第十二話  命の脈

Side 澪


 「あのよぉ、あんまり俺を助けてくれた恩人に言いたくはないんだが……やり過ぎじゃね?」

 「そうなのです?こういう輩にはこうすればいいって先生が言っていたのです。ならきっとそれが正解なのです」

 そう言うと、レダさんの顔が少し険しくなりました。

 ……あんまりこのレダさんは好きでは無いのです。

 「あんまり大人の言うことを信じ続けるのもどうかと思うぞ?」

 「でも先生は間違ったことは言わないのです」

 「……そうか、まぁお前達の選択だからしつこくは言わないが」

 「それよりも言うべき事があると思うのです?」

 「あぁ、助けてくれてありがとな!レイ、ミオ」

 「「どういたしまして!」」

 お礼と挨拶は大事なのです!

 「――――ぉぉおおおああああぁァァァ!!!」

 あ、戻ってきたのです。

 「へぶち⁉」

 天から我らが大地へと戻ってきたレオンハートさんは、その重そうな鎧のせいでしょうか、全く跳ねることなくつぶれたカエルのように痙攣して床を舐めているのです。

 「ねぇ、何で俺は吹っ飛ばされてるの?」

 「あなたが悪だからなのです?」

 「そっかぁ……」

 そこまで言うと、レオンハートさんのは何も言わなくなり、やがて足から少しずつ白色のポリゴンとなって再び空へ舞い上がって行ったのです。

 「あれ、これ死んじゃったのです?私達やっちまったのです?」

 「いや、これあれだ。ログアウトしたときはこうなるんだよ、死んだら虹色、ログアウトは白色だ」

 良かったのです、合意の上とはいえ危うく人殺しになってしまう所だったのです。

 「えぇ……あの双子怖すぎる……」

 「というかあの勇者さんが反応できないってヤバくね……?」

 何だか周りの野次馬さん達がざわざわしていますが、よく聞こえないのです。

 何とか聞き取ってみようと意識を傾けていると、レダさんがインベントリを漁っていることに気が付きました。

 「レダさん、どうしたのです?」

 「お前らにお礼の品として渡せるものが何かないかと思ってな」

 「そんなの要らないのです。私達はレダさんに助けてもらった恩を返しただけなのですよ?それなのに、さらに恩を重ねられたら返せなくなっちゃうのです」

 人は常に対等であるべし、先生の格言なのです。

 現実の方でだって、私達は先生の手伝いをやっている位徹底しているのですから。

 「そうか、分かった。んじゃ俺も明日の準備があるからログアウトしようかね。リアルじゃもう9時半だからな」

 「わかったのです!星誕祭の時は一緒に見ましょうなのです!」

 お?レダさんの顔が少し柔らかくなったのです?

 「そうだな、一緒に行くか!んじゃあログアウト前に……ほれ、フレンド申請」

 「フレンド……友達なのです?まだ友達ではなかったのです?」

 目の前に現れた若草色の板を前に戸惑います。

 私達だけが恩人=友達だと思っていたのです……?

 「あぁいや違う、違うぞ?あくまでそのシステムがそう呼ばれてるだけだ、頼むから泣きそうな目をしないでくれ、周りの目が怖すぎるから」

 「じゃあこれはどういう機能なのです?」

 「簡単なメッセージのやり取りができたり、ログインしてるかどうかの確認ができるんだ。便利だろ?これを使って星誕祭の待ち合わせをしようと思ってな」

 それは確かに便利なのです。

 「じゃあ、やってみるのです」




 それから私達はフレンド申請とフレンドとの会話……フレンドチャットの使い方を教えてもらった後、白いポリゴンとなっていくレダさんを見送って、マーケットにやって来ました。

 相変わらず、入口の最も近い位置に陣取っている和服の人のもとに向かいます。

 「ん?あぁ、お前らか。図書館の奴らはどうだった?」

 「色を教えてもらったのです!すごくいい経験ができたのです!」

 和服の人の容姿をよく見てみると、耳がとんがっているのです。

 普通の人ではないのです?

