんだろ!

 現実じゃ負けても精神じゃ負けねーぞオラァ!

 水晶からピシリとひびの入る音が鳴り、光が辺りを包んでいく。

 陽の光も、狼も、すべてを強く照らし出す。

 やがてすべてが光に包まれ、そして消えたそこには誰もいなかった。

 ただ、陽の光に満ちた、元の草原だけがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

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