第十五話
Side レダ
俺は一人考える。
人嫌いになったあの日からずいぶん経つが、俺は未だに人嫌いが収まらないらしい。
世の中に蔓延る大人達も、それに近づきつつある自分も。
どっちも等しく嫌いだ。
だからこそ、Stardust Onlineにのめりこんでいるのかもしれない。
あの世界では歳を取ることがない。
常に自分にとっての最善でいることが出来る。
考えていることが良く分からなくなって、病室に備え付けてある風呂へ向かう。
ゲーム内ならあの双子にも会えるからな。
あいつらの在り方は俺の理想形そのものだ。
聞いたところによると、『先生』とやらに育ててもらっているらしい。
その先生は随分良い教育方法だったのだろうか、双子は子供特有の無垢な純粋さを失っていない。
その双子達とゲーム内イベントを巡る約束をしてから……ゲーム内で三日前くらいか?
現実では昼の六時からスタートで、次の日が休日なところを考えると、運営は随分と人を集めるつもりらしい。
おそらくだが……ただの祭りでは済まないだろうと思う。
レイドモンスターか、強大で全員に対して共通の敵のお披露目、そのどちらかがあるんだろうなと俺は踏んでいる。
ただのお披露目だったらそれでいい。
だが、もしデスする可能性があるイベントなら、俺はあの双子を全力で守らなければならない。
汚れた体を冷水で洗い流し、シャンプーを使うのも程々に。
冷たい風呂に30秒入ってさっさと出る。
温かい風呂は好きじゃねぇな、昔の頃を思い出すから。
ペナルティキラーに襲われていた時の双子の顔。
あれはあの子達にとって必要の無いものだ。
それがもたらされようというのなら、それを絶対に止める。
風呂から上がって上下セットの……名前忘れた、よく分からん服を着て外を見ていると、ドアを誰かがノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
覗き穴から見ると、20代くらいのショートヘアの女性が立っていた。
「あ、あの、私そこの反対の病室に入ることになった者なのですがっ、家からお菓子を持ってき過ぎてしまったので、その、おすそ分けにっ!」
ドアを開けた途端、そうまくし立ててビニール袋を突き出してくる女。
……心意気はありがたいのだが。
「持ってきてくれたことはありがたいのだが、すまんがそれを受け取ることは出来ない」
袋の中を覗き見ると、全く以て普通の市販品だ。変な所なんてどこも見当たらない。
でも、駄目だ。
「えっと、その、理由をお聞きしても……?何か気に障ることでも……」
「いや、貴方には間違った所は何も無い。ただ、私の考えが悪いんです」
あの子達に余計な物はいらない。
あの子達には自由に純粋に生きていってほしい。
あの子達が悪いことを望むのなら、それでもいいんだがな。
「『何かを他人から受け取ったのなら、その分だけ関わりの鎖が自分を縛っていく』。そうならないように、なるべくそういうのはもらわないようにしてんだ。すまんな」
「いえ、そういうことなら分かりました。あ、でも、仲良くはしてくれますか?」
「まぁ、ぼちぼちな」
それを聞いて頭を下げる女を尻目に、軋むドアを閉める。
……あの言葉には続きがある。
『だからこそ、人の繋がりは極力必要ない』
あの女とは、もう関わることはないだろう。
さて、そろそろいい時間だ。
午後5時半、開始三十分前。
俺は、この世界に向ける目を閉じた。
瞳を開くと、活気に満ちた住人達がリスポーン地点の広場に一足先に屋台を開いていて、もう既に祭の景色になっていた。
今のこっちの時間は……昼の二時か。
あいつらはもうログインしているかと思ってフレンドリストを開くと、双子の欄が白く光っていて、既にこの世界に居ることを知らせてくれた。
早速予定確認のためのメールを送る。
『今ログインしたが、どこで集まるよ?』
『広場の南の方に立っていてもらえれば分かるのです‼』
『了解』
数日チャットを交わしただけで、直ぐに操作をマスターしたな。
言われた通りに広場の南の方に突っ立って暫くすると、人混みの中に居る時特有のざわめきの質が変わったような感覚と共に、双子がやって来た。
どうやらざわめきの原因は双子の持っている例の棒とそれぞれの肩に留まってる鳥のせいらしい。
「おう来たな……って、なんだその服とペット?」
「不審者さんに作ってもらったのです!後この鳥さんはレオとポリーなのです!」
「それほんとに大丈夫な奴なのか?」
大人には不味い奴等しかいないことを改めて教え込みたいが、目がキラキラと輝いている所を見るに相当祭を楽しみにしていたらしい。
水を挟むのも野暮ってもんだな。
「ただもう一つだけ聞いていいか?」
「なんでしょう?」
「その棒……明らかに勇者サマをぶっ飛ばしたあれだよな?何で今持ってんの?まさかまた何か吹っ飛ばした?」
「変な人が話しかけてきたので吹っ飛ばしたのです!」
「お前らはつくづく不審者に縁があるな……」
やはり大人は信用できねぇ!