 「そりゃ良かった!教えた甲斐があるってもんよ。それで、今回はどうした?」 

 「同じ物の買取と武具の調達場所、あとなんか面白そうな所を教えてほしいのです」

 和服の人は困ったような呆れたような顔をしました。

 「俺は情報屋じゃないんだが……」

 「でも今頼れそうな所がここしかないのです」

 「まあ分かった。とりあえず黒狼の素材買い取りから済ましてもいいか?」

 「お願いするのです。前回よりも数は落ちるのです」

 そう言って素材の量を見せると、和服の人はニッコリと笑いました。

 「いや、今の時期は行商人が各地から集まるお陰で需要が伸びてるから、前回と同じ金額で買い取ろう。あと、武器とか防具の調達なら反対側のあの姉ちゃんの所行って来い」

 指差した先には、こちらをジッと見つめる同じく和服のお姉さんが店を開いていました。

 髪飾りや着物を売っているのです。

 「あのお姉さんずっとこっち見てますけど、不味い人なのでは?」

 「いやすまん、不審者にしか見えないと思うんだけど、あいつあれでも真面目に観察してるだけなんよ」

 でも不審者なのです。

 「んで面白い所だっけ?そうだな、お前らあの図書館で何があった?」

 「色を教えてもらったのと、レオとポリーに会えたのです!」

 「レオとポリー?……あぁ、召喚獣か。ならあそこだ、図書館の隣にあるテント。あそこに行ってみろ」

 「図書館の周りにテントなんてものはなかったのですよ?」

 「まあ行ってみりゃ分かる。とりあえずはいこれ、買取分の12,000ユルドな」

 青色の板に『12,000ユルド』と書いてあるのです。

 どうやら金銭関係の取引は青色の板で表示されるようなのです。

 「ありがとうなのです」

 「おう。早くあいつの所に行ってやってくれないか?そろそろこっちを見殺してきそうなんだよ……」

 「ヒェッ……」

 妙な寒気というのはこのようなことを言うのでしょうか、首の周りが冷たい針で刺され続けているかのような感覚なのです。

 振り返ると、例の不審者さんが手招きしていました。

 私達は、和服の人に礼を告げて不審者さんの出店の前に向かいました。

 「いやーすまんなぁ、可愛い子を見るとつい目で追ってしまってなぁ」

 「やっぱり不審者さんじゃないですか」

 「いきなり評価最低やん……」

 絹の光沢を持つ、所謂チャイナ服を着た不審者さんは私の言葉にがっくりと肩を落とした後、さっきよりも心なし目が落ち着いてこう言いました。

 「先の話は聞いておったが、お主等の装備を新調したいということでええか?」

 「そうなのです、お金も溜まったので強くなりたいのです!」

 「ふーむなるほど、よー分かった。取り敢えずどの位なら出せる?」

 矢の代金を抜いて考えるとすると……

 「20,000ユルド位なのです」

 「それ、その背中に担いでる弓の矢の代金を抜いた分やろ?今回ウチに武器作らせてくれたら矢はおまけしたる。どや?悪い話やあらへんやろ?」

 随分親切ですね?やっぱりなんかいかがわしいことをしようとしているんじゃ……

 「なんやその顔、別に他意はないで?ウチは職人だからね?」

 「……分かったのです。弓と防具を作ってほしいのです、予算は22,000ユルドで」

 「お、ちょい増えた。これなら今の段階で最高の素材を使えそうやな!それじゃ、契約成立ということでええか?」

 「お願いするのです」

 差し出された手をしっかりと握り返すと、繋がれた手を白い光が瞬く間に消行き来して消えていきました。

 「今の光は何なのです⁉」

 「商談が成立した時に出てくるんや。何でも契約担当の神様が『その契約を承認しましたよー』的な感じらしいで?」

 「不思議なのです……」

 会話もそこそこに不審者さんと別れ、私達は和服の人に教えてもらった図書館の奥にあるというテントに向かいました。

 でも、不審者さんから『これをテントに届けてほしい』と包みをもらったのですが、何が入っているのでしょう?

 やけに重いのですが……。



















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レオとポリーさんの活躍はあります。決して空気ではありません。 

 


 

 




 

 

 

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