「まぁいい、取り敢えず行くか。楽しむぞ!」
「「おー!」」
この町アイオロスはゲームとしてはスタンダードな作りをしている。
町の中央は俺達がさっきまでいた広場で、そこから四方に向かって、北は鼻につく貴族サマが住む【高級住居区】、東は市民達、所謂NPCの住処となる【通常居住区】、西は学校やら図書館やらが揃う【学術地区】、そして南の【商業地区】。
広場を中心にきれいに四等分って訳だ。
そして今回の星誕祭は南側、俺達が今いる商業地区での開催だ。
食べ物だったりくじ引きだったりを楽しんでいると、三時間はあっという間に消えていった。
日差しが少しだけ弱くなった屋台道を歩いていると、双子が何かに目を付けた。
「何か気になるモンでもあるか?」
「あの船の模型が何か光って見えます……」
「光ってる船……?」
おおよそ聞いたことのない組み合わせの言葉を聞き、レイが指差した方を見ると、
丁度片手で包めるくらいのサイズの船の模型が大量に売られている屋台があった。
だが、光ってはいない。
あいつらは二人ともそう見えているらしいので、子供スタイルのプレイヤーにだけ見える何かということなのだろうか?
「……おや、お子さん連れかい?お土産に一つどうだい?」
近づくと、売り子の婆さんが人好きのしそうな笑顔で話しかけてきた。
愛想笑いを返しつつもう一度良く模型を見てみるが、やはり光っては見えない。
「お前らにはやっぱり光って見えるのか?」
「はいなのです!」
「ふむ……お姉さん、これ三つください」
「あら達者なお口ねぇ!じゃあその口上に乗っちゃおうかしら、三つで2000ユルドね!」
2000か……割と安い、のか?
まぁ婆さんの口ぶりを鑑みるにまぁ安くしてもらったんだろうな。
そう思った方が幸せだ。
「光ってる件は気になるが……まぁ持っても何も起こらないようだし、一旦置いておいてもいいだろう。次は――――」
そこまで聞きかけた時、広場の方から鐘の音が響いた。
雑多な音の中で不思議と耳に入るその鐘を聞いた人々は、皆広場の方へと足を向け直した。
そろそろ日が落ち始めるようで、晴天の青が茜色に染まりかけている。
「何があるんだ?」
「ありゃあオークションの開始の合図さね。行ってみるといい、今回は特別珍しい物が出てくるらしいからねぇ」
なるほど、あれが合図になっていたのか。
婆さんに案内された通りに広場に向かうと、待ち合わせた場所とは反対側の北側に特大のお立ち台が立っていた。
今はダイヤみたいな宝石のオークションをやっているらしく、大仰な服を身に着けた司会が煽てるごとに客の手が挙がり1200、1250と競り上がっていく。
結局それは2400万ユルドまで釣り上がって落札された。
……というか落札したの自称勇者じゃねーか、どんだけ金持ってんだよ。
赤いうちにもうちょい奪えば良かったな。
落札した勇者が台に上がり色々とインタビューを受けているのを見ていると、双子が落ち着かないように周りを気にしていることに気づいた。
「どうした?まさかまた不審者か?」
「いえ違います。何というか、ここに居たらまずい気がするんです」
「やっぱりそれ不審者に対する第六感なんじゃねぇ?」
やいのやいのと騒いでいる内に勇者のインタビューは終わり、次の品に移ろうとしていた。
「さぁさぁお次の商品に参りましょう!今回の一番の目玉にして歴代に類を見ない逸品!これをゲットできれば王族の目にも留まること間違いなしです!さぁご覧ください‼こちらの品名は―――」
おおよそこの町のスタイルに似合わない黒服のガチムチが二人掛かりで運んで来た檻の中。
それの黒になりかけの灰色を目にした瞬間、俺は双子の目を塞ごうと動いた。
あれは、こいつらには見せるべきではないから。
「黒狼の仔です!」
まだ名前は誤魔化しが効くな、良かった。
―――と、落ち着いたのがいけなかったのだろう。
ほんの少し。
ほんの少しだけ間に合わなかった。
あいつらの白い眼にあの灰色が混ざり合って……
どの色よりも暗い黒が天も地も等しく黒く染めていった。
さっきまで灰色がいたそこには。
黒をも呑み込む
《ワールドアナウンス発令》
《『エンド√009・カタステリスモイ=アルゴ』の発動を確認しました。》
《これよりレイドクエスト、『
《勝利条件:
《敗北条件:始まりの町アイオロスの壊滅》
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